江戸時代に特化した教科書です。
江戸文化歴史検定公式テキスト(上級)となっていますが、江戸文化歴史検定を受けるつもりのない人にとっても面白い内容です。
広く薄く江戸時代の全体を俯瞰するように書かれており、江戸学の入門書の決定版とも言えます。
記述は上下二段で、表や図、写真などが必要な箇所に適切に取り入れられています。
時代小説が好きな人、時代劇が好きな人、歴史が好きな人にとっては必携の一冊です。
表や図、写真というのは良いです。これまで小説などを読んでいて、イメージのわかなかったものを具体的に示してくれるからです。
具体的には髪型の写真がそうです。江戸時代、髪型は時とともに変わっていきました。
ですが、どういう髪型をしていたのかが今ひとつ分かりませんでした。これが、写真によって多少分かるようになりました。多少というのは、代表的な髪型の全てが掲載されているわけではないからです。
また、江戸城本丸の見取り図や、吉原の略図というのも大いに参考になります。
江戸時代のすべてが書かれているわけではありませんが、これほど内容がまとまった入門書というのはありませんでした。
これまでのものは、特定の部分だけを紹介するというもので、全体を見渡すようなものというのはなかったのです。
あったとしても、一人の著者によるもので、その著者の興味のある部分や強い部分を中心に書かれることが多かったように思います。
本書は執筆者が複数であることから、特定分野だけが厚いということはなくなっています。これだけでも意義のあるものだと思います。
本書から出発して、さらに江戸時代を知りたい人のために、巻末に参考文献が掲載されています。中には全集なども含まれているので、おそらく総計三〇〇冊を越える本が参考文献となっているようです。
参考文献の中には入手困難なものもあるだろうし、内容的にも専門性が強すぎるものもありそうなので、すべてが私を含めた一般読者に向いているとは思えません。
文庫や新書などで参考文献にあがっている本でも読むのがせいぜいではないでしょうか。それで十分だと思います。
さて、こうした教科書は一冊である必要はありません。他の出版社も、こうした教科書を作成すればいいと思います。
大まかなところでは重複したとしても、本書の中にも分野として記述の足りない箇所があるはずです。そうしたものを補足するような本が登場するのを待ち望みます。
そうしたものがない現在、教科書として本書が最高のものであると思います。
詳細な目次
カラー口絵:江戸風俗の展開/江戸時代ファッション図鑑/江戸時代美術と出版
第一章 江戸幕府
1 幕藩体制 : 支配の構造/支配の組織
2 幕府と大名 : 幕府との関係/参勤交代/藩邸の営み
第二章 将軍と江戸城
1 江戸城 : 江戸城築城/江戸城の運営
2 将軍と大奥 : 将軍の一生/将軍の一年/将軍の一日/大奥の生活
第三章 武家の営み
1 幕臣の身分と仕事 : 幕臣の身分/幕臣の仕事/幕臣の家来と奉公人
2 幕臣の生活 : 幕臣の一生/幕臣の一年/幕臣の一日/幕臣の家族
3 江戸詰勤番武士の生活 : 勤め/暮らし
第四章 江戸の営み
1 町のハード : 都市構想/流通と交通/ライフライン
2 町のソフト : 町の仕組み/警察と裁判
3 江戸の生業 : 商人/職人/さまざまな生業
第五章 江戸の暮らし
1 町人の暮らし : 町人の一生/町人の一年/日々の暮らし
2 行楽と盛り場 : 祭礼と神社での興行/江戸庶民の行楽/遊廓
3 衣食と趣味 : グルメ/ファッション/嗜好品と趣味
第六章 文化と芸能
1 文化 : 絵画/工芸/文芸/出版
2 芸能 : 芝居/演芸
第七章 学びと学問
1 学びの場 : 官学/藩校と私塾/寺子屋
2 学問と思想 : 儒学と国学/蘭学と科学/江戸時代の諸思想
第八章 地方の暮らし
1 藩の経営 : 藩の財政/藩政改革
2 村の社会と生活 : 村のシステム/村の生活
3 村の生業 : 農村の暮らし/漁村の暮らし/山村の暮らし
第九章 旅と諸国
1 街道と旅の実際 : 旅の環境/庶民の旅の実際/旅の目的
2 外国との接点 : 四つの口/日本と外国の眼
【史料を楽しむ】
御大名出世双六/奥勤楽寿ご六/江戸御見附略図/諸商人通用賦帳集/あたり升鏡 江戸じまん大通一覧/江戸現在名書家唐紙半切謝義/三井親和筆屏風/諸国豊作一覧 見立番付/後免琉球人行列附
【細見】
松平から徳川へ/江戸時代名数辞典1/江戸の浪人/江戸時代名数辞典2/江戸時代名数辞典3/江戸のアウトロー/天明の打ちこわし/江戸時代名数辞典4/吉原の遊び方/武術稽古所/江戸時代名数辞典5/曾我物の世界/幕末革命の実態/幕末の志士たち/「名君録」と「暗君録」/百姓一揆の作法/江戸時代の大変/女性の旅/江戸時代名数辞典6
本書について
江戸博覧強記
江戸文化歴史検定公式テキスト(上級)
江戸文化歴史検定協会・編
小学館 約四〇〇頁
解説書
簡単な目次
第一章 江戸幕府
第二章 将軍と江戸城
第三章 武家の営み
第四章 江戸の営み
第五章 江戸の暮らし
第六章 文化と芸能
第七章 学びと学問
第八章 地方の暮らし
第九章 旅と諸国