鬼平シリーズ初の長編です。
長谷川平蔵宣以の妻・久栄の心配りが心に染み入る一場面があります。
佐嶋忠介の心には、的が絞りきれない上に、探索も遅々としているから、焦りが生まれ、疲労がたまってきていました。
そこに久栄が現れて、「お茶をひとつ…」と言って去っていきます。
あっけにとられる佐嶋ですが、茶わんにはなみなみと酒が注がれていました。
佐嶋忠介が大酒飲みであることを知る者はあまりいません。
市中が静穏で非番の日には日中からのみはじめて夜に入るまで、三升ほども飲みあげてしまうことがあるようです。
そのことを知っている久栄の心配りなのです。
流石の佐嶋も、久栄の心配りに心を打たれ、涙をこぼします。
こういう久栄が平蔵を支えているのですから、部下たる与力・同心も平蔵夫婦のもと一生懸命になるのでしょう。
内容/あらすじ/ネタバレ
平蔵がうなされていた。半年前、平蔵と対峙した遣い手の剣に翻弄されてしまう平蔵なのだ。夢から覚めると、平蔵への報告が来る。それは、同心が殺されたというものであった。
平蔵は殺された同心の検分に向かい、切り傷を見た。その切り傷から、半年前の遣い手が頭をよぎる。その時、遣い手がつかった剣筋による切り傷に似ているのである。そして、日を置かずまた同心が殺された。明らかな火付盗賊改方に対する挑戦である。
平蔵は、半年前の遣い手が、恩師・高杉銀平から聞いた剣客の話とよく似ていることを思い出していた。高木銀平はその剣客と牛久沼で対戦したのは思い出した。ただ、その剣客がどこの出身だったのかを思い出せないのだ。何とか思い出そうと努力する平蔵だが…。
とりあえず、平蔵は岸井左馬之助に頼んで、牛久に赴いてもらうことにした。何か手がかりがつかめるかもしれない。左馬之助が出発した後、平野屋源助が、鍵師の助次郎を見たことを平蔵に報告する。助次郎は常陸の藤代に向かったらしい。牛久と藤代は近い。何かの繋がりがあるのか?
本書について
池波正太郎
鬼平犯科帳15
特別長編 雲竜剣
文春文庫 約三五〇頁
長編
江戸時代
目次
赤い月
剣客医者
闇
流れ星
急変の日
落ち鱸
秋天清々
登場人物
堀本伯道…剣客、医者
助次郎…鍵師
忠八…鰻売り
彦兵衛…尾張屋下男
平野屋源助…密偵
吉田藤七…同心
岸井左馬之助
政七…御用聞き
辰蔵