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藤沢周平の「雲奔る-小説・雲井龍雄」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

幕末の志士を描いた作品で雲井龍雄の名前を有名にした作品である。同様に幕末を描いた作品として清川八郎を描いた作品として「回天の門」がある。

「回天の門」は幕末の暗闘が最も激しくなり始める頃を描いており、本書は幕末の、それこそ末期の大勢が決しつつある頃を描いている。

結果として、雲井龍雄は遅れて登場した志士であった。彼が登場した頃には、大勢が決しつつあり、龍雄の奔走もむなしく、薩摩藩の考えるところに帰着してしまう。

大勢が決まってしまうと、龍雄に出来ることといえば、いかにして会津鎮撫の軍を取りやめにさせるかであった。会津鎮撫の軍は、龍雄の米沢藩の進退を窮まらせるものであったからだ。

歴史小説として描かれることがなくとも、当時、雲井龍雄と同じ様な苦悩を味わった志士は多かったはずである。あるいは、雲井龍雄と同じく歴史小説の人物として取り上げるに足る魅力的な人物はまだまだいるのかも知れない。

何しろ、今となっては人気のある坂本竜馬でさえ、司馬遼太郎が取り上げるまでは、ほとんど知られていなかったのであるから…

この幕末を描いた歴史小説は数限りなくあるので、それらをあわせて読むと一層面白く感じられるはずである。

内容/あらすじ/ネタバレ

雲井龍雄(小島龍三郎)は米沢藩の下級藩士である。雲井龍雄は暴動を起こした郷民を沈静化するために屋代郷警備にあたっていた。それは、以前から米沢藩の財政は逼迫していたことから端を発した暴動であった。

この頃、龍雄は江戸に行きたいと思っていた。自分の学問を深めるためである。だが、可能性はほとんどなかった。だが、そんな龍雄に江戸詰めの命令が出た。わずか半年の任である。それでも龍雄は喜んだ。

江戸に入った龍雄は藩邸での仕事に就いた。しかし、暇な仕事で、上司の猪俣宮次に、時間のあるときに塾に通わせて貰いたいと願い出た。許しを得た龍雄は三計塾の安井息軒のもとに通うことになった。

三計塾で龍雄は短期間に頭角を現わした。安井息軒の講義は龍雄を刺激し、同時に時勢に対する洞察力をはぐくんでいった。息軒の三計塾を巣立っていった者の中には、長州の桂小五郎、広沢兵助、品川弥二郎らがいる。龍雄は三計塾で塾頭を務めるまでになっていた。

だが、龍雄は任期が終わり米沢に戻った。

時代は激動を迎えていた。龍雄は江戸での生活の間、特に三計塾で諸藩の探索方の人間を何人も見てきた。時代の流れを読み誤らないために、藩に必要なのは探索方である。そう信じて龍雄は上書、歎願を繰り返した。それが、世子の目にとまり、龍雄は探索方に就任した。

京に上洛した龍雄は三計塾の人脈を出来る限り活用することにした。龍雄は遠山翠という変名を使って本格的に活動に入っていった。
ここに幕末の志士雲井龍雄が誕生したのだった。

本書について

藤沢周平
雲奔る 小説・雲井龍雄
文春文庫 約二九〇頁
長編 江戸幕末 雲井龍雄

目次

第一部 雲奔る
第二部 討薩ノ檄
第三部 檻車墨河を渡る

登場人物

雲井龍雄(小島龍三郎)
ヨシ…妻
お志賀…義母

甲村休五…飫肥藩士
藤江卓蔵…龍野藩士
広沢兵助…長州藩士
世良修蔵…長州藩士
後藤象二郎…土佐藩士

安井息軒
安井謙助…息軒の息子

千坂太郎左衛門高雅…家老
猪俣宮次
斎藤篤信

上泉直蔵