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宇江佐真理の「髪結い伊三次捕物余話 第7巻 雨を見たか」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第七弾。前作からの本所無頼派と八丁堀純情派の対決が続いている。じわじわと追いつめられていく本所無頼派だが、もうしばらく付き合うことになりそうだ。

前作同様に本作も伊三次の出番より、不和龍之進の出番の方が遙かに多い。「見習い同心龍之進捕物余話」といった趣だ。

その龍之進達も見習いとはいえ務め初めて一年がたった。無足から少ないとはいえ給金をもらう身分となった。そして、成長期の龍之進は背がますます高くなり、やがては父を越えそうな勢いである。

勢いといえば、龍之進の妹の茜。元気を通りすぎて、おてんば街道まっしぐらである。近い将来には不和家のみんなの頭を悩ませることであろう。

対照的なのが、伊三次の息子・伊与太。聞き分けのいい息子で、両親を初めとしてまわりの手を煩わせることがない。

性格の全く異なる茜と伊与太は大きくなったらどんな関係になるのだろう。

さて、九兵衛の髪結としての修行が始まっている。徳利を使って髷の形を整える稽古、焙烙の尻を剃って剃刀の稽古などだ。昔はこうした道具を使って技を身につけていったのかと感心してしまった。

あと、江戸の芸者について。江戸の芸者は正月中、黒紋付の裾模様の着物、献上博多の帯、稲穂の簪を挿してめでたさを表したそうだ。彩りは着物の下の緋縮緬の蹴出しだったという。

内容/あらすじ/ネタバレ

薄氷

翌日から霜月一日の芝居の顔見世興行。伊三次は不破友之進と打ち合わせをした。その帰り伊三次を呼び止める少女がいた。

そしていきなり少女は「小父さん、あたいを買って」という。少女はおよしといった。もうすぐ岡場所に売られるのだという。

伊与太を散歩に連れて行くと、不和の妻・いなみが茜を散歩させていた。二人がほんの少し話して目をそらした間に、伊与太と茜の姿が見えなくなった。

日本橋川の桟橋で伊与太は見つかったが、茜が見あたらない。伊与太のつたない口で、およしが絡んでいることが分かった。かどわかしのようだ。

行徳河岸には伝馬船が留まっている。

惜春鳥

呉服屋組合の宴でその男の顔を見るのはお文は初めてだった。佐野屋四郎兵衛という。佐野屋四郎兵衛が年増扱いをするので、お文はすっかり佐野屋が嫌いになってしまった。

不和龍之進が務めに上がってようやく一年がたった。西尾左内は無頼派の動きが心配だという。あぐりを吉原に売り飛ばそうとした所を見ても、以前とは様子が違ってきている。

目的は金になる。それに、行動する日は奉行所で何等かの行事があった日である。奉行所内に通じている奴がいるのか。左内は憶測だがというが、例繰方の梅田瀬左衛門が怪しいという。そしてその理由も述べた。

再びの座敷でお文は佐野屋四郎兵衛一家を相手にすることになった。印象の悪い相手であったが、この座敷でその印象がいい方へ変わった。その帰りにお文は怪しげな影を見た。

おれの話を聞け

尾張屋の押し込みは本所無頼派の仕業ではないと龍之進らは告げられた。確たる証拠が挙がらなかったのだ。だが、と西尾左内は自分の推理を皆に話してみた。

その西尾の姉・政江が実家に戻ってきているという。労咳を患ったらしい。龍之進が見舞いに行った時、政江の夫・滝川広之助がやってきた。広之助の両親は離縁して、新しい嫁を迎える算段をしているようだった。

龍之進は父・友之進が腰を痛めたのを幸いに、本所無頼派の一人、直弥の所へ行った。直弥は骨接ぎ医の見習いだ。
そして、尾張屋事件の下手人は不明のまま江戸は梅雨に入った。

のうぜんかずらの花咲けば

見習い同心の間ではやりの言葉があった。「香ばしい」というのと「あれは何だったのでしょう」である。六人は事ある毎にこの言葉を使っては楽しんでいた。

その日、私娼窟の手入れが行われた。見習い全員に宿直の命が下った。連れられてきた女の中に、中田屋の女中・お梅の姿を見かけて龍之進はぎょっとした。お梅は奉行所に留め置かれ、調べを受けることになった。

本日の生き方

辻斬りの噂で持ちきりだった。西尾左内の詳しい見解では長倉駒之介が養子に行った先に近いという。現場を押さえればいい。

緑川鉈五郎がそういって、長倉駒之介を見張ると言い出す。しぶしぶと龍之進も従った。長倉駒之介は吉田茂十郎の養子となっている。

見張っていると、二人連れが出てきた。果たして一人は駒之介で、もう一人は直弥だった。があろうことか、駒之介は直弥を刺して逃げた。

雨を見たか

長倉駒之介は辻斬りと直弥殺しの容疑で取り調べを受けた。

その一方で、未解決だった尾張屋の押し込み事件に変化が訪れた。猪牙舟の船頭の春吉がひょんなことでしょっぴかれた。その春吉に一時派手な時期があったのだ。尾張屋の押し込みの事件のすぐ後のことだったそうだ。

伊三次は尾張屋の押し込みで目撃された五人組のうち、船頭が二人含まれていたのではないかと思い当たった。が、伊三次はがせネタをある船頭からつかまされてしまった。ドジを踏んだ。

本書について

宇江佐真理
雨を見たか
髪結い伊三次捕物余話7
文藝春秋 約二八〇頁
江戸時代

目次

薄氷
惜春鳥
おれの話を聞け
のうぜんかずらの花咲けば
本日の生き方
雨を見たか

登場人物

伊三次
お文(文吉)…深川芸者
伊与太…息子
九兵衛…伊三次の弟子
おこな…お文の女中
不破友之進…北町奉行定廻り同心
いなみ…不破の妻
不破龍之進…息子
茜…娘
松助…中間
緑川平八郎…隠密廻り同心
緑川鉈五郎(直衛)…平八郎の息子、不破龍之進の朋輩
喜久壽…深川芸者
片岡監物…吟味方与力見習
片岡美雨
橋口譲之進…不破龍之進の朋輩
春日多聞…不破龍之進の朋輩
西尾左内…不破龍之進の朋輩
古川喜六…不破龍之進の朋輩
留蔵…岡っ引き、「松の湯」主
弥八…下っぴき
増蔵…岡っ引き
正吉…下っぴき

薄氷
 およし

惜春鳥
 佐野屋四郎兵衛
 翁屋八兵衛
 梅田瀬左衛門…例繰方

おれの話を聞け
 政江…西尾左内の姉
 滝川広之助…政江の夫

のうぜんかずらの花咲けば
 お梅
 梅田瀬左衛門…例繰方

本日の生き方
 吉田茂十郎

雨を見たか
 春吉…船頭