覚書/感想/コメント
シリーズ九弾。
豊後関前藩の財政立て直しが本格的にスタートする。まずは関前の物産を江戸に運ぶ第一便がやってこなければ始まらない。そして、第二便、第三便と重ねていくのだ。
その重要な第一便が無事につくことが関前藩の立て直しの第一歩となる。だが、最初から波乱含みである。
さて、北尾重政に絵を描かせるのを嫌がっていたおこん。その理由が艶本を書く絵師だからという。
この北尾重政と磐根の関係が近いものになってきた。それは白鶴こと奈緒とのことを承知している北尾重政が、だんだんと磐根に惚れ込んで、北尾重政から磐音に近づいてきているからだ。
その北尾が白鶴の気を惹こうとしている札差しの賭け事を知らせてきた。問題は賭が加熱して危害が白鶴に及ばないかという点である。
これを磐音は南町奉行所の切れ者・笹塚孫一に相談する。さて、孫一はどうでるか?
この笹塚孫一は、磐音を福の神のように思っているらしい。磐音が絡むと金になる事件が多いからだ。だが、この笹塚孫一が酷吏でないことは、いわずもがなである。
内容/あらすじ/ネタバレ
安永四年(一七七五)。坂崎磐音はおこんの付き添いとして宮松とともに亀戸の普門院にお布施を包んでお経を読んでもらっていた。今津屋吉右衛門の代参である。
最近、吉原への客が増えているようだ。というのも松の位を巡る吉原の大夫選びの日が近くなっているからである。前評判は、三浦屋の高尾、松葉屋の揚羽、そして、大番狂わせとして丁子屋の白鶴の名が挙がっている。
宮戸川に幸吉が奉公にやってきて、小僧の幸吉が誕生した。磐音は別府伝之丈と結城秦之助を連れて鰻を食いに宮戸川に行った。そこで二人は借上げ弁才船の正徳丸がそろそろ江戸入りすると知らせた。いよいよ豊後関前の藩を賭けた商売が始まる。
幸吉が小僧になって早々に騙りにあった。釣り銭をだまし取る手口で、他にも被害があるらしい。その場その場で変装しているようで、なかなかの役者ぶりである。
そして、幸吉が銭騙りを捕まえるといって、宮戸川を飛び出した。変装が上手いことから幸吉は役者崩れだろうとふみ、浅草の奥山に向かったようだ。
正徳丸が江戸に入ってくる日が近づき、磐音は別府伝之丈と結城秦之助と打ち合わせをした。その帰りに今津屋によると絵師の北尾重政が会いたがっていることを伝えられた。
北尾重政が持ってきたのは白鶴花魁の絵だ。だが、そこに描かれていたのは白鶴ではなく、磐音の許嫁・小林奈緒そのものだった。磐音は数年ぶりに奈緒に会った。
吉原では大夫を決める投票が閉められ、結果が出た。
早足の仁助がやって来た。仁助は手紙を持ってきていた。それは父からと妹・伊予からのものだった。伊予の祝言は無事終り、新たな生活も始まるやいなや夫の井筒源太郎が藩主・実高の近習として江戸に来ることになったようだ。
仁助は他に心配事があるようだ。それは正徳丸のことである。西の海は荒れていたようだ。果たして多くの船が荷物を海に放り投げるなどして這々の体で江戸に入ってきていた。磐音を始めとして別府伝之丈と結城秦之助も正徳丸の安否を心配する日々が続いた。
さて、豊後関前藩に新たな問題が生じ始めていた。中居半蔵が襲われたのだ。後日、磐音は仁助にこのことを言い含め、それとなく調べさせ始めた。
権造一家の代貸五郎造がやって来た。武州青梅に借金の催促に行くのだという。道中の用心棒として磐音に頼みに来たのだ。
道中は五郎造と弟分の千代松、磐音に品川柳次郎の四人である。
青梅から戻ってくると、仁助が待っていた。仁助は今度の参勤に横目の尾口小助が加わっているのを知っているかという。父・正睦が引き立てた者である。その尾口が江戸家老福坂利高に早飛脚を立てていたという。一体二人にはどのような接点があるのか?
翌日磐音は中居半蔵とともに義弟・井筒源太郎にあった。
本書について
佐伯泰英
遠霞ノ峠
居眠り磐音 江戸双紙9
双葉文庫 約三五〇頁
江戸時代
目次
第一章 望春亀戸天神
第二章 仲ノ町道中桜
第三章 春霞秩父街道
第四章 星明芝門前町
第五章 八丁堀三方陣
登場人物
定九郎
井筒源太郎…伊予の夫
千代松…権造一家
玉川の大右衛門
秩父の鳩八親分
おみき
尾口小助…横目
大口屋治兵衛(暁雨)…札差
桂川国瑞…奥医師
薬王寺敏胤
千右衛門…妓楼の主