覚書/感想/コメント
シリーズ第五弾。
奈緒が白鶴と名を変え、花魁として吉原に入った。すでに千両を超える値が付いてしまい、磐音にはただただ見守るしかすべがない。
さて、豊後関前藩では深刻な問題が生じている。藩主が国許に戻れない。金がないのだ。そこで、磐音を介して今津屋に借金を申し出る。
この時、担保として今津屋が藩主・実高に要求したのが磐音だった。今津屋はここまで磐根を高く評価しているのだ。これでますます今津屋との縁が深くなる磐音である。
縁が深くなるといえば、南町奉行所・年番与力の笹塚孫一との関係。笹塚孫一は磐音を身内同然に扱い、ほとんど南町奉行所の人間と思っている。なにせ、磐音が絡むと金が南町奉行所にはいるのだから、福の神である。
磐音と周囲の人間たちとの絆がますます深まり、シリーズは続く。
内容/あらすじ/ネタバレ
安永三年(一七七四)正月早々、江戸を震撼させる事件が起きた。市谷八幡で首吊り死体が見つかった。寄合席三千石の高力家の奥方の死体だった。
坂崎磐音は吉原会所の頭・四郎兵衛に酒の馳走になり長屋に戻ってきた。今年の磐音の願いは、許嫁の奈緒を苦界から救うことだが、千両を超える値が付いてしまった遊女を身請けする才覚がないことも自覚していた。
正月の馳走は竹村武左衛門宅で品川柳次郎を交えてのものだった。
磐音は今津屋などを年始の挨拶に回っていたときのこと、読売屋が漆工芸商が皆殺しになった読売を売っていた。この漆工芸屋は今津屋と関わりがあった。現場に駆けつけると、南町年番与力の笹塚孫一がいた。
この殺しと、高力家の首吊りとが関係があるのではないかと思えるようになってきた。それを笹塚孫一に告げる。
豊後関前藩の御直目付・中居半蔵から手紙が来た。父からの手紙が届いたのだ。分家の福坂利高が江戸家老として着任するそうだ。
さて、磐音に吉原から使いが来た。奈緒の身売り先は吉原と尾張の両天秤をかけられていたようで、尾張の連中が取り返しに来たというのだ。少なくとも、奈緒が吉原に正式に入る松の内七日を邪魔するという。
頭が痛いのは、これとは別に父からの手紙に書いてある内容だ。参勤下番の入費二千五百両の都合がつかないから、今津屋に頼めないかという。磐音は中居半蔵に豊後関前藩の内情を今津屋にさらけ出し、誠意をみせるしかないと述べる。
一方、奈緒改め白鶴の花魁道中が始まろうとしていた。
竹村武左衛門が仕事を持ってきた。おとくというばば様の用心棒である。武左衛門は仕事が重なり、割りの悪い方を磐音に押しつけたのだ。
おとくは誰に狙われているとはいわないものの、相手は七、八人で人の命を奪うことを屁とも思っていない連中だという。
さて、豊後関前藩の今津屋への申し出は何とか上手くいった。かわりに豊後関前藩は今津屋に、ある担保を用意させられていた。
おとくの用心棒について、磐音は笹塚孫一に相談をしていた。そして、おとくが霜夜の鯛造の娘ではないかと推測された。
竹村武左衛門が家に戻らない。不知火現伯という医師の用心棒をしているはずだ。品川柳次郎と一緒に不知火現伯を訪れると様子がおかしい。
相談役の美濃部三五郎が現れ、現伯と一緒に勾引されたらしい。しかも、美濃部三五郎は相手を知っているようだ。
磐音が中川淳庵を訪ね質問した。すると、現伯は阿片ちんきを使っていることがわかった。しかも通常買い求める以上に使用している様子だ。
長屋にお兼という若い女性が越してきた。このお兼、怪しげな男どもの姿がつきまとう。
坂崎磐音は久しぶりに佐々木玲圓道場に顔を出した。すると、今評判の赤鞘組を名乗る連中が道場破りに現れた。磐音がこれを退治し、気分良く帰った。気分良く帰ったのは退治したからではなく、師・佐々木玲圓からたまには顔を出せといわれたからだ。
その帰り道、白鶴こと奈緒の浮世絵が売られているのを知った。版元は蔦谷重三郎だ。
帰ると、中居半蔵がいた。困ったことが生じたという。
本書について
佐伯泰英
龍天ノ門
居眠り磐音 江戸双紙5
双葉文庫 約三六〇頁
江戸時代
目次
第一章 初春市谷八幡
第二章 名残雪衣紋坂
第三章 本所仇討模様
第四章 危難海辺新田
第五章 両国春風一陣
登場人物
木下一郎太…南町定廻り同心
歌垣彦兵衛…臨時廻り同心
おっとりの百兵衛
鈴木香志郎…寺侍
高馬道平
福坂利高…江戸家老・藩主の従兄弟
熱田の勘蔵
伊勢崎図書之助
おとく
史吉
野晒しの仲蔵
逸見五郎蔵…例繰り方同心
不知火現伯…医師
お万
お常
美濃部三五郎
おちよ
地蔵の竹蔵…御用聞き
中川淳庵…蘭医
お兼
厩の三之助
甲村剛蔵
本多鐘四郎…兄弟子
曽我部下総守俊道
亀山内記
赤井主水正…御小姓組