
畑尚子の「幕末の大奥 天璋院と薩摩藩」を読んだ感想
「はじめに」に述べられているが、著者が天璋院に出会ったのは宮尾登美子氏の「天璋院篤姫」によってだったという。小説「天璋院篤姫」が刊行された昭和五十九年当時は、大奥の研究が停滞期にあった頃で、明治期に出版された「旧事諮問録」「千代田城大奥」といった聞書きと、三田村鳶魚の「御殿女中」が大奥研究のバイブルであり、研究はその域を出ないとされていた時分だったようだ。
歴史上の事件を扱った短編集である。「逆軍の旗」は明智光秀を扱い、「上意改まる」「二人の失踪人」は藤沢周平の郷里の歴史を題材にとったものである。最後の「幻にあらず」は上杉鷹山を主人公とした短編である。
直木賞受賞後の作品二編と、受賞前の作品三編を収録した短編集。藤沢周平の初期の短編集とあって、全体的に暗さの目立つ作品集となっている。
老境にさしかかってから見える小さな希望が、この作品にはある。だが、それでも、この作品からは老境の悲哀が消え去ることはない。だからこそ、素晴らしい作品であると思う。