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井川香四郎の「梟与力吟味帳 第2巻 日照り草」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

新たな登場人物として女公事師の真琴が登場。

このシリーズは吟味方与力の物語であるが、これに公事師を登場させることで、江戸時代の司法制度を浮かび上がらせようという狙いもあるようだ。

公事師(くじし)は弁護士と司法書士を合わせたような仕事である。公事とは民事のことで、出入筋と呼ばれる民事裁判のみに口出しでき、吟味筋という刑事裁判は取り扱うことが出来ない。もっとも、吟味方与力に許されると吟味筋にも関わることが出来たようだ。

公事宿は公許で営まれる。幕府は公的な地位を与えた上で事件や訴訟に携わらせていた。

この公事宿は馬喰町に多かった。

馬喰町四丁目にかつて関東郡代の屋敷があり、関東郡代は関東八カ国の貢税や民政を取り扱っていた。文化三年に廃止となり、御用屋敷と改められた。

現代に比べて荒い取り調べをやっていたのではないかと思ってしまうのが、江戸時代の司法制度であるが、町奉行所の吟味は手抜かりやっているものである。

まず、半年以内に結論を出すという不文律はあるものの、細かい調べを行う。結果として死刑に相当すると判断された場合は、町奉行一人では決済できず、老中へあげ、将軍からの印可を受けなければいけなかった。

こうした江戸時代の司法制度に関しては解説書もあるので一度読まれると良いだろう。テレビや映画とは違った「本当」の姿というものが見えてくるはずである。

主人公・藤堂逸馬の信条は「摂取不捨」。一生懸命生きている人間を、阿弥陀如来はひとりぼっちにしない。見捨てないという仏の教えである。

最後に。

奥右筆になってから一年もたたずに、毛利源之丞八助は奥右筆から勘定吟味方改役に「左遷」された。

本人が左遷と思っているだけで、周りは「栄転」だと考える。それもそのはずだ。勘定吟味方改役は、幕府の財政を握っている勘定奉行もびびる役職だからだ。

内容/あらすじ/ネタバレ

第一話 日照り草

北町奉行所前で若い女が正座をしていた。そこを藤堂逸馬が通った。女は三日前から藤堂に会いたいと訪ねてきていたのだ。

女は馬喰町四丁目の公事宿「叶屋」の主人・真琴といった。

真琴は藤堂が小伝馬町送りにした呉服問屋「相州屋」の手代勘吉の無実を訴えに来たのだ。

その事件なら単純だ。お圭という水茶屋「花菖蒲」で働いていた女が殺された事件で、定町廻り同心の原田健吾から届けられたものであった。

真琴は事実が違っていると主張してきた。

真琴の言い分では、勘吉がお圭の待っている部屋に行った時には死んでいたかも知れないというのだ。

そして、勘吉もそうだったと、自白を翻した。

真琴は無実の罪を晴らすための証人達を集め、藤堂逸馬に話を聞いてもらうために来てもらった。お白洲では恐縮して話せないだろうからという配慮だ。

証人の内、浪人の岩村右太兵衛がかなり重要な証言を述べた。そしてその裏付けがなされた。浮かび上がってきたのが、南町奉行所の隠密廻り同心・松崎主水だった。

松崎主水は古鉄の売買の調べをしていたようである。そして殺されたお圭が古鉄と関わっていた可能性があるのも判明した。

第二話 籾は死なず

「叶屋」に百姓娘二人が現われた。「叶屋」の番頭梅吉が話を聞いた。娘はおたみとおさとという姉妹だった。下総芳賀村の庄屋・和兵衛の娘だ。

一月ほど前に代官の田村晋之助が廻村中に崖崩れで死んだという。葬儀が終わってしばらくすると、代官は殺されたのではないかと噂が立った。

死因をもう一度きちんと調べて欲しいのだという。

梅吉は藤堂逸馬にこの一件を頼み込んだ。

数日前に佐和膳でいつもの三人が飲んでいる時に、代官の田村の事故死が話題になっていた。田村は珍しい名代官として幕府内でも結構知られていた。

死んだ田村から鑑札をもらって十手を預かっている赤木の熊蔵という男がある。二足のわらじを履いていた男で、八州廻りの清藤桑兵衛に罪を問われて追放されたという。

その熊蔵が時々江戸に来ているのだという。行く先は勘定奉行の役宅だ。田村の使いではないという。

それにと、梅吉は声を潜めて言う。勘定奉行からかなりの金をもらい、江戸でも秘密の賭場を開いているという。逸馬は早速この賭場に踏み込んだ。

真琴は下総芳賀村にいった。死んだ田村はどんなことがあっても八州廻りのいいなりにはならなかったという。そのため随分にらまれていた。やがて、逸馬は田村の死の裏に潜む真相にたどり着いた。

第三話 月傾きぬ

若い男が湯島御台所町の「万世屋」という料理問屋に現われた。男は寄場奉行・牧野典膳の中間・兼助であった。

兼助は「万世屋」の女将・おかねが別れた亭主との間の子供だった。おかねは突然現われた兼助に驚き、お金を渡して二度とあらわれないでくれと頼んだ。

人足寄場から白鷺の権左という上州一帯で知られた渡世人が逃げ出した。原田健吾が調べていくと、人足寄場の役人が何人か関わっているふしがあることがわかった。

面倒なのは寄場奉行の牧野が雇っている中間の兼助の姿が消えたことであった。

その頃、兼助は四谷大木戸近くの町医者・清堂の屋敷に潜んでいた。白鷺の権左も一緒である。清堂は権左の右腕である。

兼助が再び「万世屋」にあらわれた。今度は百両で縁を切ってやるとおかねにいった。兼助はこの時おかねがどう返答するのかに一つの期待を抱いていた。

第四話 悪人狩り

毛利源之丞八助が青ざめた顔で一風堂に飛び込んできた。八助は「公事方御定書」に加わった文言のことを話した。藤堂逸馬と武田信三郎は驚いた。

それは悪いことをしそうなものを見たらしょっ引いていいという「悪人狩り」というべきものだった。

原田健吾によって一人の若者が捕らえられてきた。本石町十軒店の銀平という。銀平は破落戸ばかりが集まる危ない本所三笠町をうろついていた。

銀平が人を殺したと、南町奉行所定町廻り筆頭同心・影山兵庫助が藤堂逸馬に言いに来た。殺しの吟味を一切南町でやるので横槍を入れないでくれというのだ。

この影山が銀平の取り調べをしている所に、真琴が現われた。影山にしてみれば嫌な相手が来たことになる。何せ真琴のうしろには町年寄がいるという噂があるからだ。

銀平は三笠町の裏の裏を知っているようだ。それを表沙汰にしてしまうと、親兄弟も殺される。だから黙っているのだと真琴はにらんでいた。果たしてそうだった。

本所三笠町の主と言われているのは「葛西の善五郎」といい、青の館とよばれる屋敷に籠っているそうだ。

内容/あらすじ/ネタバレ

井川香四郎
梟与力吟味帳2 日照り草
講談社文庫 約三一〇頁

目次

第一話 日照り草
第二話 籾は死なず
第三話 月傾きぬ
第四話 悪人狩り

登場人物

藤堂逸馬…北町奉行所吟味方与力、梟与力
武田信三郎…寺社奉行吟味物調役支配取次役
毛利源之丞八助…奥祐筆仕置係
真琴…公事宿「叶屋」の主人
梅吉…「叶屋」番頭
仙人(宮宅又兵衛)…一風堂の師匠
茜…女先生
左吉…一風堂の生徒
佐和…佐和膳の女将
原田健吾…北町同心
遠山金四郎…北町奉行
大河原…年番方与力
鳥居耀蔵…南町奉行
秋山平右衛門…内与力
大条綱照…奥祐筆筆頭
勘吉…呉服問屋「相州屋」手代
おつる…勘吉の姉
お圭…水茶屋の女
吉兵衛…船宿の主人
お勝…「花菖蒲」の女将
岩村右太兵衛…浪人
松崎主水…南町奉行所の隠密廻り同心
浜屋の甚五郎
おたみ
おさと
田村晋之助…代官
赤木の熊蔵…十手持ち
清藤桑兵衛…八州廻り
黛主計頭…勘定奉行
おかね…「万世屋」の女将
おくみ…「万世屋」の娘
清吉…おくみの許婚
兼助…おかねの子
白鷺の権左…渡世人
清堂…町医者
鮫蔵
銀平
影山兵庫助…南町奉行所定町廻り筆頭同心
葛西の善五郎
粂八…岡っ引き