記事内に広告が含まれています。

宇江佐真理の「髪結い伊三次捕物余話 第3巻 さらば深川」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

この記事は約5分で読めます。

覚書/感想/コメント

シリーズ三作目。

ちょっとした表現の中にも深川の日常の生活が浮かんでくる。それは、季節の移り変わりを教えてくれる表現だったり、情景描写だったりする。相変わらず見事だ。

本作品で新たに登場する人物がいる。それぞれがとても癖がある人物である。

掏摸の直次郎。女言葉を遣い、芝居の女形か蔭間のような感じである。

それに、新たにお文の女中となるおこな。おみつとは性格が違い、だいぶすれている。

こうした新たな登場人物が物語に新たな色を加えている。

「因果堀」で不破友之進とよりを戻した伊三次。不破が畳に手をついて深々と頭を下げ、わびを入れた。そこまでされるとは思わなかった伊三次は、かえって自分の傲慢を恥じることになる。自分の意地とは不破にこういうことをさせることだったのかと。

だが、これで晴れて不破友之進の小者に戻った伊三次である。

「ただ遠い空」で、おみつがおこなの女中吟味をする場に居合わせる結果になってしまった伊三次。その居心地の悪さが手に取るようで笑えてしまう。

「護持院ヶ原」は異色。幻術を操る岸和田鏡泉と不破友之進の対決が見所。

最期に。気がつかなかったのだが、本一冊につき一つ年がとるようになっていたようだ。

内容/あらすじ/ネタバレ

因果堀

お文が紙入れを掏られた。伊三次の知り合いの掏摸・直次郎から聞いたことのある話からすると、江戸の掏摸の一味ではないようだ。掏摸は女だという。

岡っ引きの増蔵がお文を訪ねてきた。お文が掏摸にあったことを知ったのだ。だが、この日の増蔵のものの訊ね方はいつもの増蔵のものではなかった。

増蔵は伊三次が心底ありがたいと思っている男である。込み入った事情があるなら喜んで力になりたいと思っている。

その後、伊三次は掏摸の直次郎からお文を狙った女掏摸がすっ転びお絹と言われる女であることを知った。このお絹と増蔵は何やら訳ありらしい。だが、それが一体何なのかが分からなかった。

ただ遠い空

弥八とおみつの祝言が間近に迫っていた。だが、祝言が近づくにつれ、おみつの表情が浮かなくなった。お文の女中が決まっていないことを気に病んでいるのだ。その話がいつの間にか喜久壽の耳にも届いたらしい。

喜久寿が二、三ヶ月預かって欲しい子がいるというのだ。おこなというちょっと訳ありの娘だ。本来は女中の欲しいお文だがこの話を断った。

ところが、おこなが突然訪ねてきた。追い返そうとしたが、おみつが女中の吟味をするとしてお文を説得してしまう。

結局渋々おこなを女中として雇うことにしたお文であったが、おこなの抱える複雑な事情がだんだんと姿を現し始めた。

竹とんぼ、ひらりと飛べ

贔屓の材木問屋・信濃屋五兵衛の髪を結いに三日おきくらいに訪ねる。その髪結いが終わって、お文を訪ねると前日のお座敷に嫌なことがあったようで二日酔いだという。

翌日、不破の所にいくと、心中騒ぎが起きていたことを知った。その一件は片づいたが、かわりに人捜しを頼まれたという。

美濃屋のお内儀・おりうは美濃屋の一人娘で、養子を迎えて店を継ぐのが嫌で嫌でたまらなかった。それはひそかに思いを寄せていた青年がいるからだ。やがて、その青年との間に娘が生まれたが、生まれてすぐに別れさせられた。その娘を捜しているというのだ。

弥八はその娘がお文じゃないかという。どことなく面立ちが似ているという。

護持院ヶ原

霜月の江戸。秋津源之丞は町方の役人が付けているのに気がついていた。蔵前の札差の一件で疑いがかけられているのか。自分とあの札差を結びつけるものはないはずだ。

秋津源之丞は岸和田鏡泉の庇護を受ける小者である。岸和田鏡泉は本多甲斐守の御小姓組である。そして、幻術を操る。

この岸和田鏡泉の髪を結いに呼ばれたのが伊三次である。狙いを付けている通りに伊三次は上手く入り込むことが出来たのだ。

いかにして捕らえるべきか。問題はいくつかある。まずは岸和田鏡泉と秋津源之丞が本多甲斐守の家臣であること。そして、岸和田鏡泉の幻術である。

さらば深川

お文は伊勢屋忠兵衛の座敷に呼ばれた。気が重いのは伊勢屋忠兵衛がお文に思いを寄せているからである。しかも、暮れに女房を亡くしており、妨げるものがなくなっていた。案の定、伊勢屋忠兵衛が迫ってきた。だが、お文はこれを厳しくはねつけた。

この事があって少し経った頃。伊勢屋の奉公人が取り立てにやってきた。伊勢屋の報復の仕方である。

この頃、伊勢屋の名を使ったたかりが頻発している。伊勢屋等という名はごまんとある。しらみつぶしに調べているが、やがて伊勢屋忠兵衛の所にいくと、それらしい人物が浮かび上がってきた。藤助という。

本書について

宇江佐真理
さらば深川
髪結い伊三次捕物余話3
文春文庫 約三五〇頁
江戸時代

目次

因果堀
ただ遠い空
竹とんぼ、ひらりと飛べ
護持院ヶ原
さらば深川

登場人物

伊三次
お文(文吉)…深川芸者
おみつ…お文の女中
不破友之進…北町奉行定廻り同心
いなみ…不破の妻
不破龍之介…息子
増蔵…岡っ引き
正吉…下っぴき
直次郎…掏摸
信濃屋五兵衛…材木問屋
伊勢屋忠兵衛…材木仲買商

因果堀
 直次郎…掏摸
 お絹…掏摸、すっ転びお絹

ただ遠い空
 おこな
 弥兵衛

竹とんぼ、ひらりと飛べ
 おりう…美濃屋のお内儀
 茂作…駕籠屋
 おさき…茂作の娘

護持院ヶ原
 秋津源之丞
 岸和田鏡泉

さらば深川
 伊勢屋忠兵衛
 藤助