覚書/感想/コメント
「物語 スペインの歴史」と同様に、史実が不正確だとか、そういう純粋に学問的なところでの評価の低さではない。そもそも、本書の記述内容に関して何かを述べるほどの能力も知識も持ち合わせていない。
本書も「小説風」な面があり、ウンザリさせられる。ただし、頻度が低いのが唯一の救いである。
どうも「物語」の冠がつくと、「小説風にしていいんだ!」と喜び勇むものらしい。
学者は学者らしい文章を書けばいいのであり、その学者としての文章の中で巧拙を磨いていけばいいと思うのだが、情緒的な文章というのに余程あこがれを持つものなのだろうか。
わざわざ丁寧にも「恥ずかしながら小説みたいなものも取り入れちゃいました。テヘッ♪」みたいな断りをいれている。あきれるばかりである。
さて、カタルーニャという場合、スペインの地中海岸の北東部、フランスとの国境を接する地方を指す。
広範な自治権を有する自治州で、州都はバルセロナ。
カタルーニャの人口は、ヨーロッパでは中程度の国に匹敵するようだ。
芸術の分野ではこのカタルーニャというのはそうそうたる人物を輩出している。パブロ・ピカソなどがそうである。そして忘れてはならないのが、建築の天才・アントニ・ガウディだ。
文学の世界においても、ここは著名な作品の舞台となっている。それは内戦当時の様子を描いたジョージ・オーウェルの「カタロニア讃歌」や、ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」などであり、読まれた人もいるだろう。
カタルーニャは「国」としての条件もそろっており、独自の歴史、伝統、習慣、言語がある。
言語という面に関していえば、カタルーニャ語はラテン語の方言ではあるが、スペイン語の方言ではないという。フランス語などと並ぶラテン語から生まれた姉妹言語であり、独立した言語である。
この「国」としての条件を揃えながら、独立国家となれなかったのは、三十年戦争が影響している。
スペインが三十年戦争に首を突っ込んだとき、ポルトガルとカタルーニャは反乱を起こしたが、国際情勢を利用して独立したポルトガルとは異なり、カタルーニャは独立国家になれなかった。
そのカタルーニャも中世においては地中海を舞台に、軍事的、貿易、文化で他国を圧倒した時期があった。カタルーニャの栄光の時代である。
八世紀から十五世紀にかけてギフレ「毛むくじゃら伯」、ジャウマ「征服王」、大錬金術師リュイ、怪僧ビセン・ファレーなど、役者がそろっていた。
本書はそうしたカタルーニャの歴史を人物に視点を当てながら紹介している。なお、地理的なものを念頭に置きながら読み進めないと、どの時点から「スペイン史」と交じり始めるのかが分からなくなるので注意が必要である。
本書について
物語 カタルーニャの歴史 知られざる地中海帝国の興亡
田澤耕
中公新書 約二五〇頁
解説書
目次
まえがき
序章
1 カタルーニャの誕生
「松の巨人」と「町の巨人」
ギフレ一世、毛むくじゃら伯
「バルセロナの死んだ日」、「カタルーニャが生まれた日」
「カタルーニャ」という名称
2 栄光への助走
神の平和と休戦
ブレイ二世の後継者たち
サン・ジョルディの伝説
カタルーニャ・アラゴン連合王国誕生
暴れん坊、ペラ一世
カタルーニャの南仏政策
3 「征服王」ジャウマ一世
王子ジャウマの誕生
マリョルカ島征服
バレンシアの征服
ジャウマ一世の治世
ジャウマ一世の晩年
4 地中海の覇者
シチリア攻略
戦争の犬たち-「アルモガバルス」
『ティラン・ロ・ブラン』
ラモン・リュイ
リュイの出家
布教者リュイ
リュイの思想
カタルーニャ語の父
5 停滞、そして凋落
停滞の兆し
サルデーニャ
アルフォンス三世
ペラとペラの争い
ペラ三世の治世
ジュアン一世
バルセロナ伯家の断絶
カプスの妥協
「教会大分裂」とファラン一世
アルフォンス四世「寛大王」とナポリ王国の夢
「社会の屋台骨」と「屑」の対立
「スペイン」統一
地中海から大西洋へ
終章 その後のカタルーニャ
カスティーリャの隆盛、カタルーニャの衰退
収穫人戦争
スペイン継承戦争とカタルーニャ
ブルボン王朝下のカタルーニャ
ラナシェンサからムダルニズマへ-カタルーニャの再生
内戦とカタルーニャ
あとがき