略歴
(1942- )
小説家、写真家。北九州市生れ。日本大学芸術学部映画学科卒。闘牛士を追う写真家としても有名。1971年より74年までスペインに滞在。スペインを題材にしたノンフィクションや冒険小説、国際謀略小説を発表。
その後、方向転換して数々の人気シリーズをかかえる人気時代小説作家となる。
「読み出したら止まらない」や「寝食を忘れて読む」という表現がある。
佐伯泰英はそうした表現のできる数少ない作家であると思う。だからこそ、平成時代小説をリードしえているのだともいえる。
読み始めたら、「あと少し、あと少し」と時間を忘れてしまうこともあるので、翌日に用事を抱えている時などには、ご注意、ご注意…。
次に記すのは、佐伯泰英の全時代小説シリーズである。物語の開始年順に配置してある。
それぞれのシリーズは時代背景がほとんど重なっていない。時代毎の代表人物も登場することも多く、江戸時代を満喫できるように工夫されている。
また、これが佐伯泰英作品の最大の特徴なのかもしれないが、どのシリーズも、何巻から読んでも話の大筋が分かるようになっている。
通常シリーズものの場合、順番に読んでいかないと分からないことが多いが、佐伯泰英作品の場合、途中から読んでも、物語のどこかでそれまでの簡単な経緯が述べられているので、順番に読む必要がない。
もちろん、順番に読んだ方が一層面白いと思う。
「秘剣、悪松」シリーズ
貞享五年(一六八八)に始まる。中間の子として生まれ、八歳の頃には付近で「悪松(わるまつ)」と呼ばれていた一松。箱根で出会った愛甲喜平太高重から薩摩示現流を教えてもらい会得する。得物は備前国長船兼光。三体の試し斬りをした証拠の三ツ胴落としの銘が切り込まれている逸品だ。
「古着屋総兵衛影始末」シリーズ
元禄十四年(一七〇一)に始まる。徳川家康の命により徳川家を守る隠れ旗本の鳶沢一族が、幕府を牛耳る柳沢吉保と対決する。TVの「影の軍団」を彷彿とさせる内容で、ドラマ向きの設定。物語は徳川綱吉治世下の元禄十四年(一七〇一)に始まる。
古着屋総兵衛影始末シリーズ
新・古着屋総兵衛シリーズ
- 血に非ず
- 百年の呪い
- 日光代参
- 南へ舵を
- ○に十の字
- 転び者
- 二都騒乱
- 安南から刺客
- たそがれ歌麿
- 異国の影
- 八州探訪
- 死の舞い
- 虎の尾を踏む
- にらみ
- 故郷はなきや
- 敦盛おくり
- いざ帰りなん
- 日の昇る国へ
「密命」シリーズ
宝永六年(一七〇九)に始まる。金杉惣三郎、清之助親子による剣客・剣豪もの。徳川吉宗治世が舞台で、大岡越前守忠相が主要な人物の一人として登場する。尾張徳川家の徳川継友、宗春兄弟との暗闘に惣三郎、清之助親子が立ち向かう。物語は宝永六年(一七〇九)に始まる。
親子で剣客・剣豪といえば、池波正太郎の「剣客商売」シリーズが思い起こされる。
池波正太郎の「剣客商売」シリーズ
- 密命見参!寒月霞斬り
- 密命弦月三十二人斬り
- 密命残月無想斬り
- 刺客密命・斬月剣
- 火頭密命・紅蓮剣
- 兇刃密命・一期一殺
- 初陣密命・霜夜炎返し
- 悲恋密命・尾張柳生剣
- 極意密命・御庭番斬殺
- 遺恨密命・影ノ剣
- 残夢密命・熊野秘法剣
- 乱雲密命・傀儡剣合わせ鏡
- 追善密命・死の舞
- 遠謀密命・血の絆
- 無刀密命・父子鷹
- 烏鷺密命・飛鳥山黒白
- 初心密命・闇参籠
- 遺髪密命・加賀の変
- 意地密命・具足武者の怪
- 宣告密命・雪中行
- 相剋密命・陸奥巴波
- 再生密命・恐山地吹雪
- 仇敵密命・決戦前夜
- 切羽密命・潰し合い中山道
- 覇者密命・上覧剣術大試合
- 晩節密命・終の一刀(完)
- 「密命」読本
「長崎絵師通吏辰次郎」シリーズ
享保四年(一七一九)に始まる。通吏辰次郎(とおりしんじろう)は六尺二寸(約一八七センチ)、刃渡り一尺九寸(約六十センチ)の脇差藤原貞広を差した直心影流の遣い手、そして絵師でもある。父親は長崎で唐絵目利をやっていた南蛮絵師。辰次郎自身も澳門(マカオ)で食うに困っていた頃にジュゼッペ・カスティリオーネから油絵の知識や技術を学んだ。
「居眠り磐音江戸双紙」シリーズ
明和九年(一七七二)に始まる。坂崎磐音が主人公の市井ものと剣豪ものが混在したシリーズ。春風駘蕩として生きている坂崎磐音が爽やかで気持ちのいいシリーズ。田沼意次が権力を握っている時代が舞台。物語は明和九年(一七七二)に始まる。
「密命」シリーズが藤沢周平の「用心棒日月抄」を意識して書かれたのは知られているが、こちらの「居眠り磐音江戸双紙」シリーズのほうが、10作目くらいまでは似ている感じがする。
また、10作目くらいまでの坂崎磐音と品川柳次郎、竹村武左衛門の関係というのは「よろずや平四郎活人剣」のそれにも似ている感じである。
藤沢周平の「よろずや平四郎活人剣 」
本シリーズは、ドラマなどの原作より、コミックの原作に適している作品だと思う。
というのは、磐音の「春風駘蕩」とした雰囲気というのはドラマなどの映像では表現しにくいと思うからだ。このシリーズは磐音の「春風駘蕩」とした雰囲気が大きな魅力となっているので、これを表現するのは自由度の高いコミックの方が向いていると思う。
「修羅の門」「修羅の刻」「海皇紀」などの作品がある川原正敏氏の画風などはよく似合うと思うが、如何だろう?
居眠り磐音 江戸双紙シリーズ
- 陽炎ノ辻
- 寒雷ノ坂
- 花芒ノ海
- 雪華ノ里
- 龍天ノ門
- 雨降ノ山
- 狐火ノ杜
- 朔風ノ岸
- 遠霞ノ峠
- 朝虹ノ島
- 無月ノ橋
- 探梅ノ家
- 残花ノ庭
- 夏燕ノ道
- 驟雨ノ町
- 螢火ノ宿
- 紅椿ノ谷
- 捨雛ノ川
- 梅雨ノ蝶
- 野分ノ灘
- 鯖雲ノ城
- 荒海ノ津
- 万両ノ雪
- 朧夜ノ桜
- 白桐ノ夢
- 紅花ノ邨
- 石榴ノ蠅
- 照葉ノ露
- 冬桜ノ雀
- 侘助ノ白
- 更衣ノ鷹上
- 更衣ノ鷹下
- 孤愁ノ春
- 尾張ノ夏
- 姥捨ノ郷
- 紀伊ノ変
- 一矢ノ秋
- 東雲ノ空
- 秋思ノ人
- 春霞ノ乱
- 散華ノ刻
- 木槿ノ賦
- 徒然ノ冬
- 湯島ノ罠
- 空蟬ノ念
- 弓張ノ月
- 失意ノ方
- 白鶴ノ紅
- 意次ノ妄
- 竹屋ノ渡
- 旅立ノ朝(完)
- 「居眠り磐音江戸双紙」読本
- 読み切り中編「跡継ぎ」
- 居眠り磐音江戸双紙帰着準備号
- 読みきり中編「橋の上」(『居眠り磐音江戸双紙』青春編)
- 吉田版「居眠り磐音」江戸地図磐音が歩いた江戸の町
番外編
- 奈緒と磐音
- 武士の賦 居眠り磐音
空也十番勝負シリーズ
居眠り磐音 江戸双紙シリーズの続編。坂崎磐音の嫡男・坂崎空也が主人公。
- 青春篇 声なき蝉
- 青春篇 恨み残さじ
- 青春篇 剣と十字架
- 青春篇 異郷のぞみし
- 青春篇 未だ行ならず
ドラマの原作など
2007年NHK木曜時代劇「陽炎の辻~居眠り磐音 江戸双紙~」(全11回)の原作である。ドラマでは次の作品などを原作としているようである。なお第4巻に関しては、ドラマではものの数分でかたづけられてしまう。また、ドラマでは主要な登場人物が欠けていたり、人間関係が原作と異なるなどの面が多々見られる。第1巻の「陽炎ノ辻」~第6巻の「雨降ノ山」
2008年NHK土曜時代劇「陽炎の辻2~居眠り磐音 江戸双紙~」(全12回)の原作。ドラマでは次の作品などを原作としているようである。前回のシリーズでは登場しなかった竹村武左衛門がようやく登場する。福坂利高に絡むところが8巻から15巻まであり、これを軸にして様々なエピソードを他の巻から拝借して組み立てているようだ。第7巻の「狐火ノ杜」~第17巻の「紅椿ノ谷」
2009年正月時代劇「陽炎の辻~居眠り磐音江戸双紙~スペシャル」の原作。下記の作品をベースにオリジナルの登場人物などを交えている。第10巻の「朝虹ノ島」、第17巻の「紅椿ノ谷」
「吉原裏同心」シリーズ
実質の話は天明五年(一七八五)に始まる。神守幹次郎と汀女が主人公。神守幹次郎は薩摩示現流と加賀で学んだ眼志流居合を遣う。吉原の遊女たちの生活を守るために吉原の私設用心棒、つまり「裏同心」として活躍する。寛政の改革が時代背景にあり、敵役として一橋治済がいる。安永五年(一七七六)に物語は始まるが、実質の物語は天明五年(一七八五)に始まる。
吉原裏同心シリーズ
吉原裏同心抄
- 旅立ちぬ
- 浅き夢みし
- 秋霖やまず
- 木枯らしの
- 夢を釣る
- 春淡し
「鎌倉河岸捕物控」シリーズ
寛政九年(一七九七)に始まる。政次、亮吉、彦四郎、しほの四人の若者が主役となる青春群像。そして、金座裏の名で知られる宗五郎親分らが活躍する捕物帳。この二つが合わさったシリーズ。早い段階で、政次が軸となって捕物帳と青春群像が重なり合っていく。
他のシリーズは副題にその主人公の名が付いていることが多い。だが、本シリーズは主人公の名が付いていない。
また、他のシリーズはその時代を代表する悪役などが登場するが、このシリーズにはそういうものがない。つまり、敵対する大物との対決を終えたらシリーズが完結するという代物ではないのだ。
そうした意味で、もっとも長続きしそうなシリーズだと思っている。
ドラマ化しやすいシリーズだと思う。政次、亮吉、彦四郎、しほという若い四人が軸になっているし、それを後見するように金座裏の面々がいる。若手俳優とベテラン俳優を上手くミックスしやすい構成なのだ。
- 橘花の仇
- 政次、奔る
- 御金座破り
- 暴れ彦四郎
- 古町殺し
- 引札屋おもん
- 下駄貫の死
- 銀のなえし
- 道場破り
- 埋みの棘
- 代がわり
- 冬の蜉蝣
- 独り祝言
- 隠居宗五郎
- 夢の夢
- 八丁堀の火事
- 紫房の十手
- 熱海湯けむり
- 針いっぽん
- 宝引きさわぎ
- 春の珍事
- よっ、十一代目!
- うぶすな参り
- 後見(うしろみ)
- 新友禅の謎
- 閉門謹慎
- 店仕舞い
- 吉原詣で
- お断り
- 嫁入り
- 島抜けの女
- 流れの勘蔵(完)
- 「鎌倉河岸捕物控」読本「寛政元年の水遊び」
- 「鎌倉河岸捕物控」街歩き読本
「酔いどれ小籐次留書」シリーズ
文化十四年(一八一七)に始まる。赤目小籐次は五尺一寸(一五三センチ)。禿げ上がった額に大目玉で団子鼻、両の耳も大きい。特徴的すぎる容姿である。歳は四十九。現在であれば中年という歳であろうが、江戸時代であれば初老といっていい歳である。はっきり言って格好のいいヒーローではない。
だが、来島水軍流の達人である。小籐次の仕えていた豊後森藩は元々伊予来島の河野水軍一翼を担った来島家の家系である。伊予の水軍が不安定な船戦で遣う剣術が来島水軍流なのである。愛刀は備中国次直と孫六兼元。
酔いどれ小籐次留書シリーズ
新・酔いどれ小籐次シリーズ
- 神隠し
- 願かけ
- 桜吹雪
- 姉と弟
- 柳に風
- らくだ
- 大晦り
- 夢三夜
- 船参宮
- げんげ
- 椿落つ
- 夏の雪
- 鼠草紙
- 旅仕舞
- 鑓騒ぎ
「狩り(夏目影二郎始末旅)」シリーズ
天保七年(一八三六)に始まる。夏目影二郎が主人公の剣客・剣豪もの。幕末も近い江戸後期が舞台。夏目影二郎は、ゆえあって影始末の旅をすることになる。この夏目影二郎の前に立ちはだかるのが、妖怪の異名を取った鳥居耀蔵である。
「交代寄合伊那衆異聞」シリーズ
大地震のあった安政二年(一八五五)に始まる。数奇な運命に翻弄され、座光寺家の当主となった藤之助。その旗本座光寺家には家康以来代々受け継がれてきた隠された使命がある。欧米列強の影がちらつく幕末の時代に、座光寺藤之助為清が信濃一傳流をふるう。
「交代寄合」とは参勤交代を強いられる旗本三十四家を意味する。座光寺家もそのひとつ。交代寄合衆、あるいは伊那衆と呼ばれ、禄高は千四百十三石。
物語は幕末の動乱を予告する大地震のあった安政二年に始まる。