イタリアにいる時に沢木耕太郎が見た映画の場面は笑いを誘います。
さっぱりストーリーが分からなく、沢木耕太郎は「昔の仲間に脅かされて金の工面をしようとする哀れな中年男の物語」と思って映画を観ます。
しかし、「戦争で精神的に深い傷を負った中年男の荒涼たる一日を描いた物語」であったことがわかります。
主人公が中年男と言うところ以外に共通点がなく、どうやら映画館で沢木耕太郎だけがまったく違う映画を見ていたらしい、という箇所には思わず笑ってしまいました。
旅の終りに近づき、都会を歩いている内に、沢木耕太郎の中から虚脱するような退廃的な毒素が抜け落ちたように感じられます。
フランスに渡って、マルセーユからパリまでは十二時間。そこからロンドンまでは、すぐそこです。現実的な旅の終りを感じるところまで来ています。
心の何処かではもう少し旅をしてもよいのではないかと思っています。
ですが、このままでは永遠に潮時を失ってしまうという心の警告もありました。
沢木耕太郎は旅を終りにしようと考えます。彼の旅は青年期、壮年期を過ぎ、終りの見えた老年期にさしかかったのでしょう。
最後にオチが待っていますが、旅は終わったのです。
内容/あらすじ/ネタバレ
第十六章 ローマの休日
イタリアについてローマへと向かう。ローマに向かうバスの旅は楽しいものであった。ローマでは映画「ローマの休日」の舞台となったスペイン階段を訪れる。
そして、そのままヴァチカン市国へ。そこにある「ピエタ」は沢木耕太郎とほぼ同じ歳のミケランジェロが造形したことに衝撃を受けた。同時に強い感銘を受ける作品であった。
ローマではある老婦人に連絡をした。それはテヘランで磯先夫人から教えられた人であった。その人との楽しい一時も過ぎた。そして、フィレンツェ、ピサへ。
国境を越え、モナコへと入った。モナコといえばカジノである。カジノで香港のリベンジを果たそうと考えるが…
第十七章 果ての岬
フランスのマルセーユからマドリードまで一気に駆け抜けた。マドリードで過ごしたあと向かったのはポルトガルのリスボンである。リスボンはユーラシアの果てだ。
リスボンの食べ物屋で出されたビールにサグレスという土地の名前が書かれていた。聞いてみるとポルトガルの西端、つまりイベリア半島の西端にある町だった。
本当のユーラシアの果てへ沢木耕太郎は向かう。
第十八章 飛光よ、飛光よ
パリには思ったよりも長く滞在してしまった。パリで出会った若者の好意に甘えて格安で部屋を借りられたからである。パリで過ごしている内に年が替わった。そして、そろそろ行くことにしようかと思う。ロンドンへだ。
ロンドンについて電報を打ったら旅の本当の終りである。あとは日本に帰るだけである。さぁ、電報を打つために中央郵便局へ行くことにしよう…
~Fin~
本書について
沢木耕太郎
深夜特急
南ヨーロッパ・ロンドン
新潮文庫 約一九五頁(+対談四五頁)
旅の時期:1974~1975年
旅している地域 : イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、イギリス
目次
第十六章 ローマの休日
第十七章 果ての岬
第十八章 飛光よ、飛光よ
深夜特急