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畠中恵の「しゃばけ 第2巻 ぬしさまへ」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第二弾。短編集。今日も元気に若旦那は寝込んでいます♪

「ぬしさまへ」「栄吉の菓子」「四布の布団」では若旦那こと一太郎の推理が冴える。一風変わっているのが、このシリーズの魅力だろう。

前作に絡むのが「空のビードロ」。とてもしんみりとした泣ける話だ。

一太郎の腹違いの兄・松之助が奉公していた桶屋東屋での出来事を書いている。最後の方で前作と絡む部分が出てくる。あわせて読むと面白いだろう。

松之助は奉公先で決して恵まれた境遇にいたわけではない。この松之助なら決して一太郎を裏切るようなことはしないだろうと思う。

畠中恵氏が普通の人情ものも書けることを示した短編だと思う。この短編集の中ではこれが一番良かった。

「仁吉の思い人」は仁吉の失恋話を題材にしている。妖の寿命は長く、話の発端となるのは千年前の平安時代

仁吉が好きな相手も妖であるが、この相手には好きな人間がいる。だから、自分よりも先に死んでしまう。だが、時を経ると再び思いの相手は生まれ変わって、互いにすぐに相手のことがわかる。それが何度も続くのだ。

その間、仁吉はずっと相手に片思い。

さて、仁吉が好きでいる相手の妖の恋は千年を経て成就する。そして、生まれたのが…。というお話。

千年の恋の物語である。

「虹を見し事」は面白い構成になっている。ふたつの出来事が同時進行で一太郎に降りかかる。一体何と何が絡み合っていたのかがわかるのは最後の最後。少々後味の悪さが残る短編だった。

とまれ、時代小説の一つの面白さは短編にあると思っているので、とても楽しく読めた一冊だった。

内容/あらすじ/ネタバレ

ぬしさまへ

冬。

三度目の大熱を出して寝込んだ若旦那の一太郎は暇をもてあましていた。その一太郎の今回の気晴らしは、手代・仁吉の袂に入っていた文である。だが、この文はひどい金釘流でよく読めない。その時、半鐘が鳴った…。

日限の親分が仁吉を名指しでやってきた。先ほどの火事で人殺しがあったのだという。殺されたのは小間物商天野屋の一人娘で、おくめという。おくめは一昨日仁吉に懸想文を渡したことが知れていた。それで親分はやってきたのだ。

三春屋の栄吉、お春兄妹が一太郎の見舞いに来た。お春がおくめの話をしたので一太郎は妖たちにおくめの事を聞き回らせた。すると評判が真っ二つに割れることがわかった。

そして、一太郎は事の真相を突き止めていた。

栄吉の菓子

栄吉の作った菓子を食べて隠居が死んだという。死んだ隠居は九兵衛という一人暮らしの小金持ちだ。だが、栄吉はすぐに犯人ではないことがわかった。栄吉が作った饅頭の半分を犬が食べて何ともなかったからだ。

だが、一度こういう事態になり栄吉はしばらく一太郎の所に居候することになった。

九兵衛は博打好きの元臥煙で、富くじに当って茶屋を買ったのだという。そして九兵衛には金食い虫と本人が呼んでいた連中がいた。全部で四人。お加代に次助、竹造、お品だ。この四人の中に犯人がいるのか?

九兵衛の家に植わっているのは毒草ばかりということもわかった。しかも、植えさせたのは九兵衛自身だという。一体これは何を意味しているのか?

空のビードロ

桶屋東屋の店先に猫の首が落とされた。犬猫殺しが続いていたが、今回のように首が落とされたのは始めてだ。

東屋を支えているのは番頭の徳右衛門と噂されて久しい。松之助は八つの時から働いて、二十歳になっている。だが次の奉公人も来ないため、手代にもなれず小僧のままだ。

また猫が殺された。これに松之助が使っているもので縛られていたから松之助が疑われた。だが、東屋の娘おりんが助け船を出してくれた。
これを跡取り息子の与吉が面白くなく思っていた。そして与吉の松之助を見張る日が始まる。

ある日松之助は見慣れぬ駕籠の近くでビードロを拾った。そして戻ってみると、番頭の徳之助が庖丁を握りしめて与吉と向かい合っている。徳之助の手が真っ赤に濡れている。徳之助が犬猫殺しの犯人だったのだ。

後日、松之助はおりんが最近自分に優しかった理由がわかり愕然とした。松之助が長崎屋が外で産ませた子であることを知っていたのだ。おりんは一太郎に近づく手段として松之助を利用しようとしていたのだ。

松之助は東屋を辞めることにした。その日、火事が起き、東屋も燃やしてしまった。

松之助は新しい奉公先を探さなくてはならなくなり、迷った挙句、長崎屋を目指した…。

四布の布団

若い女の泣き声が聞こえる。一太郎の周りにいる妖達にも見えない相手だという。それが一太郎の布団であると見破ったのは屏風のぞきだった。

田原屋が間違って持ってきた布団だったようだ。

田原屋に布団の件で出かけた。心配した一太郎も一緒に行ったが、田原屋の主人・松次郎の大声に具合が悪くなってしまう。

その介抱のために別の部屋に行こうとした所、その部屋には男が一人頭を血に染めて死んでいた。

死んでいたのは通い番頭の喜平。どこで死んだのかもわからないと日限の親分は言う。妖達はそんなのは簡単にわかると言う。だが、妖達が調べてきた結果、死場所は四箇所にのぼり、殴った道具はないという。かえって判じ物が増えてしまった。

仁吉の思い人

夏の猛暑もすぎたが、一太郎の夏ばては半端ではない。薬を飲んだら仁吉の失恋話をすると佐助が言いだして、興味を持った一太郎はがんばって薬を飲んだ。

千年も前の話。仁吉の好きな相手は妖だという。平安時代、その人は吉野どのと呼ばれていた。この吉野を振り向かせたのは一人の公達だった。男は吉野の真の姿を知っても気持ちを揺るがすことはなかった。

男は銀の鈴を吉野におくり、それを合図に逢瀬を重ねていた。「鈴君」は三十路にならないうちに身罷った。

三百年後、鈴君は武家の姿で伊勢に暮らしていた。この時も吉野は鈴をもらった。また吉野は一人になり、二百五十年後、南北朝の時代に三度目の出会いの奇蹟があった。

時は移り、徳川の時代になった。今から百年ほど前。お吉と名を変えていた吉野の前に男が現われた。鈴の音がする。もしかして鈴君が現われたのか?

男は寒紅売りの弥七と名乗った。だが、今回に限ってお吉ははっきりと鈴君と見分けられないでいる。一体なぜだ?

虹を見し事

今日はいつもと勝手が違う。佐助や仁吉、皆も顔を出さない。こんな不思議なことはない。

廻船問屋の方に顔を出すと、兄の松之助がいる。だが、佐助はいなかった。ここには赤い蒔絵の櫛がよく似合う女中のおまきがいる。それを松之助の目が器用に追っていた。

妖達を見なくなって三日。佐助と仁吉はいたが、二人はどこまでも真っ当になってしまっており、気味が悪い。

あることがあってから一太郎は、誰かの夢の中にいるのだと確信した。早い所、誰の夢なのかを確かめなければならない。一太郎は該当しなそうな人物を次々と消していった。そして残ったのが松之助とおまきだった。このどちらなのだろうか?だが、そうだとしても、時折感じる薄気味悪さは一体何なのだろう?

本書について

畠中恵
しゃばけ2 ぬしさまへ
新潮文庫 約三一〇頁
江戸時代

目次

ぬしさまへ
栄吉の菓子
空のビードロ
四布の布団
仁吉の思い人
虹を見し事

登場人物

一太郎(若だんな)
仁吉(白沢)
佐助(犬神)
おたえ…一太郎の母
藤兵衛…一太郎の父
松之助…一太郎の兄
おくま…女中
栄吉…一太郎の幼馴染み、三春屋の倅
お春…栄吉の妹
屏風のぞき…付喪神
鳴家…小鬼、妖
野寺坊…妖
獺…妖
濡女…妖
ふらり火…妖
大禿…妖
見越の入道…妖
皮衣(ぎん)…一太郎の祖母
清七…日限の親分、岡っ引き
正吾…下っ引き
源信…一太郎掛かり付けの医者
おくめ…小間物商天野屋の娘
おさき…天野屋の女中
九兵衛…隠居
お加代
次助
竹造
お品
庄三郎…植木屋
松之助…一太郎の兄
お染…桶屋東屋のおかみ
おりん…娘
与吉…息子
徳次郎…番頭
佐平…手代
松次郎…田原屋の主人
お千絵…田原屋のおかみ
喜平…通い番頭
お梅
吉野(お吉)
鈴君
弥七…寒紅売り
おまき…女中
暗紅…妖