記事内に広告が含まれています。

佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第10巻 交趾!」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約4分で読めます。

覚書/感想/コメント

題名の「交趾」は「こうち」と読みます。交阯とも書くことがあります。また、「こうし」と読むこともあります。

前漢から唐にかけて置かれた中国の郡の名称で、現在のベトナム北部ソンコイ川流域地域を指します。

ベトナム北部というと「安南」という呼び名もあり、「交趾」との違いが今ひとつよくわかりません。

それが時代による名称の違いなのか、それとも地域の広さによる呼称の違いなのか、はたまた別の理由なのか。機会があったら調べて見ようと思います。

それはともかくとして、なぜベトナムの地域名が題名になっているのかというと、前作からの流れから考えるとわかって頂けると思います。

流され流されて西沙諸島と思われるところまで漂流してしまった大黒丸。

西沙諸島はパラセル諸島とも呼ばれ、南シナ海に浮かぶ多数のサンゴ礁の小島が集まっています。現在では、中国、台湾、ベトナムが領有権争いをしている場所です。

ここまで流されたのなら、沖縄を目指すより一端「交趾」を目指した方が早いのは確かなのですが…、遠くへ流されすぎですよ!

あとがきでも書かれていますが、弾みでここまで漂流させてしまったようです。

根底には子供の頃に読んだヴェルヌの「十五少年漂流記」があったそうですが、漂流したのはかわいらしさを失った大人三十名弱です。

本作はその漂流の果てに「交趾」までたどり着いた総兵衛ら一行が交易を行って(タダでは転ばないところは商人です)、江戸へ戻るために出発するまでを描いています。

海洋冒険小説であり、前作から始まり、本作、そして次作まで続きます。その合間に江戸の大黒屋の様子などが描かれているという印象です。

さて、次作では江戸に戻る大黒丸ですが、柳沢吉保との対決が待ち受けているのでしょうか?

内容/あらすじ/ネタバレ

宝永四年(一七〇七)。江戸の大黒屋では息を潜めるような暮らしが続いた。琉球から悲報が届いて以来だ。美雪は一族の者を集めて今起きていることを告げることにした。そして総兵衛の死が確実なものとわかるまでの当座の取り決めをした。鳶沢村から次郎兵衛らも着いた。

宝永五年(一七〇八)が明けた。主のいない間に柳沢吉保がどのような手を打ってくるかわからない。その動静を探るために笠蔵らは応対人の太田棟太郎を籠絡することにした。太田は外にお春という女を囲い、金に窮しているところにつけ込んで情報を引き出そうと考えたのだ。

北町奉行所の筆頭手付同心村上熊丸がやってきた。北町奉行松野壱岐守助義の名で大黒屋総兵衛に呼び出しかあったからだ。総兵衛が本当にいないのかを確かめるための呼び出しのようだ。この難局は美雪は崇子をともなうことで回避することが出来た。

だが、この後、小僧の丹五郎、大和の二人が刺し殺され、これに続いて大黒屋に縁の深いものが次々と殺されていった。

ここにいたって美雪は一つの決断を下す。それは大黒屋の店を閉めるということである。表看板を当座下ろすだけで、商いをやめるわけではない。明神丸をつかって北の方へ船商いを続けるというのだ。

臨月を迎えた美雪は小梅村の寮に行くことになり、大戸を下ろした大黒屋は当面崇子に見てもらうことにした。美雪が七代目総兵衛となる元気な男の子を産んだ。春太郎と名づけられた。

総兵衛も忠太郎ら一族の者も、大黒丸も生きていた。そして再び大海原へ出航するために修理に励んでいた。

船大工の箕之吉が新たな工夫を加え修理を始め、出航できるようになるまで五ヶ月以上かかった。そして試走を終え、いよいよ再び航海に出る段になり、総兵衛は南を目指すといった。

流されてきた場所から考えると、思っている以上に近いところに交趾があるはずである。そこで異国の商人らを相手に取引をして戻るというのだ。幸い大黒丸の積荷は七割以上が無事であった。

六月以上の漂流生活を切り上げて大黒丸は再び出発した。ツロンに大黒丸は着いた。ここで総兵衛はグェン家から招きを受けた。

グェン家の当主は和名・今坂理右衛門といい、先祖は西国の大名家に仕えていたという。戦国の世に海外へ飛び出した日本人の末裔である。

このグェン家は安南政庁の高官であり、ツロンの有力者でもあり、交易商人でもあった。総兵衛はグェン家との交易の約束を取り付けることができた。これで海外交易の拠点が出来た。

笠蔵らが江戸を離れて半年が過ぎていた。

本書について

佐伯泰英
交趾!古着屋総兵衛影始末10
徳間文庫 約三八五頁
江戸時代

目次

序章
第一章 陥穽
第二章 撤退
第三章 孤島
第四章 交易
第五章 行商
終章

登場人物

太田棟太郎…柳沢家応対人
お春
村崎市兵衛…柳沢家御用人
佐々木多聞助
村上熊丸…北町奉行所筆頭手付同心
高藤参五郎…北町奉行内与力
今坂理右衛門(グェン・バン・ファン)
グェン・ヴァン・タム…理右衛門の息子
ソヒ
チン・カオ・ティン…華僑
ハン・ヴァン・カン
キャプテン・マック

古着屋総兵衛影始末シリーズ

佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第11巻 帰還!」を読んだ感想とあらすじ
このシリーズの最終巻です。あとがきでは第一部の幕を下ろす、となっていますので、新シリーズの予感です。新シリーズでは、六代将軍徳川家宣の時代の間部詮房、新井白石、荻原重秀といったところを敵役にするのかもしれません。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第10巻 交趾!」を読んだ感想とあらすじ
題名の「交趾」は「こうち」と読みます。交阯とも書くことがあります。また、「こうし」と読むこともあります。前漢から唐にかけて置かれた中国の郡の名称で、現在のベトナム北部ソンコイ川流域地域を指します。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第9巻 難破!」を読んだ感想とあらすじ
二度目の航海に出発した大黒丸に危難が迫ろうとしています。そのことを知る船大工の箕之吉の行方を捜して総兵衛らと柳沢吉保の手下が動き出します。そして、大黒丸に乗り込んだ総兵衛はこの航海で最大のピンチを迎えます。鳶沢一族の命運はどうなるのでしょうか?
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第8巻 知略!」を読んだ感想とあらすじ
今回は分家の孫娘るりが鳶沢一族に危難をもたらします。信之助と一緒になったおきぬの代りに江戸にのぼってきたるりですが、鳶沢村でのびのびと育ったせいか、細かいところでの配慮に欠けるところがあります。そんな中で起きた事件が鳶沢一族を窮地に陥れていきます。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第7巻 雄飛!」を読んだ感想とあらすじ
前作で登場した武川衆が鳶沢一族の前に立ちはだかるのか?と思っていましたが、今回は展開が違います。まず、大黒屋には念願の大黒丸が完成します。ですが、この大黒丸の初航海は相当慌ただしい状況となってしまいます。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第6巻 朱印!」を読んだ感想とあらすじ
前作でお歌を殺された柳沢吉保。復讐戦が始まるのかと思いきや、本書からは本格的に柳沢一族と鳶沢一族の戦いが幕を開けます。古着屋総兵衛影始末の第二章が幕を開けるのが本書です。柳沢吉保が甲府宰相に任ぜられるところから陰謀が始まります。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第5巻 熱風!」を読んだ感想とあらすじ
江戸時代に約六十周年周期に三度ほどおきた大規模な伊勢神宮への集団参詣運動を題材にしています。この三度ほどおきたのは数百万人規模のものでした。お蔭参り、伊勢参りともいい、奉公人が無断でもしくは子供が親に無断で参詣したことから抜け参りとも呼ばれました。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第4巻 停止!」を読んだ感想とあらすじ
前作で「影」との対決に終止符を打った総兵衛ら鳶沢一族。第二の「影」の出現により今まで通りに影の旗本の役目を果たすことになります。この第二の「影」が早速登場するのかと思いきや、本作では登場しません。とはいっても、第二の「影」らしい人物は登場するのですが...。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第3巻 抹殺!」を読んだ感想とあらすじ
前作で「影」が下した指令は、播磨赤穂藩の藩主浅野内匠頭長矩が高家筆頭吉良上野介義央を斬りつけるという事件に端を発していました。総兵衛は「影」の意に反して動きます。「影」の指令が徳川家の安泰のためには逆に動くものと思ったからです。しかし、そのことによって「影」との対立が表面化しようとしていました。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第2巻 異心!」を読んだ感想とあらすじ
物語は花見をしている時に起きた事件から始まります。江戸の花見は、五代将軍徳川綱吉治世下での名所は不忍池を見下ろす上野の山。江戸時代の花見としては、他に飛鳥山、隅田川堤、品川御殿山、小金井などがありますが、これらは八代将軍徳川吉宗の時代を待たなくてはなりません。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第1巻 死闘!」を読んだ感想とあらすじ
初代総兵衛が徳川家康から直々に拝領した三池典太光世を、六代目総兵衛が先祖伝来の祖伝無想流に工夫を加えた秘剣、落花流水剣で斬る!シリーズの最初から全速力のスピードです。これは、波乱含みで展開が早いのがひとつ。鳶沢一族の全員が総力戦で縦横無尽に駆けめぐるため、視点がコロコロ変わるのが、もうひとつの要素です。