覚書/感想/コメント
シリーズ第1弾。
第18回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
ライトノベル風のファンタジー。
唐の玄宗皇帝の時代を舞台とし、ニート青年と美少女仙人の旅物語。
内容/あらすじ/ネタバレ
光州無隷県の県令だった王弁の父・王滔は老後と十分裕福に暮らせるだけの金品をため込み、さっさと引退して趣味に励んでいた。
武韋の禍と言われる政治の混乱期を経て李隆基を頂点に抱いた大唐帝国は二度目の全盛期を迎えようとしていた。
王弁は父が築き上げた財産の総額が、無為に百まで生きたとしてもおつりがくるだけの金額であることを知ってしまった。その日から、机を離れ、武具を持つことはなくなった。
王弁が光州の酒家で老人の話を聞いてから十日がたった。
ぼんやりと寝そべり、腹が減れば飯を食うという毎日を過ごす息子に業を煮やしたのが父だった。
父は王弁に、自分と一緒に神仙の道を究めてみないかと言い出した。黄土山を知っているだろうという。そこに仙人が住んでいるというのだ。
そんなあほな。
その仙人のところに供物を持って行ってもらいたいというのだ。無為徒食で養ってくれる人間の指図は多少は聞くものだ。
王弁が見たのは、まだ十代の半ばにしか見えない少女のものだった。
両家の子女といった風情でもなく、楚々としてもいなければ、嬌としているわけでもない。
姓は僕、名も僕と名乗ったのが仙人だった。
僕僕は長い時間王弁を見て、仙骨はなさそうだといった。仙人になるには仙骨が必要なのだが、それはないという。
だが、仙縁はありそうだという。仙人に近づける資格が生まれつき持っているということらしい。
王弁が父に仙人が来宅することを告げると、王弁がとりなしたことを悔やみたくなるほど喜んだ。仙人を見てその力の一端でも自分のものにできないかと恋い焦がれるように思っていたのだ。
僕僕と王弁は長安に行くことになった。
開元三年(七一五)。玄宗皇帝が中心に座る都に二人が立った。
向かった先は司馬承禎の家。字は子微。またの名を白雲子という。則天武后など三代の皇帝に招聘された道士だという。
僕僕は北へ向かうという。
司馬承禎が飲んだ時に言っていた。探すものはいまのところ北にいるらしい。
晋陽の街には騎馬民族の姿が散見された。
そこで得た駒は一駈け数万里だというが、王弁にはまもなく世を去ってしまう老馬の哀れさを感じていた。
だが、この馬・吉良はやはり素晴らしい駒だった。
吉良に乗ってどれだけの距離を走り、どれだけの時間を走ったのかはわからないが、吉良はいつの間にか地面を走っていた。
ようやくついたという。
目指すものがすぐそこにいるという。
布団にくるみ込まれたような感触に戸惑っていると、それは体から離れ、奇妙な姿をあらわした。
帝江という。世界を作った神の一人だという。二人が話している間に、散歩をすることにした。帝江が混沌には気を付けろといった。
混沌と思しき黒い影が王弁の前にいる。吉良はその腹の中にいる。
王弁も中に入った。そして吉良に出会った。吉良も帝江に話しかけられたときのように頭の中で声がした。
吉良は以前に暗闇の中にのみ込まれたことがあるのだという。飲み込まれて数百年間さまよったと話した…。
気が付いたら、混沌の姿はなく、僕僕の膝に乗せられていた。
いやな匂いがする。僕僕は言った。
山東道に向かうという。
僕僕たちが山東道に向かおうとしていたころ、同じく山東道の異変に注目している男がいた。兵部尚書、姚崇という男だ。
前年に続いて山東地方を襲ったのはイナゴの大群だった。規模は前年の比較にならない。
玄宗は姚崇から報告を聞いてほっとしていた。
河南、河北、山東をおそったイナゴの害は大きかったものの、壊滅的というものではなかった。
秋、王弁は軽い病人なら自分で診察し、薬を調合できるまでになっていた。
僕僕の評判は上がり、連日黄土山麓には市が立つほどの盛況ぶりだ。
僕僕を捕まえにやってきた。
だが、光州から早馬で知らされた事件はすぐに玄宗の知るところになり、命じた。
黄土山にある僕僕の庵を仙堂観と名付け、王弁を通真先生と呼称を与えて保護するように、と。
五年が経った。
僕僕が王弁の前に現れた。再び旅の予感がした…。
本書について
仁木英之
僕僕先生1
新潮文庫 約三四〇頁
目次
一
二
三
四
五
六
七
八
九
十
十一
十二
登場人物
王弁
王滔…王弁の父
僕僕…仙人
嫦娥…月の女王
第狸奴
河伯
吉良…馬
帝江
混沌
李休光…光州の刺史
黄従翰…光州別駕
司馬承禎、子微、白雲子
玄宗皇帝…李隆基
姚崇…兵部尚書
王方平