覚書/感想/コメント
シリーズ第二十弾
佐々木玲圓から後継者にと望まれ、佐々木家に養子として入る決意をした磐音だが、一度故郷の豊後関前を訪れ、嫡男としての務めを果たそうと思う。この旅にはおこんも同行することになった。父母におこんを会わせ、晴れて夫婦になることを認めてもらう意味もある。
豊後関前までの旅は長く、四月あまり江戸を空けることになる。そのため、方々への挨拶回りに忙しい。こうした場面が結構長く語られている。
そして、旅の途中では、このシリーズの前半で登場した懐かしい面々との再会もある。
単に故郷に挨拶だけに向かう旅でもなさそうなのは、本書のいろんなところで語られている。
果たして、故郷の豊後関前藩では何が磐音を待ち受けているのか?次作にこうご期待といったところか。
さて、前作あたりから本格的に磐音を狙い始めた千代田のお城に巣くう者。具体的に田沼親子の名前が登場するのが本書である。
実際に、田沼親子が登場するわけでもなく、しかと田沼親子による策動ともいいきれないが、ほぼ間違いなく田沼親子が磐音を狙い始めている。
歴代徳川将軍家の陰の御用果たす佐々木家に養子として入る磐音が、今後正面に敵として対するのが、この田沼親子であることは間違いなさそうだ。そして、磐音が守るのが後嗣の家基であることも間違いないだろう。
豊後関前藩から江戸に戻ってから、新しい「居眠り磐音 江戸双紙」が始まる予感である。
謎なのが、歴代徳川将軍家の陰の御用果たす佐々木家。この陰の御用とは一体どういうものだったのか?
語られることのかかった佐々木家の秘密というのも、磐音が養子になることで語られることもあろう。楽しみな謎である。
磐音たちが豊後関前へ旅発つ折、それほど人物関係に新しいものはないのだが、今津屋にはおそめの妹おはつが奉公にあがってきたことと、木下一郎太に恋の予感があるというところが新しいくらいか。
そうそう、船旅で苦しむというと、佐伯泰英の「狩り」シリーズが思い起こされる。本書の後半でおこんが船酔いで苦しむ姿は、「狩り」シリーズのおこまを彷彿させるものがあった。
内容/あらすじ/ネタバレ
安永六年(一七七七)六月末。坂崎磐音は宮戸川の鰻さばきの仕事を辞することになった。佐々木玲圓道場の後を継ぐことが決まったからである。鉄五郎は磐音を送り出すことにした。
豊後関前藩の屋敷からは父・正睦の手紙が届いたという。佐々木玲圓からの養子の話と道場の後継の申し出のあったこと等に対する返書だ。
返書には父・正睦の苦渋の決断が記され、母・照埜の心境も綴られていた。そして、一度おこんを連れて豊後関前に戻ってこられないかという。
この返書にはもう一つの意味が隠されているようである。それは、藩の財政が立ち直るにつれ、国もとで気の緩みが生じていることに関係しているらしい。中居半蔵がそう告げていた。
過日、刺客に襲われ怪我を負わされていた磐音は注意深く歩いていた。刺客は磐音を邪魔に思うお方が城中におられるといっていた。日光社参の折に後嗣の家基を秘かに守った磐音は、家基を狙う者が城中にいることを知っていた。それは幕閣を牛耳る田沼意次、意知親子と目されていた。
そして、再び磐音の前に刺客が現れた。
磐音と一緒に豊後関前に行くことになったおこん。これを機に今津屋を辞めることになった。そして、磐音は豊後関前に旅発つ前に方々への挨拶へと回った。
これとは別に、木下一郎太が謹慎の沙汰を受けた。磐音が襲われたことについて調べて、それが城中のある人物の尾を踏んだということらしい。磐音はこの件に関して一計を案じることにした。
豊後関前への旅に痩せ軍鶏こと松平辰平が同行することになった。
出発の前、笹塚孫一からの伝言で、千代田のお城を牛耳る親子が再び策動し始めたから気を付けろといってきた。
船は江戸を離れ、三崎、下田港と順調に進んでいたが…。
本書について
佐伯泰英
野分ノ灘
居眠り磐音 江戸双紙20
双葉文庫 約三三〇頁
江戸時代
目次
第一章 紅薊の刺客
第二章 夏の灸
第三章 一郎太の蟄居
第四章 二つの長持ち
第五章 遠州灘真っ二つ
登場人物
岸和田富八
おあん
深沢繁邨…遠州相良藩御用人(田沼家)
倉三…主船頭
虎吉…副船頭
市橋太平
住倉十八郎
二ツ木猪吉
富岡新三郎
金比羅の稲蔵
木幡丹次闇斎
中津屋文蔵
山瀬金太夫…浜奉行