シリーズ第十六弾。最終巻。
長編とはなっていませんが、一話完結の短編集ではなく、それぞれが繋がっているため、ここでは長編として扱います。
さて、本書では新たな夫婦が誕生します。お馴染みの登場人物ですが、果たして誰なのかは本書でご確認ください。
また、本書のもう一つの楽しみは「鬼平犯科帳」で馴染みの〔五鉄〕が登場することです。
田沼意次の時代が終わりに近づき、次の松平定信の時代へと移ろうとしています。
「剣客商売」が田沼時代を舞台にしているとすれば、「鬼平犯科帳」は松平定信の時代を舞台としています。
そういう意味で、「剣客商売」の最終巻で〔五鉄〕が登場するのは、時代が移るのに伴って、次の「鬼平犯科帳」への橋渡し役的な装置として〔五鉄〕を登場させたのかも知れません。
「剣客商売」は本書をもって終了となってしまっています。作者逝去に伴うものであり、そういう意味においては”完結”した訳ではありません。
本書で度々述べられていることですが、秋山小兵衛は九十三才まで生きることになっています。つまり、物語はまだまだ続くはずだったのです。
思ってもみれば、息・秋山大治郎はようやく剣客としての商売が成り立ちはじめたばかりであり、これからの剣客です。
そして、孫の小太郎はまだ剣を握ってもいません。
このままシリーズが続けば、親子三代の剣客商売が見られたのではないかと思います。
そして、更には松平定信の時代まで生き続ける秋山小兵衛を考えれば、「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵との共演もあったかも知れません。
…想像は膨らむ一方です。
内容/あらすじ/ネタバレ
昔、門人の滝久蔵の敵討ちに立会人として決闘の場にいたときのこと。秋山小兵衛は相手の立会人・山崎勘助と対決することになった。山崎勘助は強敵であり、何とか勝ちをおさめたものの、今も生きていれば名のある剣客になっていただろう相手であった。
このときの決闘が評価され、滝久蔵は旧録にさらに加増され藩に戻ることを得た。決闘のすぐ後に現れたのは、金貸しの平松多四郎であった。この平松は強欲そうに見えるのだが、小兵衛に言わせれば顔で損をしているのである。
この様な昔のことがあって、今は…。
小兵衛が蕎麦屋で理不尽な振る舞いをしている侍をみて顔をしかめた。その侍こそ、滝久蔵だった。滝久蔵はどういうわけか、録を離れているようである。そして、ある寺に寄宿しているようである。
その姿を見にいったら、寺から出てきた男がいた。これが、山崎勘助に生き写しなのである。試みに尋ねてみると、果たして山崎勘助の息子・山崎勘之助であった。
そして、別の日には何やら薄気味の悪い金貸しの老人が同寺を訪れている。これは平松多四郎である。
それぞれが生きてきた年月が人をどのように変えていったのか…。
本書について
池波正太郎
剣客商売 浮沈
新潮文庫 約二五五頁
長編
江戸時代 田沼時代
目次
深川十万坪
暗夜襲撃
浪人・伊丹又十郎
霜夜の雨
首
霞の剣
登場人物
滝久蔵
(山崎勘助)
山崎勘之助…勘助の息子
木下主計
木下主膳
伊丹又十郎
生駒筑後守信勝
平松多四郎…金貸し
平松伊太郎…息子
お篠
神谷新左衛門