覚書/感想/コメント
シリーズ十弾。
初めて磐音が不覚を取る。どのように不覚を取るのかは、本書で確認頂きたいが、不覚を取ったおかげで、大事な備前包平に刃こぼれが生じる。
包平は備前三平の助平、高平とともに備前の三名刀鍛冶であり、後鳥羽上皇の御帯刀を鍛えた名工である。刃渡り二尺六寸から七寸の長剣が多い。中には三尺に達する大包平と呼ばれるものもあった。磐音の包平は大包平と呼ばれてもおかしくないものだった。
磐音のものになったもう一本、備前長船長義。刃長二尺六寸七分、反り五分五厘。正宗十哲の一人で、華やかな作風と身幅広目を得意とし、長刀などを鍛えた名工である。
さて、どてらの金兵衛が磐音に女難の相が出ているという。はたして、おこんもイライラするような事態が出来し、磐音が困り始める。この始末がどうなるかは今度のお楽しみといったところか。
内容/あらすじ/ネタバレ
安永四年(一七七五)五月下旬。江戸に炎暑が戻ってきた。
今津屋に赴いた坂崎磐音は吉右衛門から旅の同行を頼まれた。江戸城の石垣の一部が壊れ、修理を美作国津山城主の松平康哉が行うことになった。石は豆州熱海界隈の石切場から切り出すことになりそうだ。
今津屋では金子の都合を付けることになるだろうが、そのためには石切場を見ておかなければならない。そこで同行を頼むのだ。
楊弓場の朝次から娘大力の見世物一家の姉妹のうち、妹のおちかが若侍に惚れて逃げ出してしまったので、探してもらいたいという頼まれごとをされる。
磐音は地蔵の竹蔵親分を訪ね、このことを相談する。
磐音は刃こぼれをした備前包平をもって鵜飼百助を訪ねた。気むずかしい職人気質の百助だが、刀が備前包平と知るや、すんなりと引き受けてくれた。これで心配はなくなったが、腰が妙に軽く、落ち着かない。
今津屋に行くと、今度の熱海への同行のために、磐音用の差料を進呈するという。時間をかけて磐音が選んだのは備前長船長義である。
今度の熱海へは品川柳次郎と竹村武左衛門も同行することになった。
今津屋からの帰り、小柄な武士が襲われる場面に出くわす。刺客と思われる連中を磐音が退治したが、襲われた武士は女のようだった。
磐音の家に手紙と油紙に包まれた細長いものが置かれてあった。手紙には鳥取藩の江戸藩邸御側御用人の安養寺多中に書状を届けてもらいたいと書かれていた。昨日襲われていた武士からのもののようだ。武士は織田兵庫助と名乗っていた。鳥取藩の命運を左右する大事なものらしい。
磐音は老分の由蔵にこれを相談することにした。由蔵はおそらく藩主と老臣荒尾一族との対立だろうと推測した。
熱海に行く前に佐々木道場で稽古をすることにした磐音である。道場に御側衆の速水左近がおり、道中で何かあればすぐに知らせよという。今回の熱海行には何か隠されているようだ。
今津屋一行と一緒に熱海に向かうのは美作津山藩御用人野上九郎兵衛と普請方の勝俣膳三郎である。
そして、幕府御普請奉行の原田義里にあった今津屋吉右衛門は難物との印象を受けた。どうも、原田は今回の石垣修理で懐を潤そうとしているのではないかというのが吉右衛門の勘だ。
本書について
佐伯泰英
朝虹ノ島
居眠り磐音 江戸双紙10
双葉文庫 約三五〇頁
江戸時代
目次
第一章 泉養寺夏木立
第二章 夜風地引河岸
第三章 朝靄根府川路
第四章 湯煙豆州熱海
第五章 初島酒樽勝負
登場人物
おしづ
おちか
千太郎
松倉新弥
鵜飼百助(天神髭の百助)…刀剣研師
菊蔵…下総屋番頭
安養寺多中…鳥取藩江戸藩邸御側御用人
和田参左衛門…鳥取藩江戸家老
古田村次右衛門…目付
織田桜子(兵庫助)
野上九郎兵衛…美作津山藩御用人
勝俣膳三郎…普請方
原田義里…幕府御普請奉行
種村兵衛…御普請下奉行
日金の欽五郎
糸川の儀平…石切場の主
江連兜太郎右衛門忠為…剣術家
百面の専右衛門
青石屋千代右衛門…庄屋
鶴蔵
おはつ
陣吉
樋口精兵衛…小人目付