覚書/感想/コメント
シリーズ第四弾。
豊後関前藩のごたごたに一区切りがつき、このごたごたの中で苦界に身売りをせざるを得なかった許嫁・奈緒の行方を探し求める磐音。
奈緒は各所の傾城街を売り飛ばされている。売られるたびに高値が付けられていくという悲惨さである。その奈緒の足跡を磐音が西から東へたどる旅の物語である。
奈緒は各所の傾城街に白扇を残している。長崎丸山、豊前小倉、長門赤間関、京島原。そして、その白扇には句がしたためられていた。
長崎丸山:鴛鴦や 過ぎ去りし日に なに想ふ
豊前小倉:夏雲に 問うや男の 面影を
京島原:飛べ飛べや 古里のそら 秋茜
加賀金沢:風に問ふ わが夫はいずこ 実南天
だんだんと、奈緒と磐音の住む世界が広がっていくのがわかり、切なくなる。
内容/あらすじ/ネタバレ
安永二年(一七七三)旧暦七月の夕暮れ。坂崎磐音は日田往還、西国郡代領日田にいた。肥前長崎への途中である。この日田で蘭医の中川淳庵と出会った。
この淳庵は裏本願寺別院奇徳寺僧都、岸流不忍坊らに狙われていた。というのも、「ターヘル・アナトミア」一般的には「解体新書」と呼ばれる書物の翻訳に携わっていたからだ。蘭学を好ましく思わない輩の邪魔というわけだ。
早速、この連中が淳庵と磐音の前に登場する。だが、ここは磐音の剣技の前に岸流不忍坊らは退散する。
中川淳庵も肥前長崎へ行き、翻訳の完成をさせるのだという。それまで磐音と連れ立つことになった。
磐音が肥前長崎へ行くのは許嫁・奈緒の行方をもとめてである。当初奈緒は豊後関前城下の遊里に身売りしたのだが、そこから長崎の丸山に行ったという情報をもとにしてである。
長崎に着いた磐音を西国屋次太夫の番頭・清蔵が見かける。そして、仕返しを考え、刺客を磐音に差し向けた。だが、これを磐音が跳ね返し、逆に西国屋次太夫から奈緒の身請け費用を捻出する。
だが、一足遅く、奈緒は長崎にいなかった。豊前小倉に売られたという。
奈緒は磐音が追ってくるのを願っているのだと、確信して豊前小倉についた。
奈緒は岩田屋善兵衛に売られたと長崎丸山で聞いた。だが、この岩田屋は小倉に着いてみると評判が悪い。金回りが悪くなり、阿漕な金稼ぎに走っているとの噂である。そして、赤間の唐太夫という親分との仲が上手くいっておらず、一触即発の状態にあるらしい。
よくよく聞いてみると、どうやら奈緒は赤間の唐太夫のところにいるらしい。岩田屋が遊女たちを奪われたようなのだ。それを取り返しに岩田屋は動こうとしていた。磐音はこれに乗じて奈緒に会おうと考えた。
いざ乗り込んでみたものの、ここにも一足違いだった。奈緒は京の島原へ売られたというのだ。
京へ向かう途中、磐音は出雲大社を参拝した。ここで仇討ちに出会う。狙われているのが田野倉源八。だが、返り討ちにしてしまう。凄腕だった。その後も、度々磐音はこの田野倉源八を見かける。同じ街道を歩いていたためである。
京についた磐音は宿を取るため、豊後関前藩の家中の者が江戸の往来に泊まる宿である蔦屋に足を向けた。すると、奇しくもそこには東源之丞がいた。
東源之丞に事のあらましを話したが、両人とも妙案がない。何せ身請けするにも金が必要なのだ。その工面が思い浮かばない。
だが、東源之丞がある話を持ってきた。それは賭事である。闘鶏に賭けないかというのだ。西国屋からふんだくった金も百四十両しかない。当たれば数倍になる。
その後、奈緒は京でも一足違いで会えなかった。どうやら加賀金沢の遊郭に売られたらしい。
奈緒にはすでに千両の値が付いていた。その重さに悩みながらも、磐音は奈緒に会わずにはいられなかった。足は金沢へと向かった。
途中、関所破りをしたということで辺りが騒がしくなっていた。磐音はその関所破りをした愛蔵に会う。愛蔵は女衒である。娘たちを連れていた。磐音は愛蔵たちを守り、金沢で落ち合う約束をした。
金沢では愛蔵の知り合いの鶴吉の助けも借りて奈緒の行方を探す。
この金沢では一種の派閥抗争が始まろうとしている。どうやらその渦中に奈緒は巻き込まれようとしているようだ。
磐音が江戸の土を踏んだのは師走だった。久々に戻り、磐音は方々への挨拶に忙殺される。だが、奈緒のことは頭から離れなかった。
本書について
佐伯泰英
雪華ノ里
居眠り磐音 江戸双紙4
双葉文庫 約三四五頁
江戸時代
目次
第一章 紅灯丸山驟雨
第二章 赤間関討入船
第三章 洛北軍鶏試合
第四章 残香金沢暮色
第五章 雪舞待合ノ辻
登場人物
中川淳庵…蘭医
筆峰神仙…蘭医
岸流不忍坊
西国屋次太夫…廻船問屋
清蔵…番頭
弥助…薬売り
玄海の丑五郎
岩田屋善兵衛
村上鉄蔵賀雲…剣術家
赤間の唐太夫
鳥追いのおまつ
伊藤主膳
田野倉源八
東源之丞…目付頭
浜村佐玄太
九兵衛
およし
愛蔵
鶴吉
富田治部左衛門
佐々木南
長尚常
三河屋
盛末穐三郎