覚書/感想/コメント
シリーズ第十五弾。
さてさて!磐音の身に大きな変化が訪れようとしている。
そういう意味において、本書はシリーズの一つの転換点となるものであろう。
ただし、この転換点は本書だけでなく、数冊にまたがる可能性がある。なにせ、転機を迎えようとしている人物達が多いからである。
転機を迎えようとしている人物としては、今津屋吉右衛門がいる。後妻を迎えるというのが、シリーズの近いうちの大きな出来事になるはずである。
さて、本書でも、転機を迎える人物がいる。それは、幸吉である。今までの幸吉は鰻取りの名人としての誇りもあり、奉公を少し嘗めているところがあった。今後の幸吉はしっかりとした人物になっていくだろう。
ただし、そうなる前に、本書で皆を心配させる出来事をしでかすのだが…
その心配事の時に、おそめは幸吉の心理をこう分析する。一日でも早くお給金を稼ぎたいという思いと、おそめと一緒になりたくて早く一人前になりたがっている、と。この分析には幼馴染以上の意味合いがあるだろう。
また、転機といえば、豊後関前藩も一つの転機を迎えたようだ。
懸案の、獅子身中の虫の始末もつき、豊後関前藩では後に数年前に城下を震撼させた「宍戸文六騒乱」に対して「利高もの狂い」または「江戸家老処断」と呼ばれる出来事である。
最後に、磐音は日光社参の時の褒美として、将軍世子・家基から朱漆蒔絵拵えの短刀を拝領する。短刀は山城の住人で金工の名門の出ながら、新刀鍛冶の祖といわれる梅忠明寿のものである。
家基もこれからの重要な登場人物になるのだろうか。そして、田沼意次も…
シリーズもので、転機があると、新たな登場人物が現れるものだが、どうやらこれからのシリーズの中で重要になりそうな人物達が少しずつ出てきているようだ。
以前にも登場しているが、本書には気になる人物がもう一人いる。
内容/あらすじ/ネタバレ
安永五年(一七七六)。日光社参がつつがなく終わり、城中では猿楽が催された。この席に坂崎正睦は招かれ、佐々木玲圓と初対面する。
この後、豊後関前藩は今津屋吉右衛門、老分の由蔵、若狭屋利左衛門、番頭の義三郎を招き、酒宴を催した。酒の席で、由蔵が酔った勢いに任せて正睦にあることを聞く。
この時、正睦は磐音に早晩虚け者を一人始末すると告げる。
さて、正睦は日頃磐音が世話になっていることもありおこんを招待したいという。そこで、宮戸川で鰻を食することになった。
幸吉が宮戸川から消えたという。どうやら自信をなくしたのがきっかけのようだが、どこに行ったかが分からない。磐音は地蔵の竹蔵に探索を頼む。
探しているうちに、もしかしたら幸吉は厄介なことに巻き込まれている可能性が浮上してきた。
笹塚孫一が磐音を呼んだ。甲斐の市川陣屋まで盗賊を木下一郎太とともに引き取りにいってほしいという。盗賊は鰍沢の満ヱ門といい、先祖のお墓参りをしているところを捕まえたという。
釈然としない磐音が黙っていると、笹塚は品川柳次郎、竹村武左衛門らを付け、手当も出すとちらつかせる。
笹塚孫一が磐音に白羽の矢を立てたのは、あわよくば隠し金を見つけて南町の探索費に組み入れたいという思いがあるようだ。
市川陣屋に着き、鰍沢の満ヱ門を見て、磐音は病に冒されているのではないかと感じた。近頃では手下どもが満ヱ門の奪還をするとの噂が流れているようである。
満ヱ門は、捕まったのは腹を下していたためだという。だが、そうだとしてもなぜそう簡単に捕まってしまったのか。そして、なぜ何日も続けて先祖のお墓参りをしていたのかが分からなかった。
本書について
佐伯泰英
驟雨ノ町
居眠り磐音 江戸双紙15
双葉文庫 約三四〇頁
江戸時代
目次
第一章 暗殺の夜
第二章 暑念仏
第三章 鰍沢の満ヱ門
第四章 富士川の乱れ打ち
第五章 蛍と鈴虫
登場人物
文治郎
国太郎親分
鰍沢の満ヱ門…盗賊
唐八…手下
朴野木
お国
円井の幹五郎
岸辺俊左衛門…信州松代藩家臣
野猿の秀太郎…夜盗
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