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佐伯泰英の「交代寄合伊那衆異聞 第1巻 変化」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第一弾。

副題の「交代寄合」とは参勤交代を強いられる旗本三十四家を意味する。

舞台となるのは、直参旗本座光寺家。交代寄合衆、あるいは伊那衆と呼ばれ、禄高は千四百十三石。

交代寄合も交代寄合表御礼衆と単なる交代寄合衆にわかれる。松平家譜代系五家、旧織田・豊臣系四家、豪族系二家、旧守護大名系二家、大名の分家・一族七家が表御礼衆。那須衆四家、美濃衆三家、伊那衆三家、三河衆二家、これに準ずる二家を加えて三十四家。表御礼衆の方が格は高い。

ちなみに、伊那衆三家は座光寺家以外には、信濃阿島二千七百石知久家、信濃伊豆木千石小笠原家がある。

主人公は本宮藤之助。

本宮家は武士身分の最下級に属しており、当主が泰山神社の神職を兼ねている。この神社に許された朱印七石が本宮家の禄高。七石では当然足りないので、本宮家では神職のかたわら田畑を耕している。

藤之助は物心着いた時から、座光寺一門に伝わる信濃一傳流を叩き込まれた。師匠は陣屋家老の片桐朝和神無斎。

信濃一傳流の教えはこうだ「太刀風迅速果敢に打ち込め、一の太刀が効かずば二の太刀を、二の太刀が無益なれば三の太刀に繋げよ」

これに藤之助なりに工夫を加えた剣を遣う。

腰に差すのは、備前国から相州鎌倉に呼ばれ、鎌倉一文字派を興した助真の鍛造した一振り。刃渡り二尺六寸五分の藤源次助真だ。

主人公と副題とが今ひとつ一致しないし、シリーズとなっているので、どうなっているの?と思っていたが、ごくごく最初の方で、「ははぁ、最後はこうなって、シリーズ化になっているんだな」と予想ができる。

さて、最後の結末は予想されたもので、大して驚くものではない。驚くのは、安政の大地震とともに消えた座光寺左京為清が企むこと、そして、座光寺家に伝わる家康拝領の短刀包丁正宗の隠された秘密、そして、座光寺家代々に受け継がれてきた秘密の役目である。

さらに、さらに、藤之助が脇に差す藤源次助真の真の姿とは一体なんなのか?

内容/あらすじ/ネタバレ

安政二年(一八五五)陰暦十月。一人の若者が甲州街道を小仏峠を一気に越えていた。信濃国伊那谷にある座光寺家家臣・本宮藤之助だ。

早馬が伊那谷を何騎も駆け抜け、江戸が大地震に見舞われたことがわかっていた。安政大地震だ。陣屋家老の片桐朝和神無斎は、江戸の安否を確かめるために五人を呼んでいた。その一人が藤之助だった。

藤之助は途中で吉原が火災で燃え尽きた話などを聞いた。今は藤之助が一人で江戸を目指していた。残りの四人は途中で脱落し、藤之助の遙か後方にいるはずだ。

江戸の屋敷に着いた藤之助は屋敷に異変があることを察知した。だが、それ以上のことは分からなかった。

藤之助は陣屋家老の片桐朝和神無斎が託した書状を江戸家老の引田武兵衛に差出した。書状を読み終えた引田部兵衛は、しかと手紙を読んだといい、藤之助はこのまま江戸屋敷に奉公替えとなった。

引田部兵衛は藤之助を連れ、江戸の市中をどこかへ向かって歩いた。景色は地獄の様相を呈している。道々、武兵衛は座光寺家養子で当主の左京の吉原通いを話し、大地震があった日も吉原に行っていたという。安否は不明だ。

そして、探しに出た二人の家臣は近くの境内で斬り殺されるという事件が起きた。

問題は当主の左京の安否だけではない。座光寺家に伝わる家康拝領の短刀包丁正宗を左京が持ち出しているのだ。

二人は吉原に着いた。左京の相方は稲木楼の瀬紫という遊女である。これも生死が不明だ。座光寺家と因縁のある御用聞き巽屋左右次に藤之助の探索の手助けを頼みに来たのだ。まずは、吉原の灰燼の中に左京と瀬紫の遺体があるかを調べることにした。

吉原の仮宅を訊ね回っている時に、左京と瀬紫らしき男女が逃げるのを見たという話を聞く。だが、大地震の混乱時のこともあり、この話をすんなりとは聞けない。

だが、もし生きているのなら、遊女の瀬川は家に戻っているか連絡を取っている可能性がある。藤之助は左右次の手下・兎之助と一緒に荒川上流の三河島村に向かった。

瀬紫は生きているようで、常に一人の侍が従っている。これが左京なのかどうかは不明だ。その一方で、瀬川がいた稲木楼の地下の穴蔵からごっそりと金子が無くなっている。およそ八百両。どうやら瀬紫らが盗み出した模様である。

手がかりを失っている状況のため、藤之助は屋敷に戻り、左京の親しい遊び仲間を教えてもらった。左京の実家・品川家の家臣・露崎四郎九郎がそうだという。

露崎を引っ張り出すために、女中の文乃が手伝ってくれた。文乃は武具商・甲斐屋佑八の娘だ。番頭の篤蔵に相談して、露崎を呼び出す方策を練った。

露崎を誘い出し、あとを付ける藤之助。だが、露崎はそれを知りつつ、藤之助を引き回し、あるところで襲撃した。

座光寺家の代替りの御目見得の日取りが急遽決まった。あと八日しかない。それまでに左京と包丁正宗を屋敷に戻せるのか…。

本書について

佐伯泰英
変化 交代寄合伊那衆異聞1
講談社文庫 約三三〇頁
江戸時代

目次

第一章 初雪早走り
第二章 左京追跡
第三章 再建の槌音
第四章 北辰の剣
第五章 主殺し

登場人物

本宮藤之助
本宮定兼…父
片桐朝和神無斎…陣屋家老
引田武兵衛…江戸家老
都野新也
お列…先代の奥方
およし…女中
文乃…女中
甲斐屋佑八…武具商
篤蔵…番頭
則吉…小僧
巽屋左右次…御用聞き
兎之吉…手下
甲右衛門…稲木楼主
和平…番頭
一初…遊女
お豆
作左衛門…庄屋、瀬紫の父
板東秦兵衛…瀬紫の兄
座光寺左京為清…左京様、座光寺家当主
瀬紫(おらん)…遊女
露崎四郎九郎…品川家家臣
千葉周作
村木埜一兼連…師範
海辺の亀造…御用聞き