覚書/感想/コメント
シリーズ第十四弾
政次としほの祝言も無事に終わり、宗五郎の肩の荷が下りで隠居然とした様子に手下たちが心配を始める。政次をはじめとして手下たちは、まだまだ金座裏九代目の宗五郎を隠居させようとは思っちゃいない。
政次が活躍する事件と、宗五郎が活躍する事件と、大体半々くらいである。
それぞれの事件への取り組み方が違っているところも見どころだろう。
さて、今回は起きる事件の数が多い。それぞれが大捕物のはずなのだが、いくつもあるので、小粒な印象を受けてしまう。
まっ、政次としほの祝言が終わり、何となくほっとした感じもあるので、これはこれでいいか。
最近は政次としほばかりに焦点が当たっているので、次作からは他の面々にも久々にスポットが当たりそうな気がしている。いずれにしても次作からは新しい展開が待っているだろう。
内容/あらすじ/ネタバレ
享和元年(一八〇一)三月六日。宗五郎は菊小僧を膝に抱いて煙管をふかしていた。金座裏も九代を重ね、十代目の政次のお披露目も終わり、しほも嫁に来てくれた。宗五郎も四十一を迎え晩年期を迎えようとしていた。
その様子を政次と下っぴきの髪結新三が見ていた。
髪を結い終えた政次はしほと一緒に挨拶回りに出かけるところだ。その途中、日本橋の上で男女三人組の掏り一味を捕まえた。
捕まえたのは櫓下のおかるらである。その様子を遠くで見ている老人がいた。宗匠頭巾に長羽織を着ている。それをしほが注視していた。
折よく亮吉らが駆け付け、おかるらを引き渡した。その足で、政次としほは松坂屋の松六を訪ねた。
政次としほは北町奉行所を訪ねた。
吟味方与力の今泉修太郎が櫓下のおかるの後ろには大きな組織が介在しているようだと告げた。頭目は宗匠と呼ばれているそうだ。
しほが宗匠の風体をした老人を見たことをいい、似顔絵を描いた。
北町奉行所を辞し、川越藩鄭に寄った帰り道、宗匠が政次としほの前に姿を現した。宗匠は朝尊寺秋月と名乗った。
北町定廻り同心の寺坂毅一郎が金座裏に来ている。政次はおかるを解き放ち、泳がせてはどうかと提案した。
翌日、江戸の瓦版には、政次が女掏りを間違えて捕まえるとの文字が躍った。
だが、解き放たれたおかるの後ろを政次ら金座裏の面々がつけていた。
吟味方与力の今泉修太郎が金座裏にあらわれた。
今泉家は寄合旗本米倉播磨守に出入りしている。その嫡男・由良之助が放蕩で困っているという。米倉家は中奥小姓衆の推挙を内々に受けたばかりである。何としてでも由良之助の放蕩を改めなければならない。
この一件は、宗五郎が買って出た。米倉家の用人・伊東喜作、それに修太郎の父・今泉宥之進の三人でなんとかするつもりだ。
宗五郎はなぜ由良之助が放蕩するようになったのかを用人の伊東喜作に尋ねた。すると、三、四年前に行儀見習いで奉公にあがったおれきという娘を実家に帰させたのが原因ではないかという。
宗五郎はおれきを見ようと考え、彦四郎の漕ぐ猪牙舟で牛込改代町に向かった。
果たして宗五郎の予感通りおれきが動き出した。向かった先は浅草奥山である。訪ねる先は閻魔の達五郎親分のところである。
浅草奥山の騒ぎから七日後。
米倉由良之助は政次と一緒に直心影流神谷丈右衛門道場で稽古を始めた。
米倉家も落ち着くところで落ち着きそうである。
この日、手先たちが金座裏に戻ってきても、亮吉は戻ってこなかった。むじな長屋に母親の見舞いに立ち寄っているのだ。
だが、それは口実で、お菊の様子を見に行っているのだ。お菊が苦界に身を売るって話が持ち込まれたからだ。
江戸橋際の船宿玉藤の女将・こいねが金座裏を訪ねてきた。
一年ほど前から顔を見せる隠居の客がいる。亀戸天満宮の料理茶屋加賀梅の隠居・正右衛門である。今回は孫娘のおたかを連れてきている。姉娘に婿を迎えるために祝言の品々を買いに来たのだ。
それが昨夜戻ってこず、そうこうしている間に小間物屋や呉服屋などから品物が届き、精算をしてくれといってきた。
こいねが持ってきたのは正右衛門から預かっている金子だが、政次はそれを開き贋金であると言い切った。挙句の果て、頼んだ品々は皆偽物である。どこかで上手く掏りかえられたのだ。
込み入った騙しの手口だ。
政次は加賀梅を訪ねた。当代の八左衛門に似顔絵を見せると、叔父の寛次郎に似ているという。寛次郎は祖父が外に産ませた子である。
寛次郎の母は行徳の塩浜出身のようだ。
亮吉は相変わらずお菊のことで奔走しているようだ。だが、金座裏の面々は後ろで宗五郎が糸を操っているのではないかと考えている。お菊は板橋宿に売られることになったようだ。
その頃、宗五郎は板橋宿の仁左親分のところにいた。そこに亮吉が飛び込んできた。
お菊が身売りする曖昧宿を仕切っているのは上州の黒保根村生まれの参次という男である。曖昧宿の他に賭場も開いているらしい。
宗五郎は隠居の格好をして亮吉とともに賭場に乗り込んだ。壺を振っているのは才賀のお一という女である。お一は宗五郎のことを見知っているようだった。
旧暦三月。鎌倉河岸の八重桜も満開に開いた。
政次が戻ってくると、鉄砲町の革足袋問屋の美濃屋が一家心中したという。油まで巻いて火を付け、自死したようだ。焼死体が四体見つかり、主の源次郎、つねよ、娘婿の誠吉朗、おさくであろうと推測された。
商いは繁盛しているとは言い難かったが、心中するほどのことははなかったという。娘婿の誠吉朗の唯一の楽しみが将棋であったそうで、それ以外は判を押したような毎日を過ごしている。
本書について
佐伯泰英
隠居宗五郎
鎌倉河岸捕物控14
ハルキ文庫 約三二〇頁
江戸時代
目次
第一話 挨拶回り
第二話 菓子屋の娘
第三話 漆の輝き
第四話 涙の握り飯
第五話 婿養子
登場人物
政次…金座裏の十代目
しほ(志穂)…政次の許婚
亮吉…宗五郎の手先
彦四郎…船宿綱定の船頭
宗五郎…金座裏の九代目親分
おみつ…女房
八百亀…金座裏の番頭格
常丸…手先
髪結いの新三…手先
菊小僧…仔猫
清蔵…豊島屋の主人
庄太…小僧
繁三…駕籠屋
梅吉…駕籠屋
松六…松坂屋隠居
おえい
由左衛門…松坂屋の当代
静谷理一郎
園村辰一郎
田崎九郎太
松平大和守直恒…川越藩主
お篠の方
神谷丈右衛門…直心影流神谷道場
永塚小夜
小田切直年…北町奉行
寺坂毅一郎…北町奉行所定廻り同心
猫村重平…北町奉行所手付同心
牧野勝五郎…北町奉行所与力
今泉修太郎…北町奉行吟味方与力
今泉宥之進…修太郎の父
櫓下のおかる
宗匠(朝尊寺秋月)
米倉由良之助
菊乃…由良之助の母
伊東喜作…用人
おれき
宮部嘉門
閻魔の達五郎
お菊
こいね…玉藤の女将
正右衛門(寛次郎)
おたか
勇吉…船頭
忠太郎…輪島屋の主
八左衛門…加賀梅の当代
仁左親分
参次
才賀のお一
誠吉朗
松之助