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あさのあつこの「弥勒の月」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

暗い過去を持つ男達。それが繰り広げるミステリー・サスペンスです。

主人公の北町定廻り同心の木暮信次郎と、岡っ引きの伊佐治、遠野屋清之介の三人の関係はこの作品だけでは終わりません。

遠野屋清之介の妻・りんが飛び込み自殺をします。

一体なぜ?

ここから事件のすべてが始まります。

事件を追っていくうちに次第に明らかになる遠野屋清之介の過去。

ですが、新たな謎が出てきます。

それはりんが残した朝顔の種です。

一体これには何の意味が?そしてどこでこれを手に入れたのか?

実は早い段階で伏線が貼られています。

話を蒸し返すことがないので、サーっと読んでいると、全く気がつきません。

ですが、最後になってみると、なるほどねぇと、うなってしまいます。

さて、この作品はあさのあつこ氏が藤沢周平氏の影響を受けて描いた作品だそうです。

藤沢作品の初期に見られる暗さに影響されたのでしょうが、藤沢作品にみられる暗い情念とは質が異なり、行間に光が感じられます。

これは好みの問題でしょうが、私の評価は上記のとおりであるからして、好みの差が出たということです。

本作に影響を与えたのは藤沢周平の「橋ものがたり」です。

内容/あらすじ/ネタバレ

履物問屋の稲垣屋惣助は女遊びをしての帰りだった。相手のおまきのことを考えているときのことだった。

足が止まり、二ツ目之橋の袂に立っていた。橋に女がいる。

渡って水音を聞いた。無意識に体が動き、足に女ものの下駄が当たった。黒漆の結構良い品だ…。

女の死体は一ツ目之橋近くに引っ掛かっていた。

伊佐治は北定廻り同心の木暮信次郎の顔を見た。戸板には死体が横たわっている。

伊佐治は本所尾上町で小料理屋をやっており、女房のおふじと息子夫婦が切り盛りしている。おかげで岡っ引き稼業にせいを出せる。生一本の性分で、小金をせびることはできなかったが、面倒見はいい。信望が厚いが、儲け話とは縁がない男だった。

信次郎の父・木暮右衛門から手札をもらったのが二十歳、だが、最近は手札を返そうかとふとよぎることがある。信次郎のことがよく分からないのだ。

頭はなかなか切れると思うが、何を考えているのかがわからない…。

ほとけは森下町の小間物問屋・遠野屋の若おかみだった。名を「りん」という。

遠野屋の旦那がやってきた。その表情には驚愕も悲哀も他の感情も読み取れなかった。忘我の表情でも、魂の抜けた目でもない。

それが、死体の頭を持ち上げ、一言「りん」とつぶやいた。

遠野屋は今一度探索をお願いしたいと信次郎と伊佐治に願った。

信次郎は伊佐治に遠野屋を調べろという。

信次郎は遠野屋が目の前で自分が殺気を放ちながら隙を見せなかったことが気に食わなかった。伊佐治は別の理由で遠野屋が気に入らない。
あいつは一体何ものだ?

信次郎が詰め所をのぞくと、臨時廻りの吉田敬之助が座っていた。

その吉田に遠野屋の事件を話した。吉田は腕を組んで何かを思い出そうとしている。そして吉田は昔にりんが溺れたことがあったのを思い出した。

信次郎が去った後、吉田は何かを告げ忘れていると思った。だが、それが何だったのか…。

信次郎と伊佐治は遠野屋を訪ねた。

遠野屋はおりんが逢引きをしていると決めかかって探索しているなら、見当違いだと述べた。

その様子を見て、伊佐治は、こんな男が絡んでいるんだ、ただの痴話話じゃねえ、と思った。

遠野屋の店の奥で、姑のおしのが首をつった。だが、一命を取り留めた。

稲垣屋惣助が一太刀で斬り殺された。

稲垣屋はさぞ大騒動になっているだろうと思っていたが、伊佐治の予想に反してひっそりとしていた。奥に通され、女房のおつなと対面した。

最期の夜、稲垣屋は下駄のことで出かけたことがわかった。だが、下駄は商売道具だ。

昨晩の行き先は手代の松吉から聞くことにした。出かける前、惣助は「困ったな」と言っていたという。

遠野屋が伊佐治を訪ねたらしい。すぐに追いかけた。

遠野屋は伊佐治に、先代からおりんを頼むと託されていたことを話し出した。遠野屋は先代とおりんに恩がある。そして、自分にとっておりんは弥勒だったという。

その遠野屋が紙切れを出した。紙切れには朝顔の種が入っていた。おりんの字での書付もある。

十年前、三人が一太刀で斬り殺される事件があった…。

信次郎は朝顔の線を探らせることにした。おりんが行っていた先は、庭のある町屋か、いずれにしても朝顔のある場所だ。

おりんはなぜ朝顔の種をもらったのか。この朝顔は咲かせるつもりだったのか。

信次郎は、朝顔は咲いても良かったのだと思った。その頃には、亭主に種の出所を教えても差し支えないようになっていると思っていたのだ。

遠野屋清之介。送りの書付では周防清弥の名だった。清之介は先代が着けた名である。

信次郎は遠野屋におりんの下駄はどうしたと聞いた。ない。遠野屋の顔色が変わった。はじめて見た姿だった

信次郎は読み間違えていたといった。事件そのものをだ。女房の飛び込みに、自分の昔に関係があるとは思っていなかった。おりんは、弥勒のような女でした…。

哀れな。伊佐治は遠野屋に憐憫の情がわいた。

稲垣屋惣助を橋で目撃していた弥助が殺されていた。これも一太刀でだった。一太刀で殺された後、切り刻まれている。

殺された弥助も朝顔の種をもっていた。一体なぜ…。

遠野屋清之介こと周防清弥は妾腹の子であった。その清弥に父は剣を叩きこんだ。そして、父は清弥に人殺しをさせた。それは己の権力を守るためだった。

父は清弥に藩の「裏」を預けようという。それを統べ、わしのために働けという。

そして父はついに兄を殺せという。だが、清弥は父を斬り、兄はそうした弟に新しい人生をやり直させるために江戸に出させた。

そこで清弥はおりんに出会ったのだ。

遠野屋に出入りの医者・里耶源庵が吉田とつながった。里耶は養子だという。そして、里耶の家には朝顔が植わっている。評判も悪くない。だが、一体何ものなのだ?

本書について

あさのあつこ
弥勒の月
光文社文庫 約三〇〇頁

目次

第一章 闇の月
第二章 朧の月
第三章 欠けの月
第四章 酷の月
第五章 偽の月
第六章 乱の月
第七章 陰の月
第八章 終の月

登場人物

木暮信次郎…北定廻り同心
伊佐治
源蔵…伊佐治の手下
遠野屋清之介
おしの
(りん)
おみつ
稲垣屋惣助…履物問屋
おつな…惣助の女房
松吉…手代
おまき
弥助
お絹
里耶源庵…医師
吉田敬之助
(木暮右衛門)…木暮信次郎の亡き父