覚書/感想/コメント
シリーズ第八弾。
題名のとおり、炎上する。どこが。もちろん吉原である。天明七年(一七八七)。十一月九日、暁卯刻過ぎ、吉原角町より出火、廓中残らず焼亡したという。
伏線が色々なところで張られている。
吉原流の仕来りを重んじた遊びより、深川などの岡場所での軽く遊べる場所の方が繁昌し始めていることに対して、吉原はどうしたらいいのかという幹次郎の問いに身代わりの左吉が答える。
吉原の焼けぶとりといい、吉原は火事になると景気がよくなる。それは、妓楼が浅草、本所、深川界隈の料理茶屋などを借り受け、仮宅見世で商いをする。吉原の仕来りを守れなくなるので、吉原の決まり事を一切取っ払い、割安の代金で営業を続ける。普段高嶺の花の花魁とも遊べるということで繁昌するのだそうだ。
さて、シリーズの悪役はまだ田沼意次の残党。だが、本作で松平定信との絆がより強くなった感じがある。いよいよ寛政の改革が本格的に始まり、松平定信の時代となる。
本書に出てくる酉の市は年の終わり近く。いよいよ来年は天明八年である。
松平定信と一橋治済が対決する事件が勃発する年である。
田沼意次の残党には消えてもらい、松平定信と対立する一橋治済が悪役として登場してもらいたいものだ。
内容/あらすじ/ネタバレ
神守幹次郎が香取神道流津島傳兵衛道場の朝稽古で汗を流している時、三人組が現われた。一人は猿を操る傀儡子のようであった。この者と幹次郎は対戦し、猿の頭を砕いた。三人の思惑がどこにあるのかがようと知れない訪問だった。
吉原に戻ると、大丸屋のお職をはる紅一位のところに医者が乗り込んだという。大丸屋の番頭・桃助に話を聞くと紅一位は毒を盛られたらしい。医師の見立てでは石見銀山のようである。幸い量が少なく大事に至らなかったが、これまで度々起きているという。
大丸屋の主・周太郎は大事を取り、紅一位を吉原の外で養生させることにした。だが、その矢先、紅一位が足抜けをした。
幹次郎と汀女は暇をもらって染井巣鴨に菊見に出かけた。するとそこで、播磨姫路藩に奥女中として上がっていたおせいが宿下がりできているところに出くわす。そのおせいに旗本寄合の嫡男・佐々木瑛太郎が酔った勢いで絡んだ。それを幹次郎があしらって、おせいの危難を救った。
吉原に戻ると、薄墨太夫が耳打ちをする。萩乃屋の千影が殺されたのだ。それも獣に襲われたようなあとがある。さらに、萩乃屋では帳場の金子も盗まれていいた。客に一人に例の傀儡子とおぼしき人物がいることが分かった。相手は別の猿を使っているらしい。
身代わりの左吉が例の三人を調べてくれた。三人は菊水三郎丸景恒、七懸堂骨鋒、鍬形精五郎で、七懸堂骨鋒が猿を使う。幹次郎が倒した猿は鳶造丸といい、もう一匹は羅刹というそうだ。三人は吉原か幹次郎を狙っているようだ。
三人は厄介なところに逃げ込んでいる。東叡山寛永寺円頓院御本坊だ。彼らは一体何を目論んでいるのか…。
今年も酉の市がやってくる。その事を思った時、幹次郎は嫌な予感がした。三人が吉原に仕掛けるのなら絶好の日である。
薄墨太夫から思わぬ情報がもたらされた。どうやら三人組の策動には田沼意次の残党が暗躍しているようなのだ。
幹次郎は汀女を連れてお香のところを訪ねることにした。お香を通して松平定信の耳に入れるということである。思わぬことに、お香の居宅に松平定信本人がおり、このことは直接耳に入れることが出来た。
この帰り、幹次郎らは柘植おせんとその一統に襲われた。三人組の他に別働隊がいるようだ。
新町の裏見世、三筋楼に明かりが点らない。なんと、抱えの遊女を含め皆殺しに合っていた。客として鍬形精五郎がいたという。どうやら鍬形精五郎の犯行である。
そして酉の市がいよいよ近づいてきた。
本書について
目次
第一章 人喰い猿
第二章 染井観菊
第三章 暗殺の夜
第四章 裏見世の悲劇
第五章 吉原炎上
登場人物
菊水三郎丸景恒
七懸堂骨鋒
鍬形精五郎
羅刹…猿
紅一位(おつが)
周太郎…大丸屋主
桃助…大丸屋番頭
辰巳堂庵…医師
総左衛門…梅村番頭
新八…おつがの弟
おせい
佐々木瑛太郎
千影
柘植おせん
佐久間忠志…御普請奉行
渡辺能登守…御番頭