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北原亞以子の「深川澪通り木戸番小屋 第4巻 夜の明けるまで」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

第39回吉川英治文学賞受賞。

シリーズ第四弾。本作では、すべての短編が女性が主人公となっている。

もちろん、この主人公に絡んで、笑兵衛とお捨の夫婦が登場するのだが、しつこく絡むというのではない。ほどよい距離を置いて接するのだ。これは、今までのこのシリーズ通りである。

印象に残った短編は、「いのち」と「夜の明けるまで」。

「いのち」では若い侍の犠牲によって、命を助けられてしまった老婆が、その助けられたという事実の重みに耐えかね自暴自棄になる。

一方、老婆を助けることで命を落とした若い侍を遊びに誘った親友は、もし遊びに誘わなかったらと自責の念に駆られる。この一人の命を挟んで、二人が苦悩する様が何とも切なく、最後の場面にじんわりと来る。

「夜の明けるまで」では、裏表のあるかつての亭主の態度をみて、人への不信感つのらす女が、自分と所帯を持つという男とどう向き合えばいいのか悩む様が、現在にも通じるように思えた。

印象に残った言葉として「絆」の「困っている時は、お互い様じゃありませんか」という言葉。最近聞かれなくなってきたような気がして、思わずハッとした。

こうした言葉も聞かれない、殺伐とした世の中になったのかという思いもある。

内容/あらすじ/ネタバレ

第一話 女のしごと

梅雨の晴れ間。おもよが門前仲町を抜け、参道へ入っていこうとしたところで、お艶にばったり出会った。お艶は、おもよと言葉を交わすようになった時から自分の店を構えたいと言っていた。それがかなったようなのだ。

後日、お艶がおもよに頭を下げて昼間だけでも店を手伝ってくれないかという。まったく忙しい店だった。ついに、おもよは手伝いを断った。だが…。

第二話 初恋

いろは長屋には一目でわけありと知れる夫婦が住んでいる。女房はおしず。亭主の年松は明らかに労咳だ。そこに編笠を被った武士が入った。その武士が弥太右衛門に声をかけた。「紫野」という女を知らないかというのだ。

おしずが紫野だった。武士は紫野の兄・楠田勢之助である。紫野は親戚の不始末の尻拭いをしたために、甲州屋広太郎のもとに嫁いだ。だが、そこでうけた仕打ちに我慢が出来ずに、紫野は甲州屋を飛び出した。

第三話 こぼれた水

弥太右衛門が十日ほど前にいろは長屋に越してきたお京を伴って木戸番小屋に現われた。

お加代は亭主の近江屋山左衛門がお京とつきあい始めたことは知っていた。お加代とは遠縁に当たる。以前に山左衛門が女に溺れたことがあったが、今度ばかりはお京の方が山左衛門に心を惹かれたにちがいなかった。

番頭が眉間にしわを寄せてお加代に言ってきた。山左衛門が番頭に断ってだが、店の金を持ち出しているという。そしてある日、山左衛門は店を空け翌朝に帰ってきた…。

第四話 いのち

木村寛之進は飲み過ぎたと思った。江戸留守居役木村頼母の養子となり一月がたつ。久しぶりの休みに親友の宇佐見要助を訪ね、二人で深川まで出かけたのだ。

その帰り、二人は火事に出会う。そして、寛之進は人を助けて命を落としてしまう。

助けられたおせいは五十四になっていた。身寄りもなく、周囲から嫌われていると思いながら生きてきた。だから、自分を助け、若い命を失った侍のことを皆が嘆き悲しむ様を見ていると拗ねたくなる。

寛之進を遊びに誘った宇佐見要助は後悔の念にさいなまれていた。将来を嘱望され、江戸留守居役の養子になった親友を殺したのは自分だ…。

第五話 夜の明けるまで

書役の太九郎が今のままじゃ女房のなり手がないと弥太右衛門に愚痴をこぼし諍いになった。太九郎には好きな女がいるようなのだ。

おいとは倅の佐吉の寝顔を眺めていた。そして、所帯を持たないかと言ってくれた太九郎の言葉をじっくりと考えていた。

おいとはみんな体裁のいい顔と意地の悪い顔を持っているのだと思う。かつての亭主和助がそうだった。だから、太九郎の嫁の世話をおかつがするという話を聞いたとたん、蹲ってしまった。太九郎も和助と同じなのか。

太九郎が番屋で倒れているという話を聞いても、おいとはすんなりとは出かけられなかった…。

第六話 絆

駒右衛門は探し続けていた娘がみつかった。というより、向こうが探して訪ねてきた。娘のるいは昔駒右衛門が材木問屋を営んでいた時に外に生ませた娘だった。

るいは亀吉という男と暮らしていたが、るいは駒右衛門の所に引っ越してきて世話をしたいといい出す。が、越してきた亀吉の挙動を見て駒右衛門はろくな者ではないなと感じた。

どうやら、駒右衛門が所有する家作をうっぱらって金を手に入れたいようなのだ。

第七話 奈落の底

おたつは荷揚げ人足の三郎助に目を付けたのは、おたつの計画を黙って実行してくれる男が欲しかったからだ。計画に引きずり込むには気の毒な気がしたが、どうしても手助けがいる。

おたつはある事情から、ある女を深く恨んでいた…。

第八話 ぐず

兄の四郎兵衛が地本問屋口をきいてくれたおかげで、おすずの店は人気絵師の錦絵がすぐ届けられる。だから、それなりに繁昌していた。

そのおすずのところに、前の夫・大須賀屋林三郎が現われた。おすずの兄・四郎兵衛に金を借りられないかと、おすずを通じて頼むつもりなのだ。おすずは林三郎の身持ちの悪さが嫌いで離縁してもらったのだ。

おすずには与吉という惚れた男がいた。だが、離縁を期にあっていない。それからどれくらいの年月が経ったのだろうか…。

本書について

北原亞以子
夜の明けるまで 深川澪通り木戸番小屋
講談社文庫 約二六五頁 短編集
江戸時代

目次

第一話 女のしごと
第二話 初恋
第三話 こぼれた水
第四話 いのち
第五話 夜の明けるまで
第六話 絆
第七話 奈落の底
第八話 ぐず

登場人物

お捨
笑兵衛
弥太右衛門
太九郎…書役
久五郎…差配

第一話 女のしごと
 おもよ
 お艶
 おはつ

第二話 初恋
 おしず(紫野)
 年松
 楠田勢之助
 甲州屋広太郎
 甲州屋安兵衛

第三話 こぼれた水
 お京
 お加代…山左衛門の女房
 近江屋山左衛門
 おきわ…山左衛門の母

第四話 いのち
 木村寛之進
 宇佐見要助
 木村頼母…江戸留守居役
 おせい

第五話 夜の明けるまで
 太九郎
 おいと
 佐吉…おいとの息子
 磯次
 おかつ
 おまち
 和助…おいとのかつての亭主

第六話 絆
 駒右衛門
 るい
 亀吉

第七話 奈落の底
 おたつ
 三郎助
 おさわ

第八話 ぐず
 おすず
 大須賀屋林三郎
 四郎兵衛…おすずの兄
 与吉