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海音寺潮五郎の「剣と笛」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

バラエティに富んだ短編集である。

「剣と笛」は幸田露伴の晩年の作、「雪たたき」を発端とした作品である。幸田露伴の「雪たたき」の出典は足利季世記の一章「雪たたき」である。この足利季世記の一章「雪たたき」の前後を含めて小説化したのが、この短編である。

「大聖寺伽羅」では、「武士の意気地というものを思い知られましたか」という海音寺潮五郎の解釈に頷けるものがある。もっとも、このコメントでは、何を言っているのかは分からないかもしれない。

是非とも本作を読んで頂きたい。その上でこのコメントを読めば言いたいことが分かるでしょう。

「極楽急行」は、鎌倉時代の仏教説話集「宝物集」に出てくる源太夫の往生説話が種本となっている。

説話集からヒントを得て小説化するというのは、日本が近代化を迎えた明治期から面々と受け継がれてきている伝統的な手法であるが、この短編もその伝統にのっとった逸品であると思う。

立花宗茂」に向けられる海音寺潮五郎
の視線が温かく感じられた。「立花宗茂」については、童門冬二の作品で、幼い頃から、浪人中の宗茂主従に至るまでの姿がより詳しく描かれている。こちらも宗茂に向けられる視線は温かい。

内容/あらすじ/ネタバレ

剣と笛

足利時代の中期、季節は冬。明応四年の冬の頃の堺の町。

浪人が練塀の根元で足駄の歯につまった雪をコンコンと落とした。そしたら、扉が開いた。その様子から、浪人はこの家の娘にはいいかわした男がおり、その男のあいずと勘違いしたらしいと推理した。

だが、出てきたのはこの家の女房だった。慌てたのはこの女房で、浪人に金でけりをつけようと考えたが、浪人はこれを断った。そして、女房が席を外したときに浪人はすぐそこにあった笛を懐にしまった。

浪人が去って困った女房は実家に泣きついた。そして、この浪人のことを調べてみると、意外なことが分かった。

大聖寺伽羅

豊海秀吉の朝鮮の役の最中。前田利長は面白い世間話を聞いた。利長はその世間話に出てくる少年を召し出し、小姓とした。少年は山田勘六といった。

その後、利長の覚えもよかったが、ある事があり利長の勘気を被る。すると、勘六は出仕の使いが来ても出仕をしなかった。

半年後、関ヶ原の戦いがあった。徳川側についた前田家も出陣をし、北陸路の西軍方の大名を討伐しながら上方に向かうつもりであった。まずは、大聖寺城が待ちかまえる。

この戦に勘六はある決意を持って出陣していた。

老狐物語

前田利家の夫人・芳春院松子の弟に太田但馬守雄宗がいた。利家の息子・利長の時代には、前田家の家老の一人となった。その太田但馬守雄宗が利長に成敗されて横死した。

原因が狐の祟りであるというのである…

南部十左衛門

北十左衛門は南部家の家臣であり、南部家の重臣の家柄でもあった。その十左衛門が代官として南部家と佐竹家の境目に赴いた。

その任地で十左衛門の裁きを仰ぎたいという老婆がやって来た。老婆の言うことに道理があり、老婆の申し立て通りになった。その老婆が手土産に持ってきた薯を食らおうと思っていると、その薯に砂金がくっついているのを見つけた。これが、鹿角地方に金山が発見されたはじめである。

金山発見から十二年目、十左衛門の運命を狂わせる事件が起きた。あることから息子が死んでしまったのだ。

羽川殿始末記

戦国の頃、秋田市の南三里ばかりの地点に羽川小太郎という大名が城を構えていた。大名とは言っても、実態は野武士のようなもの。盗賊まがいのことで生計をたてていた。その小太郎のところに能登の畠山家からの落人が流れてきた。

落人の対象は姫君であった。小太郎はこの姫君に惚れてしまい、二人は結ばれる。そして、いつものように小太郎が盗賊まがいのことをするために出発したが…

宮本造酒之助

十二の宮本伊織が義父・宮本武蔵の書状を携え、姫路にいる義兄・造酒之助の屋敷を訪ねた。伊織はここで、義兄に女がいることを知る。

屋敷を出て伊織は大坂へ戻っていった。そして、武蔵から問いつめられ、自分の見てきたことを余すことなく報告する。

極楽急行

王朝末期のこと。山寺を荒々しい僧形の男が訪ねてきた。男は食べ物を所望し、食べ終わると西の方角はどちらかと聞く。

僧形の男は西方に阿弥陀仏がおられるから、たずねていくつもりだという。

奥方切腹

元文四年、幕府は尾張の当主・宗春に家督を譲り、蟄居することを命じた。時の将軍は吉宗である。その上使の一行の中に浅野安芸守吉長がいた。この吉長は宗春の吉原遊興の最も親しい仲間だったのである。

吉長はもともとは諸大名中指折りの立派な殿さまだった。それが五十近くになって突然一通りならぬ遊蕩大名となったのである。だが、吉長が将軍家の密命を含んで尾張の宗春に取り入り、その秘密を探り知るかくし目付となっていたのであれば合点がいく。

話は十七年前にさかのぼる…

立花宗茂

豊臣秀吉が、諸大名列座の席で「天下に豪勇の士は多いが、おれの見るところでは、東は本多忠勝、西では立花宗茂を無双とする」といったそうである。

その立花宗茂が関ヶ原の戦いで西軍につき、敗軍の将として九州の柳河に戻った。柳河では、妻・誾千代がそれみたことかと待ちかまえているはずである。この誾千代との仲はよろしくない。

柳河に戻って、宗茂は四方を敵に囲まれることになってしまう。その中で、加藤清正の説得を受入れ、城を明け渡した。その後、宗茂は浪人大名となる。

本書について

海音寺潮五郎
剣と笛
文春文庫 約三一五頁
戦国時代

目次

剣と笛
大聖寺伽羅
老狐物語
南部十左衛門
羽川殿始末記
宮本造酒之助
極楽急行
奥方切腹
立花宗茂

登場人物

剣と笛
 木沢源五
 畠山尾州守政長の息子

大聖寺伽羅
 山田勘六
 中川武蔵守光重入道宗半
 前田利長

老狐物語
 太田但馬守雄宗
 前田利長
 高山南坊(右近大夫長房)

南部十左衛門
 北十左衛門
 南部利直

羽川殿始末記
 羽川小太郎
 畠山信乃
 茂木因幡
 大森元勘
 笹根子早助
宮本造酒之助
 宮本伊織
 宮本造酒之助
 宮本武蔵
 おなつ

極楽急行
 多度の悪太夫

奥方切腹
 豊田
 お美代
 浅野安芸守吉長

立花宗茂
 立花宗茂
 誾千代