最後の”寺尾の治兵衛”には『剣客商売』の無外流・秋山小兵衛の名が登場します。
平蔵が田沼意次の下屋敷で催された試合で審判をつとめたのが秋山小兵衛なのです。
長谷川平蔵宣以をして、まれに見る名人であったと評された秋山小兵衛については、『剣客商売』を是非お読みください。
なお、平蔵は秋山小兵衛に生きていたらもう一度お目にかかりたいものだと語っていますが、確か『剣客商売』の設定だと、この頃はまだ秋山小兵衛は生きていたのではないかと思います。
すると、『鬼平犯科帳』が未完に終わらず、もしくは『剣客商売』が小兵衛の晩年まで描ききっていたのなら、平蔵と小兵衛が小説の上で相まみえる事があったかもしれません。
設定だけを考えれば、『仕掛人・藤枝梅安』もほぼ同時期の設定のため、三者が登場する可能性すらあったはずです。
こういう事を考えれば考えるほど、池波正太郎氏の逝去が残念です。
内容/あらすじ/ネタバレ
おしま金三郎
元同心・松波金三郎におしまはある事を告げる。火付盗賊改方の同心・小柳安五郎が狙われているというのだ。
松波金三郎とおしまはある事件をきっかけにして知合ったのだが、この事件が引き金となって松波金三郎は火付盗賊改方の同心の職を失ったのである。
だから、松波金三郎にとっては、おしまはあまり会いたくない相手なのである。
二度ある事は
細川峯太郎は父母の墓参りにいくのに、平蔵の許しを得てから行こうと思っていた。
というのも、墓があるのが目黒であり、細川峯太郎が前回、平蔵にひどく叱責された発端となったお長がいる方面であるからである。
平蔵の許しを得て、意気揚々と墓参りに赴く細川峯太郎だが、ついつい足はお長のいる方向へと向かってしまう。そして…
顔
高杉銀平道場に、平蔵と岸井左馬之助をしのぐ、別格の剣士・井上惣助という男がいた。平蔵は、その井上惣助を見かけた。
しかし、井上惣助は何らかのお咎めを受け、切腹したはずである。生きている井上惣助を見たからには、お上は何かの理由で切腹させたと見せかけて助けた事になる。興味をそそられる平蔵だが…
怨恨
平蔵が取り逃がした磯部の万吉が、杉井鎌之助という浪人崩れの盗賊に今里の源蔵の殺害を頼んでいる。
そのかわりに、磯部の万吉は杉井鎌之助がしてのけようとする盗めの手伝いをする事になる。
まずは、今里の源蔵を殺害する事から始めるのだが、相手は桑原の喜八という大滝の五郎蔵に情報を流す男の所に身を寄せている。
高萩の捨五郎
彦十を連れて平蔵が見回りをしている先で、彦十が高萩の捨五郎を見かける。その後をつける平蔵と彦十。途中小僧が木の上から放尿したために尿をかぶった侍が小僧を斬りつけようとする場面に遭遇する。
高萩の捨五郎は小僧を助けに飛び出し、侍に斬りつけられてしまう。平蔵が侍を蹴散らし、高萩の捨五郎を助ける。意外に高萩の捨五郎の傷は重かった。
傷を治すために高萩の捨五郎は小僧の家に運ばれた。そして、高萩の捨五郎は彦十に籠滝の太治郎という盗賊への手紙を託す。
助太刀
細井彦右衛門を見舞った後、平蔵が歩いていると、女に追いかけられている男を見かける。その男は橫川甚助という平蔵も知る剣客であった。
その橫川甚助はすでに剣客としての腕はなまっているのだが、女に敵討ちを約束していたのだった。腰を上げない橫川甚助に女が激怒して、平蔵が見た光景となったのだ。相手は市口又十郎という。
寺尾の治兵衛
大滝の五郎蔵に口合人の寺尾の治兵衛が声を掛けた。話しを聞いてみると、寺尾の治兵衛はそろそろ引退するつもりで、今度自分が頭となって最後の盗めをするつもりである事を告げる。五郎蔵にあったのを幸いに、寺尾の治兵衛は五郎蔵に助け働きを頼む。
本書について
池波正太郎
鬼平犯科帳20
文春文庫 約二九〇頁
連作短編
江戸時代
目次
おしま金三郎
二度ある事は
顔
怨恨
高萩の捨五郎
助太刀
寺尾の治兵衛
登場人物
おしま金三郎
松波金三郎…元同心
おしま
二度ある事は
細川峯太郎
市兵衛…眼鏡師
三雲の利八…盗賊
顔
井上惣助
怨恨
杉井鎌之助…盗賊
磯部の万吉…盗賊
今里の源蔵…盗賊
桑原の喜八
高萩の捨五郎
高萩の捨五郎…盗賊
籠滝の太治郎…盗賊
助太刀
橫川甚助
お峰
市口又十郎
寺尾の治兵衛
寺尾の治兵衛…口合人
佐久閒伊織