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南條範夫の「上杉謙信」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

上杉謙信が父・長尾為景を失ってから、啄木鳥戦法で有名な川中島の合戦までを描いた小説。

比較的短い小説であり、最初に上杉謙信を読まれる方には良いかもしれない。

生涯不犯で有名な上杉謙信だが、この小説では阿由女という女性を登場させ、若き上杉謙信に恋の色を付けている。

戦に生涯をかけた鬼神というよりは、普通に色恋に悩む青年謙信の姿がそこにはある。恋とはいってもプラトニックなものである。だが、この恋というのは決してハッピーなものではない。

戦塵一色にしてしまうと殺伐としすぎる感があるのだろうか。上杉謙信を描いた海音寺潮五郎氏の「天と地と」の設定にも本書と似たようなものがある。

両者を読み比べてみると面白いかもしれない。

内容/あらすじ/ネタバレ

曹洞宗の禅院林泉寺にいる景虎のところに父為景の家臣・本庄新左衛門がやってきて、為景が死んだと告げた。為景は六十五才だった。縁の薄い親子ではあった。

兄・春景は武装している。上条定憲の残党が攻め寄せるというのだ。

果たして、為景の死が知れ渡ると、近郷の諸将が叛乱を企て始めた。景虎十三才の時である。

景虎は栃尾の本庄慶秀の所へ落ちていった。

戦意をなくしていた晴景は十四才の景虎に奪われた春日山を奪還するように頼んだ。

長尾俊景が景虎のいる栃尾城に迫ってきた。本庄慶秀と宇佐美定行が景虎の側にいる。景虎は栃尾に本拠を置いて精力的に戦った。そして春日山の奪取に成功する。

日々に景虎の人気は上昇していった。これを楽しまないのは兄の晴景である。

天正十六年。景虎は兄・晴景に話さなければならないことがあり、春日山へ向かった。晴景が藤紫という京から呼んだ女にうつつを抜かしているのに苦言を呈するつもりなのだ。

ここで景虎は藤紫の妹・阿由女に出会う。十八才になった景虎は、こんなにも美しい乙女がいたのかと思った。

景虎が帰ると、藤紫はあらゆる悪知恵をしぼって晴景の心に毒を注いだ。

長尾政景が晴景を訪ねてきた。政景は長尾家の支族で、魚沼郡坂戸城主である。二人の共謀で景虎を討とうという話が進み、この噂が広まっていった。景虎はこれを笑い飛ばしていたが、ことが本当だとしれると茫然としてしまった。兄と戦う気はないのだ。

だが、景虎は重臣らに説き伏せられ、兄・晴景と対決することになる。

長尾政景は坂戸城へ逃げ、晴景は上杉定実に調停を申し入れ隠居することになった。景虎が長尾の家督を継ぐことになった。

藤紫はこの騒動の中で長尾政景の所へ逃げていったようだ。阿由女も一緒だという。

長尾政景は景虎に戦意を燃やしていた。側にいる藤紫もあおる。

この政景の所に景虎の使者がやってきて、景虎が政景に会いたいという。政景は景虎に会い、その人柄に感服してしまい、景虎の姉を娶ることになった。

天正二十一年。京から勅使がやってきた。官位の叙任を受け、景虎は京へ御礼に行こうと考えた。

途中の諸大名は景虎の通過を許した。長い戦国の世の中で他に例のないことであった。

景虎には一つの希望があった。京に来れば藤紫と一緒に姿を消した阿由女に会えるのではないか。

京に滞在中の景虎の元に急使がやってきた。武田信玄に敗れた村上義清が春日山に亡命してきたのだ。

景虎は越後に帰り、義清に対する信義のため、武田信玄と戦うことを決めた。景虎は私益のためには戦わない。筋目を立てるために、人に力を貸すのだ。

第一回目の川中島合戦の火蓋が切られた。

和田喜兵衛と鬼小島弥太郎の二人は景虎が関東への出陣を考えていることを知り、小田原へ密行して敵情を探るために無断で越後を出発した。

この小田原で二人は阿由女と出会う。阿由女を連れ二人は越後へ帰ろうとしたが、途中で阿由女が病に倒れてしまう。

阿由女の世話は和田喜兵衛に頼み、鬼小島弥太郎は景虎の元に戻り、顛末を話した。そして、景虎は関東へ出陣した。

阿由女と再会した景虎は、阿由女を春日山へ送り、自身は小田原城を包囲した。だが、城を落すことはできなかった。

この包囲の中、景虎は鎌倉へ行き、関東管領の職を継いだ。上杉の家名を継ぎ、名も輝虎とかえた。

陣中に武田家の進出と、越後西部が脅かされている書面が届き、輝虎は急遽春日山へ戻ることになった。

春日山には阿由女が待っている。だが…。

本書について

南條範夫
上杉謙信
光文社文庫 約二二〇頁

目次

第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
第六章
第七章
第八章
第九章
第十章
第十一章
第十二章

登場人物

上杉謙信(長尾景虎)
鬼小島弥太郎
和田喜兵衛
本庄慶秀
宇佐美定行
本庄新左衛門
長尾晴景…謙信の兄
棚倉備中守
佐与原掃部
藤紫
阿由女…藤紫の妹
長尾政景
上杉定実