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佐伯泰英の「吉原裏同心 第7巻 枕絵」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第七弾。復権はあり得ないにもかかわらず蠢く田沼派の残党たち。その牙は老中になったばかりの松平定信の側室に向かった。

前作では幹次郎が旅に出たが、今回は汀女も一緒の旅である。同行者は番方の仙右衛門と、山口巴屋の手代から四郎兵衛会所に引っこ抜かれた宗吉。行き先は松平定信の治める白河城下。

本作で、吉原と松平定信の繋がりがより緊密なものになるのは間違いない。吉原というより松平定信と神守幹次郎との関係といった方がいいのかもしれない。

いずれにしても、松平定信は主人公の味方となるわけで、となると、敵役は最近名前すらほとんど登場していない一橋治済しかありえなくなる。

本書の翌年、天明八年(一七八八)に起きることがもとで松平定信と一橋治済が対立するからである。

十一代将軍徳川家斉は実父一橋治済を大御所待遇にしようと幕閣に持ちかける。一方で、朝廷では光格天皇が実父に太上天皇の尊号を贈ろうとして老中の松平定信と対立する尊号一件が起きていた。

この結果、一橋治済の大御所待遇もできなくなり、治済・家斉父子の怒りを買うことになる。結局、五年後の寛政五年(一七九三)に辞職。

吉原の行事。七月。

玉菊灯籠は毎年七月一日より晦日まで名妓玉菊を追悼して、茶屋の軒先に灯籠を賑々しく飾って明るく彩った。七月は他にも、七日に七夕、十二日は中之町に草市が立ち、盂蘭盆会に供える草花や飾り物が売られた。翌日十三日は盆の大紋日を前に吉原は正月以来の休みとなる。

またこの日は髪洗い日ともいい、各妓楼で一斉に洗髪を行ったという。十五日、十六日は盆中。十七日から月末までは、各茶屋が趣向を凝らした灯籠を飾った。

内容/あらすじ/ネタバレ

天明七年(一七八七)。松平定信が三十歳という若さで老中に就任し、寛政の改革に着手した。

神守幹次郎は甚吉から同じ長屋に住むおはつと所帯を持ちたいという相談を受けた。その翌日、髪結床にいったおり、主の梅五郎からかつて吉原が松平定信に禿を贈ったという話を聞いた。禿の名は蕾といったそうだ。

おはつには別れた亭主と子供がいた。亭主の名は伊作といい、名主の倅だという。亭主に愛想を尽かして別れたのだが、その亭主が別れた後、博打なぞに手を出して人足寄場にいるのだとか。甚吉はこうしたとこを知った後も、おはつと所帯を持つ決心を強くした。

神守幹次郎に四郎兵衛が旅に出ないかといってきた。御用といえば御用で、他人からの頼まれ事だという。行き先は陸奥の白河城下だそうだ。

幹次郎は身代わりの左吉を訪ね、松平定信に吉原が贈ったという禿のことを聞いた。禿は今はお香の方となり、松平定信の側室だという。

この話を聞いた後、戻ってみると、甚吉とおはつが戻ってこないという。どうやらおはつの前の亭主伊作に足止めを食っているようだ。しかも、伊作の後ろにはやくざが控えているという。

この年の玉菊灯籠が始まった。この玉菊灯籠職人の秀次が殺されて見つかった。そして秀次の家は何かを探して荒らされていた。

幹次郎は長持ちの中に隠し底を見つけた。その中には極彩色の枕絵、春画があった。描かれている男は秀次本人で、女は秀次に強引に手籠めされた様子である。番方の仙右衛門も見知っている女が何人か混じっていた。

この秀次殺しの探索は行き詰まった。

松平定信に吉原が贈った禿の蕾。本名を佐野村お香といい、松平定信が幼少の頃からの関わりのある女性だという。お香の実家が没落してお香は吉原に身売りすることになったそうだ。

このお香を狙って、田沼派の残党が松平定信の弱みをつかむために刺客を放っているという。一方、松平定信はお香を江戸の自分の手元に置いて庇護したいと考えていた。

幹次郎と汀女、番方の仙右衛門に荷物持ちの宗吉の四人が八月四日に出立した。汀女にとっては久しぶりの旅である。早速敵と思われる刺客が幹次郎の周辺に気配を漂わせてきた。刺客は六十六部のなりをしていた。

この刺客をいなしながら、幹次郎一行は白河城下へたどり着いた。そして、今後の対応をはかるために、御年寄方の吉松歌右衛門を訪ねた。

吉松歌右衛門はお香様の道中に五人の腕自慢をつけるという。だが、幹次郎があった近習の平沼平太、須川壱三郎、陣間米八、阿部真之助、彦根與助の五人は頼りない雛侍たちだった。

そして、お香を江戸に無事に届ける帰りの旅が始まった…。

本書について

佐伯泰英
枕絵 吉原裏同心7
光文社文庫 約三一〇頁
江戸時代

目次

第一章 甚吉とおはつ
第二章 からくり提灯師
第三章 火付け六十六部
第四章 五人の雛侍
第五章 身重道中

登場人物

梅五郎…梅床=床屋主
おはつ
伊作…名主の倅
勝左衛門…名主
海坊主の海ヱ門
およう…おはつの妹
秀次…玉菊灯籠職人
おせん…女髪結
助八
おそよ…茶屋瑞穂の若女将
伊右衛門…茶屋瑞穂の主
おひろ…仕出し屋伊勢喜の娘
恒五郎…灯籠職人
半五郎
お香(蕾)…松平定信側室
吉松歌右衛門…御年寄方
平沼平太
須川壱三郎
陣間米八
阿部真之助
彦根與助
蜂野万五郎…在方代官頭取
二つ段平の駄羅女
杉武源三郎信胤