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風野真知雄の「大江戸定年組 第2巻 菩薩の船」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

隠居の三人が借り受けて、「初秋亭」と名づけた仕舞屋。茶室のようであるが、茶室や炉があるわけではない。ここを作った主は、茶をやらず俳諧の趣味もなかったという。ただ、笛を吹くのが好きだったという。

壁やふすまのところどころに、直径が五寸ほどの丸い小さな穴が開けられており、猫の通り穴となっている。

さらに小さな穴が、あらゆる所にあり、風が吹いた時に、笛のような音色を響かせる。

変わった家である。

さて、このシリーズは明確な時期が書かれていない。だが、登場人物などからおよその時代が分かる。前作では十返舎一九が登場し、本作では曲亭馬琴が登場する。

そして、第一話で島津の当主が登場する。この時の島津の隠居は金遣いの荒かったと書かれているので、島津重豪だろう。

また、曲亭馬琴が南総里見八犬伝を書いているとされているので、最初に書かれた時期が文化十一年(一八一四)のため、当主は息子の島津斉宣ではなく、文化六年(一八〇九)に継いだ孫の島津斉興と思われる。

そこで、このシリーズの時代は、元号で言えば文化末期、文政になるが、ヒントが少なすぎて特定できない。

第五話で、辻斬りを追いかける藤村慎三郎の倅・康四郎。ぼんやりしているところがあるかと思えば、なかなかのくせ者。深川で剣の腕が立つ者の名を記した手帖をもっているのだが、そこに、おやじの藤村慎三郎の名前も記している。

とぼけているようで、なかなかのものだ。

本書の最後に、夏木の身に異変が起きる。大丈夫か、夏木権之助!

内容/あらすじ/ネタバレ

「初秋亭」に札差の島原屋長八郎の妻・美佐と薬種問屋の赤虎屋弥助の妻・登美が訪ねてきた。美佐は元は吉原の売れっ子花魁・三国太夫である。

二人の主は秘密の会合のようなものをもっている。恐らく浮気だろう。そこで、その会合の中味と、会っている女の正体を知りたいのだという。

集まる場所は「うなじ」という店だ。以前、藤村慎三郎が北町奉行所を退く時に、別れの宴が行われた店である。その舟遊び用の店が深川にあり、そこに足繁く通っているらしい。相手の女は「うなじ」の女将ではない気がすると、二人はいう。

この頼まれ事を夏木権之助と七福仁左衛門を入れた三人でこなすことにした。仁左衛門は若い女房のおさとに子が出来たようである。

しらべると、○に十の紋、つまり薩摩藩の隠居とおぼしき人物や曲亭馬琴なども関わっていることが判明した。相手が悪すぎる。

だが、その後も調べていると、「うなじ」の女将が川にあるものを流してしまった。それを拾い上げるとおしめだった。まさか、そういうのをわざとして赤ん坊のような真似をするというではあるまいな…。だが、そういう性向はあると岡っ引きの鮫蔵はいう。まさか…。

海の牙の安治が夏風邪で倒れた。仕方なく三人は初秋亭で飲んでいた。

ここで、藤村は深川の外れ、西平野町にある森に裸の女が住んでいるという噂があるといった。その女を夏木が直接見てしまった。小助が「若さま」と名づけた猫を探しに森の中に入って偶然見たのだ。

その後、藤村はかな女が男と言い争っている場を見てしまう。男は岩井五之助という役者である。江戸歌舞伎界の名優で目千両の渾名を持つ岩井半四郎の弟子だ。かな女の男らしい。

鮫蔵が凄まじい早さで駆け抜けていった。青猫と渾名される泥棒が出たのだ。人を殺めたりしないし、たいした盗みもしない。いたずらっけもある。

投げ文があり、鳶職の三七というのが青猫だという。その三七が初秋亭にやってきて、青猫に間違われて困っているので何とかしてもらいたいという。

その三七の姿を骨董屋で見たと夏木権之助の三男・洋蔵がいう。訪ねてみると、凝った作りの根付けを持ち込んでいた。三七に聞いてみると、親方の姪でおたみという娘からあずかったのだという。だが、おたみはそんな根付けは知らないという。

七福仁左衛門が墓参りをした帰り、三人の水練仲間だった浜田の妹・久美と会った。聞いてみると、久美もなぜ浜田が腹を切ったのかが納得いっていないようである。

言われているのは、浜田は幕府の天文方に勤めている時に購入した天球儀が偽物で、埋め合わせをするために金の無心をして、それを苦にしたというものだ。

天球儀を調べてみると、工芸品としての価値は高いものであった。その天球儀の土台に開く箇所がある。そして、中には文書が隠されていた…。

辻斬りが現われている。目的が分からないだけに厄介な辻斬りである。藤村の倅・康四郎も追っている。手帖には深川で剣の腕の立つ者の名を記していた。そこに藤村慎三郎の名もあった。

海の牙でいつものように飲んでいる。ここのところ見かける老人に、梅木嘉二郎というのがいる。ある日、初秋亭に桑田観平という若者が訪ねてきて、困っているという。それは敵討ちをなされよという老人がいて、どうすればいいのか。聞いてみるとその老人は梅木嘉二郎だ。

訪ねてきた桑田観平が辻斬りに襲われた。そして、側には梅木嘉二郎がいた…。

本書について

風野真知雄
大江戸定年組2 菩薩の船
二見文庫 約二七五頁
江戸時代

目次

第一話 菩薩の船
第二話 森の女
第三話 青猫
第四話 幼なじみ
第五話 老いた剣豪

登場人物

藤村慎三郎…元北町奉行所定町回り同心
夏木権之助…旗本の隠居
七福仁左衛門…町人の隠居
加代…藤村慎三郎の女房
藤村康四郎…倅
おさと…仁左衛門の若い女房
鯉右衛門…仁左衛門の倅
志乃…夏木権之助の女房
洋蔵…夏木の三男
小助…夏木権之助の妾、深川芸者
入江かな女…俳諧の師匠
安治…「海の牙」の主
鮫蔵…深川佐賀町の岡っ引き
長助…下っ引き
菅田万之助…町回り同心
柴田半左衛門…藤村慎三郎の元同僚
美佐…島原屋長八郎の妻
登美…赤虎屋弥助の妻
「うなじ」の女将
曲亭馬琴
若さま…小助の飼っている猫
寿庵…医師
岩井五之助…役者
岩井半四郎…役者
三七…鳶職
おたみ
仙吉…鳶職
久美…浜田の妹
梅木嘉二郎
桑田観平