覚書/感想/コメント
シリーズ第三十弾。
侘助とは小さな椿の一種。茶人に好まれ、侘と数寄、茶道の心得から名前が来ている。
今回の主人公は磐音というよりはでぶ軍鶏こと重富利次郎である。父・百太郎と一緒に土佐に向かった利次郎が、高知で様々な事件に巻き込まれていくと同時に、成長していく姿が描かれている。
ここに一つの恋模様が…。
それは、江戸を発つ前からのことであるが、利次郎の中に少しずつ芽生えたものであり、相手の方も意識しているというものである。その相手とは、霧子である。この二人、どうなるのか。
同じ恋模様でも、成就したのが品川柳次郎だ。椎葉お有との祝言を控えている。磐音とおこんは二人の仲人となることになった。
最近はスポットの当たることの多い重富利次郎だが、忘れてはならないのはライバルの痩せ軍鶏こと松平辰平。
一体、今頃はどこでどのような修業をしているのだろうか?そして、どれだけ逞しくなったのだろうか?
二人の軍鶏が旅で成長している中、尚武館に新しい頼もしい人物が加わることになった。
富田天信正流槍折れの小田平助。飄々とした人物だが、棒術の腕は磐音と玲圓のお墨付きという凄腕だ。
新たに加わった人物の他に、武左衛門の娘・早苗も剣術の修業を始めようとしている。尚武館に霧子の他に新たに女流剣士が誕生するのか?
前回騒がせた丸目喜左衛門高継と歌女はなりを潜めている。
だが、今回の物語の終盤でチラリと名前の田沼意次の息子・田沼意知の名前が出た。
いよいよ、物語は佳境へと入っていく。
内容/あらすじ/ネタバレ
師走も近い土佐。重富利次郎は土佐藩山内家近習目付である父・百太郎に従って高知城下に到着した。
近習目付とは藩主山内家の近習衆を密かに監視する役目である。
安永七年(一七七八)の師走前のことであった。藩主は九代目の豊雍である。
土佐藩は享保十二年(一七二七)に大火事が起き、享保十七年(一七三二)に害虫発生で稲が壊滅し、厳しい藩財政を強いられていた。
今、土佐藩には重富の分家・重富為次郎邸がある。近習目付の重富百太郎が土佐に戻ってきたということは、江戸と高知が絡む不正不審があってのことと思われた。
土佐では半財政を立て直すと称して商人らと結託し、よからぬことを考えるものが出ているらしい。匿名の訴え状もあるという。
利次郎は従兄弟の寛二郎に伴われて追手門筋にある教授館に向かった。その朝、道場に居たのは玲圓が添え状をしたためてくれた麻田勘次忠好だった。
利次郎は早速、腕試しをさせられた。相手は同年代の瀬降伸助、三井玄之丞、池平四郎、草薙徳左衛門、稲葉安吉である。
この中で、稲葉安吉は地下浪人と呼ばれる下士である。土佐藩は他藩に見られないような身分格差の強い藩である。利次郎は稲葉安吉の目に暗いものを見た。
他の者たちは利次郎と同じ次男・三男坊であった。
利次郎は小者の治助と父・百太郎を迎えに出た。その時、六、七人の面体を頭巾で隠したものたちに囲まれた。
三人までを斬った利次郎の前に助けが現れた。小監察の深作逸三郎だ。百太郎は早速深作らと談合することにした。
江戸に「例年とおりちん餅仕候」の看板が立つと、師走気分が高まる。
尚武館では餅搗きが始まっていた。伊予大洲藩加藤家六万石の御先手方の富永水豊が張り切っている。
そこに武芸者が現れた。富田天信正流槍折れの小田平助と名乗った。白山がすぐに心を開いた人物であるということは、無垢の心の持ち主であった。
小田は尚武館の長屋に寝泊まりすることになった。
金兵衛が風邪をひいた。佐々木磐音とおこんはさっそく見舞いに向かった。
金兵衛長屋に浪人夫婦が引っ越してきていた。権造親分からの紹介だという。浪人は神無刀流憑神幻々斎と名乗った。
今津屋を訪ねると、由蔵が三人の男達とにらみ合っていた。男達は本物の天秤を持ち込み、金を貸せと言っている。
このいざこざを片づけた帰り。磐音は品川柳次郎から椎葉お有tの祝言の仲人になってほしいと頼まれる。
磐音は何年かぶりに富岡八幡宮前でやくざと金貸しの二枚看板を掲げる権造親分の家の前に立った。憑神幻々斎の事を聞くためだ。
憑神の女房は病で倒れている。憑神は治療する金子を求めて荒稼ぎの仕事を探しているらしい。そして憑神が見つけた仕事とは博打の駒札になることだった。それは水戸藩の抱え屋敷で行われている闘剣士同士の戦いであった。
土佐の利次郎から手紙が届いた。
利次郎は分家の嫡男真太郎に誘われて「かつお会」に出た。そこで利次郎は磐音から見聞きした豊後関前藩の藩政改革の話をした。
そして、この席で、先日利次郎らを襲った者たちが分家深浦家の広小路組ではないかということが分かった。
分家深浦家とは佐川深浦家の出で深浦帯刀という人物で、藩政に対する功績もある人物であった。
高知城内での交渉の結果、深浦帯刀らが捕縛された。だが、それを認めようとしない広小路組は漆会所に立て籠もって徹底抗戦の構えである。
江戸の尚武館道場に井筒遼次郎が住み込み門弟として長屋に入った。また、新たに豊後関前藩から籐子慈助、磯村海蔵、田神紋次郎が入門した。
本書について
佐伯泰英
侘助ノ白
居眠り磐音 江戸双紙30
双葉文庫 約三二〇頁
目次
第一章 斬り合い
第二章 餅搗き芸
第三章 闘剣士
第四章 桂浜の宴
第五章 漆会所の戦い
登場人物
佐々木磐音
おこん…磐音の妻
佐々木玲圓道永…養父、師匠、直心影流
おえい…玲圓の妻
(佐々木道場関係)
依田鐘四郎…師範
重富利次郎…通称・でぶ軍鶏
霧子
田丸輝信
曽我慶一郎
早苗…竹村武左衛門の長女
白山…犬
季助…老門番
井筒遼次郎
籐子慈助
磯村海蔵
田神紋次郎
富永水豊
小田平助…富田天信正流槍折れ
重富百太郎…利次郎の父
治助…小者
重富為次郎…利次郎の叔父
重富真太郎…利次郎の従兄
重富寛二郎…利次郎の従兄弟
お桂…利次郎の従姉妹
お敏…利次郎の叔母
(土佐藩関係)
麻田勘次忠好
美濃部与三郎
瀬降伸助
三井玄之丞
池平四郎
草薙徳左衛門
稲葉安吉…地下浪人
久徳直利(台八)
深作逸三郎…小監察
佐野彦兵衛…町奉行
村野敏種
深浦帯刀
東光寺無門
(幕府、南町奉行所関係)
速水左近…御側御用取次
笹塚孫一…年番方与力
木下一郎太…定廻り同心
(今津屋、品川家、竹村家など)
品川柳次郎
幾代…柳次郎の母
竹村武左衛門
金兵衛…おこんの父親
由蔵…番頭
石田養軒…医師
俊平…見習い医師
権造親分
五郎蔵
憑神幻々斎…神無刀流