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藤沢周平「隠し剣秋風抄」の感想とあらすじは?

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隠し剣シリーズの第二弾。全九編の短編集。前回同様、今回も独創的な秘剣が炸裂します。

さて、印象に残る短編は、「暗黒剣千鳥」「盲目剣谺返し」の二編です。

「暗黒剣千鳥」は時代ミステリーといって良い作りになっています。かつての仲間が次々と斬られます。

犯人は誰か?筋書きが巧くできていますので、”うーん、そうくるか”、と唸ってしまいます。

しかも、この短編で良くまとめたものだと感心するできばえです。

「盲目剣谺返し」では三村夫婦の悲哀が良く書かれています。この短編は、最後の場面が一種の清涼感を与えてくれる好作品です。

この「盲目剣谺返し」は2006年公開の映画「武士の一分」(主演:木村拓哉、壇れい)の原作です。

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内容/あらすじ/ネタバレ

酒乱剣石割り

弓削甚六は無類の酒好きで、酒毒に犯されている。酒を飲むと大虎に化ける甚六だが、剣の腕には天賦のものがあり、甚六は石割という秘剣を授けられている。その甚六が家老に呼ばれて、側用人の息子・松宮左十郎を斬れと命ぜられる。

甚六には、喜乃という妹がいる。だが、この喜乃には秘めた相手がおり、それは組頭の総領だった。ある時、甚六は喜乃が弄ばれているというとんでもない話を耳にした…

汚名剣双燕

由利の夫が同僚を斬って逃げるときに、八田康之助は由利を思い浮かべて、斬らずに避けてしまう。以後、臆病者として侮られることになる。だが、この由利には醜聞がつきまとうようになる。今度の相手は関光弥である。

ある日、康之助は由利に誘われ、そこで関光弥を斬ってくれと頼まれる。捨てられたというのだ。康之助はこれを断わった。

後日、康之助は関光弥と同情の跡目を巡って立合いをする。この時、康之助は自分で編み出した秘剣を使わず、関光弥に破れた。

女難剣雷切り

佐治惣六は過去に二度妻に逃げられた。そこに、嫁をもらわぬかと勧める人が現れた。話を持ち込んできたのは服部九郎兵衛である。惣六はこの話を受けたが、嫁となった嘉乃は惣六を避ける。

ある日、惣六に忠言をしてくれる人がいた。嘉乃は昔から、そして今も服部九郎兵衛の妾であると。惣六は押しつけられたのだ。そうと知って…

陽狂剣かげろう

許嫁の乙江が奥へあがることになり、婚約は解消されることになったが、乙江がすんなりと奥にいくために佐橋半之丞は気が触れた振りをした。

乙江の家は剣術の道場を開いている。主は半之丞の師匠であり、この婚約解消の代わりといってはなんだが、秘剣を授けられた。半之丞はそこに取引めいたものを感じた。

偏屈剣蟇ノ舌

人が右といえば左を向く偏屈者の馬飼庄蔵。だが、剣はめっぽう出来る。家中の争いのために、重臣たちはこの偏屈者を利用しようと企む。庄蔵を遠藤久米次が呼び出し、それとなく斬る相手のことを喋る。

相手が剣もたち、品もよいという話に庄蔵は興味を示したようだが、本当に斬るかどうかは分からない。

好色剣流水

三谷助十郎には好色の噂があったが、実際はそういう風にいわれるほどのことではない。その助十郎の念頭にあるのは、いつか服部の妻女とわずかでも話が出来ればという思いである。

だが、ある日、この念願が叶う出来事が起きた。しかし、その場をある人間に見られてしまった…

暗黒剣千鳥

三﨑修助は実家の冷や飯食いだが、修助に縁談が持ち込まれた。しかし、修助の周辺では大変なことが起きていた。それは牧治部左衛門の差し金で政敵を葬るために放たれたかつての刺客仲間が、次々と斬られていったのだ。

残る者も少なくなった時、三﨑修助は牧へ相談するが、牧は病床に伏していた。だが、この相談の後も仲間は斬られていく、そのうちの一人が死の間際に呟いた一言で、修助は誰が斬ったのかが分かった。

孤立剣残月

藩命で討った鵜飼の弟が恨みを果たすべく果たし合いを申し込んでくるらしい。筋違いな話に小鹿七兵衛は当惑する。剣の稽古をしてみるものの、体が鈍っている。小鹿七兵衛に焦りが生まれていた。

上役の取りなしを頼んだり、助太刀を頼んだりしたが、いずれも不首尾に終わる。一人で立ち向かわなければならなくなったとき、かつて授けられた残月という秘剣を思い出そうとした。

盲目剣谺返し

三村新之丞は毒味の仕事の最中倒れ、次第に視力を失い、今では視力を失ってしまった。視力を失ったかわりに、他の感覚に鋭さが増し、妻・加世の化粧の臭い等から男の影を感じ取る。

最初に加世に関する話を持ってきたのは従妹の以寧だった。ある場所で、加世を見たという噂を持ち込んだのだ。その場所が武家の妻女が夜分出入りすべき町ではなかった。

視力を失って以来、久方ぶりに新之丞は剣の稽古をした。だが、以前と勝手が違う。最初は戸惑いを覚えることが多かった。

ある時、新之丞は徳蔵に加世の尾行を命じた。その結果、噂は本当だったのが判明した。相手は新之丞の上司・島村藤弥。新之丞はそうなったいきさつを加世に問いただし、離縁を申し伝えた。

その後、新之丞は山崎兵太にある事を調べてもらうことにした。その間も、新之丞は剣の稽古を絶やさなかった…

本書について

藤沢周平
隠し剣秋風抄
文春文庫 約三三〇頁
短編集 江戸時代

目次

酒乱剣石割り
汚名剣双燕
女難剣雷切り
陽狂剣かげろう
偏屈剣蟇ノ舌
好色剣流水
暗黒剣千鳥
孤立剣残月
盲目剣谺返し

登場人物

酒乱剣石割り
 弓削甚六
 喜乃
 松宮左十郎

汚名剣双燕
 八田康之助
 関光弥
 由利

女難剣雷切り
 佐治惣六
 嘉乃
 服部九郎兵衛

陽狂剣かげろう
 佐橋半之丞
 乙江
 おあき

偏屈剣蟇ノ舌
 馬飼庄蔵

好色剣流水
 三谷助十郎
 鹿乃
 服部弥惣右ェ門

暗黒剣千鳥
 三﨑修助
 牧治部左ェ門
 秦江

孤立剣残月
 小鹿七兵衛
 高江
 鵜飼半十郎

盲目剣谺返し
 三村新之丞
 加世
 徳蔵
 島村藤弥
 山崎兵太

「海坂藩もの」が収録されている作品

  1. 隠し剣孤影抄
  2. 隠し剣秋風抄 本書
  3. 暗殺の年輪
  4. 蝉しぐれ
  5. 冤罪
  6. 竹光始末
  7. 静かな木
  8. 闇の穴
  9. 闇の梯子
  10. 雪明かり

映画の原作になった小説

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藤沢周平「闇の歯車」の感想とあらすじは?
職人のような作品を作る事が多い藤沢周平としては、意外に派手な印象がある。だから、一度読んでしまうと、はっきりと粗筋が頭に残ってしまう。そういう意味では映像化しやすい内容だとも言える。
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