覚書/感想/コメント
シリーズ五弾。華町源九郎らにおとずれる最大のピンチ!
ことの発端は、茂次の幼馴染みが賭場の借金に連れ去られたことだ。茂次が連れ去られたお梅を取り戻そうと奮闘するが、相手が悪かった…。
今回スポットが当たるのが茂次だ。
茂次は十二歳の時に研屋の奉公に出た。本来は刀槍を研ぐ研師だったが師匠と喧嘩して弟子入りした研ぎ屋を飛び出し、いまは路地や長屋を回って包丁、鋏、小刀などを研いでいる。
茂次が生まれたのは浅草黒船町の長屋。大川と千住街道に挟まれた町で、材木町に近い。父親は鋸の目立屋をしていた。茂次には直吉という兄がおり、直吉が父親の仕事を継いだ。
今回の事件をきっかけに、南町奉行所定廻り同心・村上彦四郎と口をきくようになる。これまでも村上彦四郎の姿はシリーズの中で登場したが、これでようやく今後も絡んでいく人物となるようだ。
それと、前作から登場している岡っ引きの栄造。これまで孫六が元岡っ引きということで、なんとなく岡っ引きの役は孫六が引き受けていた感じだが、現役の岡っ引きも登場することによって、ちゃんとした岡っ引きの仕事は栄造が受け持つことになりそうだ。孫六は長屋の岡っ引きとして活躍していくことになるのだろう。
この二人が「はぐれ長屋の用心棒」たちと町方をつなぐ存在となっていくようである。
さて、深川の遊女は子供と呼ばれた。子供は低級な女郎である伏玉と高級な遊女である呼出に分れている。
最後に、源九郎の倅・俊之介のところに二人目の子供が生まれた。女の子だ。
内容/あらすじ/ネタバレ
茂次が研ぎの仕事をしていると、女の悲鳴が聞こえた。悲鳴は小さな瀬戸物屋から聞こえてくる。女は茂次の幼馴染みのお梅だった。今回の騒動はお梅の父親の甚作が賭場で借金をしたことによるそうだ。
翌日、また男たちがお梅を連れて行こうとした。茂次が再び立ちはだかろうとしたが、逆に匕首で腹部をえぐられた。ただ、深い傷ではなかった。
長屋では茂次が血まみれで帰ってきたから大騒ぎとなった。華町源九郎らがいくら問いただしても、つまらないいざこざに巻き込まれて、と言葉を濁す。
孫六が調べることでおよその事情が飲み込めた。お梅が連れ去られたこともわかり、それを岡っ引きの千次が追いかけていることも分かった。だが、この千次が殺された。
千次の下っ引きの文治に話を聞きに行くと、どうやら千次を殺したのが相撲の五平のようなのだ。江戸の町方なら名を知らぬ者はいない。相手が悪いのかも知れない…。
華町源九郎、菅井紋太夫、茂次、孫六、三太夫の五人はお梅の行方を捜すことにした。相手が相撲の五平なら、深川の遊廓に遊女としておかれているか、妾として囲っているかだろう。だが、行方がようとしてつかめないでいる。
源九郎と孫六は岡っ引きの栄造を訪ねた。すると、この三ヶ月ほど、お梅と同じように借金のかたに取られた娘が二人いるという。調べればさらに大勢いるだろう。だが、五平は捕まえるのが難しいという。
八丁堀の旦那の何人かは五平から賄賂をもらっている。それに賭場は表向き別の人間が仕切っていることにさせ、手下も一部しかおいていない。殺し屋も三人雇っているようだ。
殺し屋の内二人の名は分かっている。片山弥七郎という牢人と、佐倉の宗助というすばしっこいやつだ。
相撲の五平に連れて行かれた娘の一人お春が殺された。伊那屋の重蔵の娘だ。
その伊那屋を訪ねた帰り、源九郎は相撲の五平にあい、五平から今回の件から身を引けと脅された。そして、源九郎が茂次といる時に二人組に襲われることとなる。
そうした脅しにも屈せず、探索をつづけ、どうやらお梅が清滝という五平の息のかかった店にいることが分かった。清滝の裏の二階屋にいるらしい。そこに茂次は忍び込んで、お梅の姿を確認した。
源九郎と茂次の部屋が七人の遊び人風の男たちにめちゃめちゃにされた。五平一家との戦いが本格化しようとしている。もはやお梅を連れ戻しただけでは決着が付かない。
源九郎は栄造に相談を持ちかけ、町方と手を組んで、五平一味をつぶすしかないと踏んだ。五平のやり口に苦しめられていた店も多く、この一件を説いて回ると三百両ほどが集まった。
これをつかって他の岡っ引きたちを説得することにした。それと、南町奉行所の定廻り同心・村上彦四郎も味方に引き入れることにした。
三人の殺し屋の最後の一人の名が分かった。重谷弾正という。
五平一味の攻勢が続く。引き入れたはずの岡っ引きたちがどんどん抜けていく。汚い脅しをかけているようだ。
こうなると、五平の捕縛どころか、こちらが皆殺しにされかねない。源九郎はまず、殺し屋の三人を討たねばならぬと感じていた。
追い打ちをかけるように、長屋を五平一味が襲い、長屋の連中も源九郎たちに白い目を向けるようになってきた。そして菅井まで襲われた。いよいよ追いつめられていた…。
本書について
鳥羽亮
はぐれ長屋の用心棒5
深川袖しぐれ
双葉文庫 約二八〇頁
江戸時代
目次
第一章 幼馴染み
第二章 相撲の五平
第三章 長屋の騒動
第四章 攻防
第五章 離脱
第六章 決戦
登場人物
華町源九郎
菅井紋太夫
茂次…研師
孫六…元岡っ引き
三太郎…砂絵描き
お吟…浜乃屋女あるじ
お梅…茂次の幼馴染み
甚作…お梅の父親
お熊…長屋の住人、助造の女房
元造…飲み屋「亀楽」の主
おみよ…孫六の娘
吾助…浜乃屋の板前
庄太…長屋の子供
栄造…岡っ引き
お勝…栄造の女房
村上彦四郎…南町奉行所定廻り同心
千次…岡っ引き
文治…下っ引き
相撲の五平
片山弥七郎…牢人
佐倉の宗助
重谷弾正
寅吉
平十
松五郎