海音寺潮五郎(かいおんじちょうごろう)は、昭和を代表する歴史小説作家であり、史伝文学を復活させた作家として知られます。
また、司馬遼太郎氏を早くから認めていたことでもよく知られます。
略歴
(1901-1977)海音寺潮五郎。作家。鹿児島生まれ。國學院大學高等師範卒業後、京都府立二中教諭を務めた。
- 1929年「うたかた草紙」でサンデー毎日の懸賞小説に当選大衆文芸入選。
- 1933年「風雲」でサンデー毎日の創刊十周年記念長編小説募集に当選。
- 1934年サンデー毎日の大衆文芸賞。
- 1936年「天正女合戦」「武道伝来記」他で第3回直木三十五賞。
- 1968年第16回菊池寛賞。紫綬褒章。
- 1973年第24回NHK放送文化賞。文化功労者。
- 1977年第33回日本芸術院賞文芸部門。大口市名誉市民。
類い希な歴史知識と独自の史観で、多くのすぐれた歴史小説、史伝を書き残しました。
日本の歴史のみならず、中国の歴史にも造詣が深く、多くの作品を残しています。
書かれているものは、大雑把に言えば次のようになるでしょうか。
- 中世日本:「平将門」「海と風と虹と」「蒙古来る」を中心とする作品群。
- 戦国時代:「天と地と」「新太閤記」を中心とする作品群。
- 幕末:「西郷隆盛」「寺田屋騒動」を中心とする作品群。西郷隆盛については他の作家の追随を許しません。
- 史伝:「武将列伝」「悪人列伝」を中心とした史伝もの。
- 中国もの:「孫子」を中心に数編。
他に江戸時代を描いた作品群もあります。
史伝もの
海音寺潮五郎の作品群の中で重要な作品群が、史伝ものです。
史伝は、歴史として伝えられてきた記録や伝記のことですが、中には文学的な要素がふんだんに盛り込まれているものもあります。
この文学的要素を排除し、他の史料とも照らし合わせ、科学的手法によって歴史を浮かび上がらせるのが学問です。
対して、この文学的要素を排除せずに、さらに他の史料や戯画的要素を取り入れ、不足部分を作家の想像力で埋めていく作業が歴史小説であるといえます。
とすると、海音寺潮五郎の史伝は、この中間に位置するものということができると思います。
学問的な厳密さはないものの、小説的なデフォルメやフィクションもほとんどありません。ほどよい感じの読物となっているのです。
ですから、海音寺潮五郎の史伝を読み、同じ人物について語られている歴史小説を読むと、その歴史小説の面白さに新たなスパイスが加わると思います。
取り上げている人物も、短編で語られており読みやすいと思います。
本書を読んで、その人物に惹かれたのであれば、研究家による他の史伝や他の小説家による小説を読むのもよいだろうと思います。
史伝は歴史ものを楽しむ足がかりになる作品群だと思います。
また、この史伝で、海音寺潮五郎の好みの一端がうかがい知れます。
概して、竹を割ったようなスッキリとした人間が好きなようです。
有り体に言えば、直情的な側面があり、潔い人物が好みのようです。
その反対に、策謀がすぎ、執着心の強すぎる人間は嫌いなようです。
前者に相当するのが蒲生氏郷や、史伝では扱われていませんが上杉謙信でしょう。
そして、後者の代表が武田信玄であり真田昌幸です。こちらは、はっきりと”好きではない”と書かれています。
こうした海音寺潮五郎の好みを知るのは、他の海音寺作品を読む上で、なぜ海音寺潮五郎がこの人物を取り上げ、小説としたのかといった点において参考になるのではないかと思います。
最後に、文芸評論家の尾崎秀樹氏が「江戸開城」の解説でこう述べています。
『小説はフィクションによって人物像を具象化するが、史伝は歴史上の素材をふまえながら、史書と史書の間にかもし出される微妙なくい違いをとらえて歴史の軌跡をたどり、追体験する魅力をうかがわせるところに特徴があるといえよう。』
作品一覧
私が把握している海音寺潮五郎の作品一覧です。
注1)作品によってはダブっているもの(出版社の変更にともなう題名の変更など)もあるとは思いますが、確認が取れたものから順次修正を加えてゆく予定です。
注2)漏れている作品もあるとは思いますがご容赦下さい。なお、漏れている作品についてご教示頂けますと幸いです。
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- 日本歴史を散歩する
- 西郷と大久保と久光
- 本朝女風俗―絵島の恋
- 真田幸村
- 天と地と
- 南国回天記
- 西郷隆盛
- 海音寺潮五郎短篇総集
- 江戸城大奥列伝
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- 列藩騒動録
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