覚書/感想/コメント
シリーズ第九弾
新たな「鎌倉河岸捕物控」シリーズの登場人物の予感である。円流小太刀の永塚小夜。小太郎という赤子を連れた女武芸者である。きりりとした美形の上に腕が立つ。
これからどのように金座裏と関わっていくことになるのかが楽しみである。そして、もしかしたら小夜を巡る恋模様というのも今後のシリーズの中で出てくるのかもしれない。
金座裏は若親分の政次を中心に回り始めてきたようだ。まだまだ売り出し中とはいえ、宗五郎の後ろ盾もあり、順調に跡継ぎとしての道を歩み始めている。
手先も亮吉をはじめとして、常丸や波太郎といった若手の時代へと移ってきているようだ。とはいっても、この手先達も番頭格の八百亀がしっかりとにらみをきかしているからこそ自由に動けるわけで、政次と同様にまだまだ売り出し中だ。
そうはいっても金座裏の若返りは進み、同時にこのシリーズに若さと活気というものが生まれ始めているように感じる。
さて、最初に登場する烏森稲荷。現在の新橋にある。
HPから引用させて頂くと、神社の創始には次のような言い伝えがあるようだ。
『平安時代の天慶三年(940年)に、東国で平将門が乱を起こした時、むかで退治の説話で有名な鎮守将軍藤原秀郷(俵藤太)が、武州のある稲荷に戦勝を祈願したところ、白狐がやってきて白矢の矢を与えた。その矢をもって、すみやかに東夷を鎮めることができたので、秀郷はお礼に一社を勧請しようとしたところ、夢に白狐が現われて、神烏の群がる所が霊地だと告げた。そこで桜田村の森まできたところ、夢想の如く烏が森に群がっていたので、そこに社頭を造営した。それが烏森稲荷の起こりである。』
シリーズ五弾の「古町殺し」でも六阿弥陀めぐりが出てきたが、今回出てくるのは山の手六阿弥陀巡り。
一番、四谷御門外了学寺。二番、四谷大通横町西念寺。三番、青山熊野横町高徳寺。四番、青山百人町善光寺。五番、青山通り久保町梅窓院。六番、赤坂一ツ木龍泉寺。
前回の六阿弥陀めぐりの方は範囲が広く、一日で歩き回るのはかなり至難の業だと思えたが、この山の手六阿弥陀めぐりは近いところにまとまっている感じである。これなら何とか回れるかな?
内容/あらすじ/ネタバレ
寛政十二年(一八〇〇)二月。政次達四人で稲荷小路の烏森稲荷の初午に向かった。
最近むじな長屋に越してきた壁塗り職人の娘・お菊に亮吉が一目惚れしている話でひとしきり盛り上がったところ、祭りの見物の群衆をかき分け誰かを探している一団が見えた。
すると、今度は亮吉が突然年増女に抱きつかれ、鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんとした。どうやら亮吉はだしにされたようだ。
亮吉の懐に奉書に包まれたものが出てきた。どうやら女が亮吉の懐に押し込んだらしい。奉書と一緒に臍の緒がくっついていた。
神谷丈右衛門道場の朝稽古が終わりかけた頃、一人の訪問者があった。円流小太刀永塚小夜と名乗る女武芸者で、子連れだった。道場破りにきたのだ。応対に出た政次が相手をした。
四つ目屋の隠居・好七が山の手六阿弥陀参りの途中で襲われ殺された。
その後、道場破りが続けざまに起きた。それも最初から金子をみせての賭け勝負だという。道場破りは立花流・八重樫七郎太と名乗っていた。
それとは別に赤子連れの女剣客の話題ものぼっていた。こちらは永塚小夜のようだ。そして、この二人が合流して一つの道場を破った話が伝わってきた。
永塚小夜と八重樫七郎太は知り合いだった。あることがあり、小夜は八重樫を頼るように江戸にのぼってきたのだ。
困ったのはこれからの生活である。小夜はどうするか途方に暮れていた。その身の処し方を金座裏をはじめとした皆が考えた。
そして、青物問屋青正の佳作に住み、近くの道場で道場主のいなくなった林幾太郎道場を引き継ぐことをお膳立てした。
さて、四つ目屋の隠居・好七の持ち物だった印籠が戻ってきた。だが、この印籠はとんでもない代物だった。
筆頭与力・新堂宇左衛門の嫡男・孝一郎がどうやら南蛮渡りの薬を常用しているらしい。
孝一郎は鉄矢広方道場に通っているという。この道場は曖昧宿の二足のわらじを履いているという。
下駄新道の上白壁町の海老床の様子がおかしい…。
本書について
佐伯泰英
道場破り
鎌倉河岸捕物控9
ハルキ文庫 約二九〇頁
江戸時代
目次
序章
第一話 初午と臍の緒
第二話 女武芸者
第三話 金座裏の赤子
第四話 深川色里川端楼
第五話 渡り髪結文蔵
登場人物
お菊
お染
仁賀保伊賀守主税
仁賀保太郎佑氏智
おけい
おえい
永塚小夜
好七…四つ目屋の隠居
松吉…小僧
忠兵衛…四つ目屋の主
香蔵…四つ目屋の番頭
作右衛門…火口屋の隠居
国造…豆腐屋の隠居
八重樫七郎太…立花流
義平…青物問屋青正の隠居
正右衛門…青正の主
新堂宇左衛門…筆頭与力
新堂孝一郎
鉄矢広方
おちえ
木場の三五郎
梅之助
世吉郎…猫屋の親父
おきみ
文七(文蔵)