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鳥羽亮の「はぐれ長屋の用心棒 第1巻 華町源九郎 江戸暦」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第一弾。天保年間が舞台のようだが、明確な年は分からない。また、基本的に一話完結なので、このシリーズはどこから読んでもかまわない。

主人公は華町源九郎、五十五歳。隠居の身で、鏡新明智流の遣い手。

鏡新明智流は桃井八郎が開いた流派。桃井八郎は士学館を開き、その後桃井春蔵が二代目を継ぎ、南八丁堀大富町蜊(あさり)河岸に道場を移す。

後継者は桃井春蔵を名乗り、源九郎が入門したのは四代目桃井春蔵直正のときであるとされる。

千葉周作の玄武館、斎藤弥九郎の練兵館とともに江戸三大道場と呼ばれた。それぞれを評して「技の千葉、力の斎藤、位の桃井」と言われた人気の流派である。

華町源九郎と並んでもう一人剣の達人が登場する。菅井紋太夫四十八歳だ。

田宮流居合の遣い手である。

田宮流居合は、江戸時代初期に林崎夢想流・林崎甚助重信の門弟・田宮平兵衛重政が開いた居合術の流派。ふつうの刀よりも柄が二寸(六センチほど)長い長柄刀と呼ばれる刀を用いるのが特徴である。

この二人に研師の茂次と元岡っ引きの孫六の四人が組んで物語が進む。

今回華町源九郎らが巻き込まれるのは旗本のお家騒動。ミステリーに強い作者らしく、全容がなかなか明らかにされない。

全容が明らかになるまでに華町源九郎らには度々ピンチが訪れる。そして、冴え渡る剣の技。チャンバラシーンの迫力はさすがである。

だが、華町源九郎も、いかんせん歳である。体力が続かなく、窮地に追い込まれる…。同じように菅井紋太夫も窮地に追い込まれる。

絶対的な強さを誇るスーパーヒーロー剣豪ものではないところも、このシリーズの魅力のひとつだろう。

内容/あらすじ/ネタバレ

伝兵衛店という名だが、界隈でははぐれ長屋と呼ばれる長屋。

華町源九郎と菅井紋太夫が将棋を指している。菅井は肩まで伸びた総髪が、こけている頬に垂れ、陰気な顔をよけいに暗く見せている。

四十八歳、生まれながらの牢人だ。両国広小路で居合抜きを見せる大道芸で糊口をしのいでいる。

源九郎は五十五歳。貧乏御家人だったが、倅が嫁をもらったのを機に家督を譲って家を出た。背丈は五尺七寸ほど。丸顔ですこし垂れ目である。

研師で二十六歳になる茂次が堅川に土左衛門が上がったといってきた。簀巻きにされたという。殺人だ。源九郎と菅井は見に行くことにした。

それにしても、なぜ堅川に放り込んだのか。そばには大川があるというのに。

翌朝、同じ場所を通りかかると男の子が立っていた。五、六歳のようだ。源九郎は気になって男の子に声をかけた。すると「ここで、藤八郎が死んだ…」という。どうやら昨日の死骸の身内らしい。

名を訪ねると、かぶりを振って答えようとしない。困り果てた源九郎は男の子を長屋に連れ帰ることにした。

源九郎らは飲み屋の亀楽で孫六を待っていた。孫六は還暦を過ぎた年寄だが、もとは腕利きの岡っ引きだった。孫六に男の子のことを調べてもらうつもりなのだ。

孫六も含めて、源九郎と菅井、茂次が男の子のことを調べ始めてすぐ、源九郎の前に二人の男が現われた。藤八郎を調べている源九郎を脅し、「吉松」の行方を気にしている。男の子は吉松というらしい。

だが、男二人の誤算は源九郎の剣の腕だった。源九郎は凄腕の鏡新明智流の使い手だったのだ。

長屋に戻ると吉松の所に女が訪ねてきたという。吉松の母が来たようだ。母の名は千鶴。袱紗包みがおかれており、中には小判二十枚と吉松を守ってくれという趣旨の手紙が入っていた。どうやら千鶴は源九郎を知った上で頼んでいるようである。

小判の二十枚は菅井と茂次、孫六の四人で分けることにした。以前にも同じようにしたことがあった。

菅井紋太夫はいつものように居合抜きを見せる大道芸をしていた。菅井は田宮流居合の達者だ。

その菅井を四、五人の地まわり風体の男たちが囲んだ。藤八郎を調べている菅井を怪しんで、始末するように頼まれたらしい。

千鶴のことが分かってきた。浜嘉という料理屋で女中をしていたらしい。源九郎と孫六が直接浜嘉に乗り込んで話を聞くことにした。そして分かったのはどうやら千鶴の相手は大身の旗本のようだということであった。

その帰り、源九郎の前に神道無念流を名乗る男が現われた。凄腕である…。

浜嘉では四人の武士が座していた。平戸壮右衛門という武士が上座に座っている。脇には笹間九左衛門、矢沢友三郎が仕えている。そしてもう一人。深尾惣八郎という牢人がいる。

孫六が詳しい話を聞き込んできた。どうやら千鶴は高輪の屋敷にいたらしい。源九郎は孫六と一緒にその屋敷を探しに行くことにした。

それを見届けるようにして、笹間と矢沢らが吉松の拐かしを企んでいた。茂次と長屋の連中の機転で今回は上手く撃退することができた。

その頃、源九郎と孫六は目当ての屋敷を見つけていた。久瀬京之助。五千石の大身旗本で、一年ほど前までは幕府の御留守居役の要職についていた。

詳しく聞いている内に、久瀬京之助が病のため、家督を譲りたがり、そこに実弟である平戸壮右衛門が入り込んできた。

だが、京之助に吉松という隠し子がいることが分かり、これを認知すれば久瀬家に迎えられるため、平戸壮右衛門は謀略をめぐらせ始めたのだ。つまり源九郎らはお家騒動に巻き込まれていたのだ。

平戸壮右衛門のめぐらせた謀略の全容は?そして、吉松を源九郎に託して姿を消している千鶴はどこに?さらにさらに、吉松の行く末は!?

華町源九郎はこのお家騒動に一体どのような決着をつけるというのか??

本書について

鳥羽亮
はぐれ長屋の用心棒1
華町源九郎 江戸暦
双葉文庫 約二八五頁
江戸時代

目次

第一章 はぐれ長屋
第二章 出自
第三章 海辺の屋敷
第四章 千鶴
第五章 相対死
第六章 再会

登場人物

華町源九郎
菅井紋太夫
茂次…研師
孫六…元岡っ引き
お熊…長屋の住人
元造…飲み屋「亀楽」の主
おみよ…孫六の娘
吉松
藤八郎…故人
千鶴…吉松の母
平戸壮右衛門
笹間九左衛門
矢沢友三郎
深尾惣八郎
利吉
仁助
お政…浜嘉の女将
久瀬京之助
お妙…妻
彦坂八郎兵衛
武井勘兵衛
泉如…尼
俊之介…華町源九郎の倅
君枝…俊之介の嫁
新太郎…俊之介の息子