「人のためにもならず、…(中略)、およそ酔狂なやつでなくてはしそうにないことを、やりたかったのだ。」そして、いい加減な計画と、いい加減な持ち物だけで出発した青年・沢木耕太郎二十六歳。
本書は現在も影響力のある旅行・紀行書の一つです。
沢木耕太郎独特の乾いた文章で綴られる本書は、余計な感情の記述がなく、淡々と語られているにもかかわらず、その土地の空気、湿気や臭いというものを感じさせてくれます。
この点が、本書の最大の魅力でしょう。
さて、旅行記・紀行記の場合、作者が旅をした時期(年月)がとても重要です。
なぜなら、その時の政治状況や社会状況によって、現在とはまるっきり異なる状況である場合があるからです。
つまり、旅行記や紀行記に憧れて旅行に出たのはよいですが、イメージと全く異なっているという事が多々起きます。
旅行記や紀行記は、ある時期のある場所を想起させたり懐かしんだりするのにはとてもよい本です。
そして、それが当時の時代の空気を的確に捉えているのであれば、尚更良い本と言えるでしょう。
時代の雰囲気を伝えるということとは別に、旅行記や紀行記には人を惹きつけるもう一つの要因があります。
それは作者の旅行のスタイルです。本シリーズ「深夜特急」は沢木耕太郎の旅のスタイルが多くの人を強く惹きつけました。
本書の旅のスタイルに惹きつけられて旅に出た人は一体どれくらいいるのでしょうか…。
内容/あらすじ/ネタバレ
第一章 朝の光
デリーにいる沢木耕太郎。日本を出発してから既に半年になろうとしていた。机にある一円硬貨までかき集め、千五百ドルのトラベラーズ・チェックと四百ドルの現金を作ると、すべての仕事を放擲して旅に出たのだ。
デリーでのある日、沢木耕太郎が見たものは、心の底から驚き、狼狽させるものであった。朝起きた時の、同宿の若者の目が背筋が冷たくなるほど虚ろだったのである。これは早く出発しなければ自分も遠からず彼と同じようになってしまうと感じる。
さあ、デリーからロンドンまで乗り合いバスで行けるところまで行こう。
第二章 黄金宮殿
デリーからロンドンまで乗り合いバスで行くというのがこの旅のささやかな主題である。その旅において東南アジアは意味のある土地ではない。しかし、チケットは二カ所もストップオーバーできる。これは何処かによらなければもったいない。そこで、チケットを東京-香港-バンコク-デリーにした。
そして最初についたのが香港である。この香港での滞在は2・3日のつもりだったが、ずるずると居座ることになる。その時の滞在先がゴールデン・パレス・ゲストハウスという宿屋であった。この宿屋、一種の連れ込み宿のようであった。ここを根城にしての香港散策は沢木耕太郎を興奮させたのである。
第三章 賽の踊り
香港を出て一時間もするとマカオに着く。そこは博奕の街。
博奕場にはごく普通の市民もかなり参加していた。その中で沢木耕太郎の気を惹いたのが大小(タイスウ)である。この大小を眺めている内に自分が賭けるつもりになっていることに気が付き沢木耕太郎はびっくりした。そもそも、博奕に類することはパチンコを少しやる以外は一切興味がなかったからである。
しかし、ここは博奕の街。沢木耕太郎は賽の目に魅入られてしまった。
⇒深夜特急 第2巻(タイ、マレーシア、シンガポール)に続きます。
本書について
沢木耕太郎
深夜特急
香港・マカオ
新潮文庫 約二〇五頁(+対談三〇頁)
旅の時期:1974~1975年
旅している地域 : 香港、マカオ
目次
第一章 朝の光
第二章 黄金宮殿
第三章 賽の踊り
深夜特急