覚書/感想/コメント
シリーズ第九弾。前作の予想通り水戸へと行くことになった小籐次。小僧の国三やら、手代の浩介と久慈屋の娘・おやえも一緒であり、主の昌右衛門も一緒である。これに駿太郎も加わった六人の旅。
前作の魑魅魍魎のような人物というのは登場しないが、いろいろと騒動に巻き込まれて忙しいのが本作。
まず、水戸へ出向くことになるので小籐次が挨拶回りをしていると、竹藪蕎麦で騒動に巻き込まれる。久慈屋でも一騒動が起きる。浩介がおやえの婿となる件に関して久慈屋の中で不満が漏れているというのだ。そして、もう一つは金座に押込んだ賊との遭遇である。
水戸に着く前に疲れ果ててしまいそうなものであるが、水戸に入ってからも色々と大変な目に遭ってしまうのが本作である。
このまますんなりと水戸から江戸に戻ってこられるのかどうか…。
このシリーズでは二人の大物が小籐次と強く関わる可能性が高い。
一人は老中・青山忠裕。この老中・青山忠裕とは前作で対面を果たしている。
もう一人が水戸藩の徳川斉修である。もしかしたら、弟の徳川斉昭かもしれない。いずれにしても、こちらとはまだ直接の対面は果たしていない。だが、今回の旅で対面することとなるのではないかと思う。
佐伯泰英の他のシリーズでは明確な敵役が設定されていることがあるが、このシリーズではどうなるのか。
このシリーズは文化十四年に始まっており、今は文政二年(一八一九)。文化文政時代、あるいは略した化政時代。十一代将軍徳川家斉の時代で、寛政の改革と天保の改革の間の期間にあたる。
家斉は隠居して大御所となってからも政治の実権を握っていたため、大御所時代ともいわれる。
このシリーズのお馴染みの老中・青山忠裕の同僚には水野忠成がいる。田沼時代を上回る収賄政治を行った人物としても知られる。
だから、ありうるとしたら水野忠成ということになるのだろうか。
このシリーズの今後の展開を楽しみにしたい。
内容/あらすじ/ネタバレ
赤目小籐次は久慈屋の蔵の中に長年眠っていた刃渡り二尺ほどの片切刃造りの大業物・住常陸国笠間兼保の研ぎを終えた。これからしばらく江戸を留守にして、水戸に行くことになるので、方々への挨拶回りをすることにした。
隣人の版木職人の勝五郎が、久慈屋の娘・おやえに手代の浩介が婿入りする話で、古手の番頭の数人が不満を抱いているという話をしてくれた。急先鋒は三番番頭の泉蔵だという。
まずは美造の竹藪蕎麦からと思った小籐次だったが、店先で激しい言い合いがされている。博打の借金に美造が勘当した倅の縞太郎をつれてやくざが来ていたのだ。金を返せという。
やくざは小籐次が追い返したものの、ふてくされた縞太郎が匕首を振り回し、それが美造の胸に突き刺さってしまう。縞太郎はそのまま逃げてしまった…。
縞太郎のことを知っているうづが事情を話してくれた。縞太郎はおはるの連れ子なのだ。そして、縞太郎は亡くなった実父の仕事を継ぎたかった節があったようだ。
次に曲げ物師の親方・万作の所をまわり、倅の太郎吉が縞太郎と遊び仲間ということがわかった。太郎吉によると、縞太郎は赤蟹のおせんという年増女郎に引っかかったようだ。
再び竹藪蕎麦に戻ると、今度は縞太郎がやくざの櫓下の雲蔵につかまったという。小籐次は太郎吉の手を借り、縞太郎の行方を捜してもらうことにした。そして、折良く顔を出した捨吉にも小籐次は頼んだ。
久慈屋の大番頭・観右衛門が三番番頭の泉蔵が浩介とおやえの件で直談判すると騒ぎを起こしたことを教えてくれた。いったん泉蔵は実家にもどして謹慎させることとした。
その泉蔵が小籐次の前に現われた。小籐次が知恵をつけたと逆恨みをしているようだ。そして姿を消した…。
小籐次は水戸へ行くに当たり、伝来の備中次直を腰に携えることにした。それに、小籐次は泉蔵のことを考え、千住宿までは船で行くことにした。一行は久慈屋の主・昌右衛門、娘のおやえ、手代の浩介、小僧の国三、そして駿太郎である。
船の上で昌右衛門は泉蔵について語り始めた。久慈屋で奉公するようになった経緯と、手代に上がってからの評判などである。また、泉蔵の得意先からの入金に怪しいところもあると話した。
小籐次は水戸へ行く前に一度吉原に足を運んだ。ほの明かり久慈行灯の評判を聞きたいのと、その改良点を知りたいのが目的だった。その助けをしてくれたのは花魁の清琴だった。
水戸街道に入って、後ろから早駕籠がすごい勢いで飛んでいった。水戸で何かが起きたのか。
この後、浩介が小籐次に一月ほど前に南品川でみた光景を話した。それは泉蔵が女郎屋で遊んでいる姿だった。それに三人の浪人剣客と一緒にいたという。この話の矢先、浩介が品川宿で見かけた三人の浪人の一人を含む連中に囲まれた。
松戸渡しが普段にもまして厳しい取締となっている。話によると、昨晩江戸城の御金蔵が破られ、数千両が盗み出されて、奥州筋へ盗賊一味が逃げたのだという。
この話の後、小籐次は昌右衛門から幕府の御金蔵は空っぽという話を聞かされる。なんぞからくりがあるのか、江戸からの情報に誤りがあるのか…。
やがて、金座の後藤家に賊が押し入ったというのが知れた。そして賊の親玉が元直参旗本の早乙女吉之助綱信ということがわかった。
そして、雷の鳴る中、泉蔵とその一味が姿を現した…。
久慈屋一行は水戸城下に到着した。
小籐次と昌右衛門は水戸到着の挨拶に久坂華栄家に出向いた。御作事場にはすでに人が集まり小籐次の到着を待ちわびていた。
この御作事場に国家老の太田左門忠篤が顔を出した。そして、そっと小籐次に金座に押し入った賊を手取りにしてくれないかと頼み込む。手助けをしてくれれば、小籐次の旧主・森藩の久留島家を水戸家が応援するといったのだ。
本書について
佐伯泰英
春雷道中 酔いどれ小籐次留書9
幻冬舎文庫 約三一〇頁
江戸時代
目次
第一章 竹藪蕎麦の倅
第二章 水戸への土産
第三章 泉蔵の正体
第四章 長包丁供養
第五章 吉原明かり
登場人物
美造…竹藪蕎麦
おはる…美造の女房
縞太郎…倅
おはま(おきょう)
櫓下の雲蔵…やくざの親分
赤蟹のおせん
万作…曲げ物師の親方
太郎吉…万作の倅
捨吉
泉蔵…久慈屋三番番頭
飯倉伝中
小野塚唯常
菊地七五郎
喜多造…久慈屋の船頭
清琴…花魁
木挽町の伝助…飛脚屋
権造…御用聞き
園田虎八
古内左膳…勘定奉行道中方
早乙女吉之助綱信
真田光三郎…井蛙流
久坂華栄
津村玄五郎…久坂家用人
鞠姫
太田静太郎
太田左門忠篤…水戸国家老
吉田六三郎
種田英次郎
市橋岳鶴…町奉行
吉村作兵衛…物産方
額賀草伯…絵師
細貝忠左衛門…久慈屋本家