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佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第8巻 知略!」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第八弾。今回は分家の孫娘るりが鳶沢一族に危難をもたらす。信之助と一緒になったおきぬの代りに江戸にのぼってきたるりだが、鳶沢村でのびのびと育ったせいか、細かいところでの配慮に欠けるところがあった。そんな中で起きた事件が鳶沢一族を窮地に陥れていく。

さらに、悲劇が待ち受けていた…。

実戦に慣れた鳶沢一族の中核となる人物たちが地方へ飛んだり、大黒丸に乗り込んだりして江戸も鳶沢村も陣容が手薄になってきている。

若手の育成は急務だが、悠長に構えている時間がない。シリーズを重ねる毎に段々と苦しくなっていく鳶沢一族に未来はあるのか?

今回は甲賀五姓家の一つ鵜飼家が登場する。甲賀五十三家などは様々な時代小説で登場するが、甲賀五姓家は珍しいかも知れない。

本書によると、歴史はこうなる。

「信濃の国司諏訪左衛門源重頼の三男望月三郎兼家が平将門の乱に軍功あって近江甲賀郡司になった。この時に甲賀近江守兼家と姓を改めた。子の家近も文武に優れていた。

この頃、甲賀王滝荘竜巻というところに幻術に長じた法師が住んでいた。家近はこの法師から術を習い、甲賀流の起源となる。

代はくだり、近江一族から望月、鵜飼、内貴、芥川、甲賀の五姓家が生じる。これら五姓家に南北朝の敗残兵が入り込んで甲賀五十三家が出来上がった。

五姓家に上野、伴、長野の三つを合わせて甲賀八天狗という。」

さて、大黒丸の登場とともに何となくだが海洋冒険小説の様相を呈してきているような気がしている。

「雄飛!古着屋総兵衛影始末」で登場した武川衆ははるか彼方へ忘れ去られているようだし、本庄家の次女・宇伊の婿取りの気配もない。

さて、次作以降どうなるのだろう。

内容/あらすじ/ネタバレ

宝永四年(一七〇七)初夏。るりは呼鈴の音を聞いたが、空耳と思いそのままにしていた…。

芦ノ湖畔の温泉場に総兵衛と新妻の美雪が逗留していた。近くには総兵衛を狙う鵜飼衆時雨一族の頭領・洞爺斎蝶丸が潜んでいた。

総兵衛と美雪は武芸者の一行が一人の娘に言いがかりをつけている場面に遭遇し、娘を助けた。こうした出来事があった後、駒吉が弟の芳次をともなって現れた。

「影」から連絡があった。五日前に命が発せられたが、るりがそれに気がつかなかったので遅れたという。

笠蔵からの手紙にその命の内容がしたためられていた。

柳沢吉保の意を受けた者が京に上って清閑寺親房の三女・新典侍教子を綱吉の愛妾に差し出す企てをしているという噂がある。六十を超えた綱吉に若い女を差し出すのは命を縮めるようなものだ。京に上って調べよというものであった。

武芸者たちから助けた娘はおゆみといった。恋路を両親に反対され、京にいる祖父母に直訴にいく道中だという。

総兵衛は駒吉をともない、おゆみと一緒に京に上ることにした。一方、美雪は芳次と供に江戸に戻ることになった。

江戸では北町奉行所与力の鹿家赤兵衛が大黒屋に密貿易の疑いがあると出向いていた。またぞろ柳沢吉保の魔手が伸びようとしていた。鹿家の叔父・鵜飼参左衛門は柳沢家新御番組に新規に召し抱えられた者だということがわかった。そして、甲賀五十三家の名門の五姓家だという。忍びの一族だ。

その頃、京への道中の総兵衛は都合良く現れたおゆみという娘の存在を疑わしく考えていた。

るりが勾引にあった。どうやら本所の中之郷瓦町にある天祥院が怪しい。天祥院は鵜飼家から多額の布施がもたらされているのが分かった。るりの奪還作戦が動き出した。

総兵衛らと同行しているおゆみがある頼みをした。総兵衛はそろそろ本音が出てきたかと思った。

江戸では同心の鶴巻琢磨の後を笠蔵の指示のもと追跡していた。鶴巻は造船場に向かっていた。その造船場には亀が甲羅に覆われているように船の上部も鉄帯で補強された船が何艘も出来上がっていた。

それとは別に、甲賀鵜飼衆が相州の観音崎に向かったということがわかった。観音崎には大黒丸の隠し港がある。大黒屋にとって戦慄すべき事態が生じたようだ。

京に入った総兵衛は清閑寺親房の三女・教子の様子を見る前に、坊城公積を訪ねた。そして総兵衛はこの度の一件を相談することにした…。

本書について

佐伯泰英
知略!古着屋総兵衛影始末8
徳間文庫 約四〇〇頁
江戸時代

目次

序章
第一章 追跡
第二章 勾引
第三章 逼塞
第四章 参籠
第五章 海戦
終章 意地

登場人物

洞爺斎蝶丸…鵜飼衆時雨一族の棟梁
おゆみ(赤蛇子)
鵜飼参左衛門…柳沢家新御番組
鹿家赤兵衛…北町奉行所与力
鶴巻琢磨…同心
坪内定鑑…北町奉行
定岡舎人…柳沢家の御用人
松井十郎兵衛…十智流
猪谷又七郎…無敵流
豆太郎…山城宇治園の番頭
庸念…天祥院の小僧
清閑寺親房
新典侍教子…親房の三女
品川氏郷…表高家
内貴頼母…旗本
坊城公積…中納言