覚書/感想/コメント
1144年8月酷暑の夏だった。エセックス伯ジェフロワ・ド・マンデヴィルは暑さのために兜を脱ぎ、鎖帷子も脱ぎ捨てていた。
だが、これが仇となる。彼の頭に弓があたり、傷はたいしたことはなかったものの、感染症にかかりついに帰らぬ人となる。これにより、平和がもたらされ、ラムゼー修道院も復興の道を歩み始める。その中での出来事が今回の物語である。
今回は聖ウィニフレッドの棺を巡り、大きな事件が起きる。こうした聖遺物を盗むというのは意外と頻繁に行われていたらしい。
本書でも、その所有権を巡る争いが描かれているが、盗んだ側の理屈は要約するとこういう事になるらしい。盗まれることが聖人の意志であり、もし聖人にその意志がなければ盗みは上手くいくことはなかったであろう。
盗みが上手くいったということは聖人がそのようになされたかったのであり、これは正当な行為である。というのである。まさに盗人猛々しいとはこのことである。
さて、本書では所有権の正当性をはかるために、聖書占いというものが行われる。聖女の聖骨箱の上に<聖書占い>の福音書を乗せ、任意のページを開いて指のおかれた場所に書かれている文句から占いの意味を読み解くものである。
この聖書占いが本書の一つのハイライトであるので、どういう文句が出てくるのかは本書で確認して頂きたい。そして、この聖書占いで登場する文句が、馴染みのある人物を窮地に追い込む。それが誰だかも、本書でご確認頂きたい。
内容/あらすじ/ネタバレ
エセックス伯ジェフロワ・ド・マンデヴィルの死の報告とともに、それまで土地を離れていたものが戻り始めた。ラムゼー修道院もその修復をするために奔走し始める。ジェフロワ・ド・マンデヴィルがために、とんでもなく荒らされていたからである。
その使者が、シュルーズベリにやって来た。ラムゼー修道院の副院長補佐のヘールインと見習い修道士のチューティロの二人である。チューティロは二百年以上前に死んだサン・ガルの修道士で美術、絵画、詩歌、音楽に長けた聖人にちなんで名付けられていた。
そして、彼も名に恥じない才能を持っていたのである。彼ら二人が来ている同時期に吟遊詩人のレミー主従がシュルーズベリ修道院に泊まっていた。
そのシュルーズベリを豪雨が襲い、川が氾濫した。洪水は思ったよりも広がりをみせそうであり、修道院は大切なものを避難させ始めた。もちろん、修道院にとっても最も重要な聖ウィニフレッドの棺も。
水が引き、避難させていたものを元に戻している最中、重大な事実が判明する。聖ウィニフレッドの棺が無くなってしまったのだ。誰かが、洪水の騒ぎに紛れて故意に持って行ったようである。
疑いは、ラムゼー修道院からやって来た客二人に向けられた。というのも、彼らだけが洪水の後に修道院を出ていたからである。
彼らに問いただそうと思っている矢先に、荷物を運んでいた人間が戻ってきた。途中で賊に襲われたというのだ。ヒュー・ベリンガーらが駆けつけると運んでいた荷物の多くは盗まれていたが。
だが、幸いなことに聖ウィニフレッドの棺は領主のロバート・ボーモントの元に運ばれていた。
再び聖ウィニフレッドはシュルーズベリ修道院に戻ることを得たが、一体誰が棺を盗もうとしたのか。その犯人が棺を運び出す手伝いをしたアルドヘルムの証言が待たれた。だが、このアルドヘルムが何者かに殺されてしまった。一体誰が、何のために?
本書について
エリス・ピーターズ
聖なる泥棒
光文社文庫 約345頁
12世紀イギリス
登場人物
カドフェル…修道士
ラドルファス…修道院長
ロバート……副修道院長
ジェローム…修道士、ロバートの腰巾着
ヘールイン…ラムゼー修道院の副院長補佐
チューティロ…見習い修道士
ロバート・ボーモント…レスター伯爵
レミー…吟遊詩人
ベネゼット…レミーの従者
ダーアルニー…レミーの歌い手
ドナータ・ブラウント…荘園主未亡人
サリエン…ドナータの息子
アルドヘルム…羊飼い
ヒュー・ベリンガー…州執行長官