覚書/感想/コメント
スティーブン王と女帝モードの争いは元の状態に戻ってしまった。
オックスフォードでスティーブン王は女帝モードを包囲しており、この結果この争いに終止符が打たれるはずだった。
だが、女帝モードがこの包囲網を抜け出したのだ。全ては元の状態になってしまった。
政治的な状況は混沌としているが、物語もまた混沌としており、不思議な巡り合わせが物語全体を包んでいる。
歴史は繰り返すというが、それは政治的な状況であると同時に物語の重要な骨格ともなっている。
だが、物語は同じ過ちを繰り返させないことにより、物語の最後は清々しいハッピーエンドとなっている。
ちょうど、冬が来たら次には春が来るように、希望に溢れた物語である。
さて、このカドフェル・シリーズとしては珍しくヒュー・ベリンガーが登場しない作品である。
また、カドフェルの助手は前作から引き続きウィンフリッドが務めているようである。
内容/あらすじ/ネタバレ
シュルーズベリの聖ペテロ・聖パウロ修道院に厳しい冬が訪れた。
修道主達は手分けをして屋根での作業にあたっていた。厳しい冬の雪に耐えるために。
だが、この作業の中で不幸な事故が起きた。ハルイン修道士が屋根から落ちたのだ。
ハルイン修道士の怪我は絶望的なものだった。誰もがそう思った。
ハルイン修道士自身もそう思い、最期の懺悔を捧げようと思っていた。
この懺悔を聞いたのは修道院長のラドルファスと、ハルイン修道士の希望によりカドフェルの二人であった。
懺悔はかつてハルイン修道士がカドフェルのもとで働いていた時に薬草を盗み出し、その薬草を堕胎に使用したというものだった。
その相手はハルイン修道士がかつて愛していた女だった。
幸いにもハルイン修道士は危機的状況を越えた。
ただし、ひどい骨折により、足の自由は奪われる結果とはなったが。
だが、ハルイン修道士は松葉杖に頼りながらも歩けるようになると、かつて愛した女を殺してしまったことの贖罪をするために、女の母を見舞いたいと考えるようになった。
そのことは許され、付き添いとしてカドフェルが同行することになった。
しかし、この道中で二人が遭遇したものは、かつての若き日のハルイン修道士と同じように苦しむ若い男女の姿であった。
そして、これが思わぬ悲劇を…
本書について
エリス・ピーターズ
ハルイン修道士の告白
光文社文庫 約270頁
12世紀イギリス
登場人物
カドフェル…修道士
ラドルファス…修道院長
ハルイン…修道士
アデレーズ・ド・クレアリー…オーデマールの母
オーデマール・ド・クレアリー…荘園主・貴族
バートレイド…オーデマールの妹
ロスエア…アデレーズの馬丁
リューク…ロスエアの息子
センレッド・ヴィヴァーズ…小貴族
エンマ…センレッドの妻
ヘリセンデ…センレッドの妹
ロースラン…センレッドの息子
エジサ…乳母
ジャン・ド・ペロネー…ヘリセンデの婚約者
パトリス…女修道院長