記事内に広告が含まれています。

酒見賢一の「墨攻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)(面白い!)

この記事は約3分で読めます。

覚書/感想/コメント

物語の始まりは墨子と公輸盤との論戦から始まります。この論戦で語られることが、物語の最後で効いてくる重要な伏線となっています。

さて、墨子は謎に包まれている思想家です。そして、その集団も謎に包まれたままです。

墨子は中国戦国時代の思想家、あるいはその著書名です。他人に奉公する刻苦勤労を旨とし、非攻の論の根拠となる兼愛説を唱えました。兼愛は一切の差別が無い愛を意味します。博愛主義的な思想を持っていたと言えます。

一方で墨子とその教団は戦闘集団でもありました。精強無比の軍団であり、戦闘、戦術の工夫に通じています。とはいえ、墨子とその教団が侵略することはありませんでした。彼らの技術が生かされるのは城邑防衛戦に限られていました。つまり、防御のプロだったのです。

ですが、この墨子教団も秦の始皇帝が中国を統一したあとに忽然と歴史から消えてしまいます。戦国時代の二百年にわたって勢力を張ってきた組織が突然消えたのです。

戦略、戦術に関しては孫子の方が有名かもしれません。それは残された書物との関係が大きくものをいっていると思われます。墨子の書物は後半部分のほとんどが見つかっていません。それゆえにますます謎に包まれることになります。

墨子教団は謎に包まれています。ですがそれ故に、作家の裁量が大きくものをいいます。また、墨子教団の活動は史実にほとんど残っていないが故に、小説のネタとしては面白いのです。酒見賢一氏が、別の人物を主人公に墨子教団の姿を描いてくれないかと思ってしまいます。

2007年にアンディ・ラウを主役として映画化されました。映画「墨攻」

(映画)墨攻(2007年)の考察と感想とあらすじは?
主人公・革離の属する墨家は中国戦国時代の諸子百家の一つで兼愛、非攻、尚賢、尚同、節用、節葬、非命、非楽、天志、明鬼を主にした思想集団である。

内容/あらすじ/ネタバレ

身なりのひどい男がやってきた。男は田襄子から派遣された革離だと名乗る。革離は墨者である。

革離は梁城の主君・梁の要請に従って派遣されてきたのである。だが、派遣されたのは一人。城のものは不安に思っている。革離が派遣された梁城は趙の軍勢二万に攻められようとしている。対する城の軍勢は千五百。

革離はこの人数で趙の軍勢相手に籠城戦を切り抜ける自信があるという。革離は墨子教団の長である田襄子の右腕と目される優秀な人物であった。

城について革離が行ったのは、城郭の確認である。革離の表情は冴えない。城郭が不完全であるのと、今回の派遣について田襄子が反対だったのを押し切ってやって来たからである。革離が一人なのは、田襄子を押し切ってやって来たためである。

革離は根っからの墨者である。墨者は頼まれれば、その地へ赴き守りのために持てる技術を注ぎ込まなければならない。田襄子と革離は意見が対立してしまったのだ。

革離は梁城を守るにあたり、城主の梁渓に全権掌握を条件とした。でなければ城守り抜くことは難しい。梁渓は革離の条件をのんだ。全権を掌握した革離は早速墨家の法によって統制し始める。

趙の軍勢が攻めてくるまでにそれ程の時間は残されていない。革離は不眠不休で梁城の防衛度を上げるための施策を施した。

攻めてくる趙の将軍は巷淹中である。

本書について

酒見賢一
墨攻
新潮文庫 約一四五頁
中国紀元前5世紀~4世紀 戦国時代

目次

墨攻

登場人物

革離
梁渓…城主
梁適…城主の息子
牛子張…大将軍
田襄子…墨子教団の長
薛併…田襄子の相談役
巷淹中…趙の将軍

映画の原作になった小説

藤沢周平「闇の歯車」の感想とあらすじは?
職人のような作品を作る事が多い藤沢周平としては、意外に派手な印象がある。だから、一度読んでしまうと、はっきりと粗筋が頭に残ってしまう。そういう意味では映像化しやすい内容だとも言える。
藤沢周平「雪明かり」の感想とあらすじは?
直木賞受賞前後の短編集。大雑把には前半が市井もので、後半が武家ものだが、中間のものは市井もの武家もの半々である。藤沢周平としては前期の作品群になる。
藤沢周平「隠し剣孤影抄」の感想とあらすじは?
それぞれの秘剣に特徴があるのが本書の魅力であろう。独創的な秘剣がそれぞれに冴えわたる。それがどのようなものなのかは、本書を是非読まれたい。特に印象的なのは、二編目の「臆病剣松風」と「宿命剣鬼走り」である。
浅田次郎の「憑神」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
幕末も幕末。大政奉還が行われた前後を舞台にしている。主人公別所彦四郎の昔らからの知り合いとして榎本釜次郎が登場する。この榎本釜次郎とは榎本武揚のことである。
井上靖の「敦煌」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

敦煌が脚光を浴びるのは、20世紀になってからである。特に注目を浴びたのは、敦煌の石窟から発見された仏典である。全部で4万点。

藤沢周平「蝉しぐれ」の感想とあらすじは?
藤沢周平の長編時代小説です。時代小説のなかでも筆頭にあげられる名著の一冊です。幼い日の淡い恋心を題材にしつつ、藩の権力闘争に翻弄される主人公の物語が一つの骨格にあります。
夢枕獏「陰陽師」第1巻」の感想とあらすじは?
ドロドロしたオカルトチックな印象はないが、不可思議な世界感の作品である。それに、闇が舞台になっていることが多いわりには、ホラーっぽくない。静かで優雅な感じすらする。
山本一力「あかね空」のあらすじと感想は?
第126回直木賞受賞作品です。永吉から見れば親子二代の、おふみから見ればおふみの父母をいれて親子三代の話です。本書あかね空ではおふみを中心に物語が進みますので、親子三代の物語と考えた方がよいでしょう。
山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
新出去定という医者は、その使命感や考え方のみならず、全体としての個性が強烈である。その新出去定がいう言葉に次のようなことがある。
司馬遼太郎の「城をとる話」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
覚書/感想/コメント昭和三十九年(1964年)に俳優・石原裕次郎氏が司馬遼太郎氏を訪ね、主演する映画の原作を頼みました。それが本作です。司馬氏は石原裕次郎氏が好きで、石原氏たっての願いを無下に断れるようではなかったようです。映画題名「城取り...
井上靖「おろしや国酔夢譚」の感想とあらすじは?(映画の原作です)
覚書/感想/コメント「序章」で大黒屋光太夫ら伊勢漂民以外のロシアに漂着した漂民を簡単に書いています。それらの漂民は日本に帰ることはかないませんでした。ですが、この小説の主人公大黒屋光太夫は日本に帰ることを得たのです。帰ることを得たのですが、...
池波正太郎「鬼平犯科帳 第6巻」の感想とあらすじは?

主立った登場人物が登場しつくし、登場人物が落ち着いてきている。本作で印象に残るのが、「大川の隠居」である。火付盗賊改方に盗っ人が入り込み、その盗っ人と平蔵の駆け引きがとても面白い作品である。

藤沢周平「竹光始末」の感想とあらすじは?
短編6作。武家ものと市井ものが織混ざった作品集である。「竹光始末」「恐妻の剣」「乱心」「遠方より来る」が武家もの、「石を抱く」「冬の終りに」が市井ものとなる。また、「竹光始末」「遠方より来る」が海坂藩を舞台にしている。
池波正太郎「雲霧仁左衛門」の感想とあらすじは?
池波正太郎の火付盗賊改方というと「鬼平犯科帳」があまりにも有名すぎますので、本書は霞んでしまう面がありますが、「鬼平犯科帳」とは異なり、長編の面白さを十分に堪能できる時代小説であり、短編の「鬼平犯科帳」とは違う魅力にあふれた作品です。
司馬遼太郎の「梟の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
司馬遼太郎氏が第42回直木三十五賞を受賞した作品です。舞台となるのは、秀吉の晩年。伊賀忍者の葛籠重蔵、風間五平、木さる。そして謎の女・小萩。それぞれの思惑が入り乱れる忍びを主人公とした小説です。
藤沢周平「隠し剣秋風抄」の感想とあらすじは?
隠し剣シリーズの第二弾。全九編の短編集。前回同様、今回も独創的な秘剣が炸裂する。さて、印象に残る短編は、「暗黒剣千鳥」「盲目剣谺返し」の二編。「盲目剣谺返し」は2006年公開の「武士の一分」の原作である。
山本兼一の「火天の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

第十一回松本清張賞。織田信長の最後の居城・安土城をつくった職人たちの物語。天主を担当した岡部又右衛門以言、岡部又兵衛以俊の親子を主人公としている。安土城は謎に包まれている城である。

宇江佐真理の「雷桜」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
江戸という都会から少しだけ離れた山里。その山里にある不思議な山という特殊な空間が、現実を忘れさせてくれる舞台となっている。そして、そこで出会うお遊と斉道というのは、まるでシンデレラ・ストーリー。
藤沢周平「時雨のあと」の感想とあらすじは?
「闇の顔」の犯人は一体誰なのか。最後までわからず、そして、その犯人が意外な人物であることに思わず唸ってしまう作品。「鱗雲」では、二人の女性の対照的な結末が印象的な作品である。
ヴァレリオ・マンフレディの「カエサルの魔剣」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
覚書/感想/コメント舞台となるのは西ローマ帝国の崩壊時。最後の皇帝ロムルス・アウグストゥスが主要な登場人物となっています。歴史にifがあるとした、冒険歴史小説です。グリーヴァのドルイド僧、マーディン・エムリース、ローマ名メリディウス・アンブ...