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藤沢周平の「又蔵の火」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

直木三十五賞受賞後の作品二編と、受賞前の作品三編を収録した短編集。

藤沢周平の初期の短編集とあって、全体的に暗さの目立つ作品集となっている。

あとがきでも書かれているが、この暗さは、藤沢周平が書くことでしか表現できない暗い情念が、作品の形は違うものの、生み落としたものである。

だから、物語の結末は必ずしも希望にあふれた明るいものではない。

それにもかかわらず、作品の中では、それぞれの抱える困難や苦境から何とかして脱却したいとあがく人間を、温かく見つめる藤沢周平の視線を感じることが出来る。

内容/あらすじ/ネタバレ

又蔵の火

又蔵がふるさとに戻ってきたのは、兄の仇討のためだった。兄の土屋万次郎が座敷牢を破って逃げ、そのまま荘内藩を脱藩し、二年後に戻ったところを捕えられ、連行中に斬殺されたのは五年前のことだった。

兄の万次郎は家の鼻つまみ者だった。だが、又蔵はこの兄のことを憎むことが出来なかった。

それどころか、座敷牢からの逃亡を手助けしたのは又蔵だったのだ。又蔵は兄の中に放蕩の快楽に浸った以上に悲惨で傷ましいものを見てきている。盗っ人にも三分の理という。

だから、兄の万次郎が殺されて、その仇討を決意したのだ。

帰郷

老いた渡世人の宇之吉が故郷に戻ってきた。宇之吉には弔いの宇之という異名がある。喧嘩出入りのあるところに、死臭を嗅ぎつけたかのように必ず現れたからである。その宇之吉の横を殺気だった若い渡世人が通り過ぎた。

橋の上で斬り合いが始まっていた。どうやら囲まれているのは先程宇之吉を通り過ぎた若い渡世人のようだ。

故郷はだいぶ変わっていた。若いころ厄介になっていた、高麗屋が傾き、かわりに野馬の久蔵が勢力を伸ばしていた。

それらの事情を知った、宇之吉はたいした感慨も持たなかった。

だが、飲み屋の女であるおくみが実は自分の娘であることを知り、そのおくみと出来ていたのが、宇之吉の横を通り過ぎた若い渡世人である源太であることを知り、源太が厄介ごとに巻き込まれていることを知ると…

賽子無宿

喜之助は熱から眩暈を起こしていた。額から吹き出した冷たい汗を拭ったその右手には薬指の先がない。二年前喜之助を江戸から逐ったものが、江戸に戻る気を起こさせないために捺した烙印である。

喜之助はふらふらの状態で屋台に入り込んで、そこで倒れてしまう。介抱してくれたのは屋台の女でお勢といった。

お勢のおかげで何とか病状は改まった喜之助がまず確かめたかったのは、加賀屋藤吉の様子だった。まだ賭場が開かれているのかを確かめたかったのだ。だが、案の定、賭場は他の者に取られていた。

喜之助はそのまま新吉を訪ねると、そこで意外なことを知る。

割れた月

三宅島からの船が霊岸島に着いた。そして流人を降ろした。鶴吉はお紺が迎えに来ていやしないかと思ったが、お紺の姿は見あたらなかった。そこで、鶴吉はとりあえず、昔住んでいたところに戻ってみたが、お紺の姿はなかった。

かわりに隣に住んでいたお菊と再会した。鶴吉はお菊からお紺のわずかな消息を聞くことが出来た。そして、鶴吉はお菊の父親の理助の言葉に甘えて、お菊の家に厄介になっていた。

鶴吉は徐々に堅気の生活になれていったが、そんなときに理助が卒中で倒れた。鶴吉はお菊とともに必死になって働き、理助の病気の薬を工面したが、それも段々と苦しくなり…

恐喝

ちんぴらの竹二郎は、難癖をつけた店の娘に助けられる。その竹二郎が善九郎の指示で、博奕で大負けしている店の若旦那に金か女で払えと強請をした。その女こそ、竹二郎を助けた娘だった。

⇒同作品は講談社「雪明かり」にも収録されている。

本書について

藤沢周平
又蔵の火
文春文庫 約三一五頁
短編集 江戸時代

目次

又蔵の火
帰郷
賽子無宿
割れた月
恐喝

登場人物

又蔵の火
土屋又蔵
土屋万次郎…又蔵の兄
土屋才蔵
土屋丑蔵
土屋三蔵
源六
ハツ…源六の娘

帰郷
宇之吉
源太
おくみ
浅吉
野馬の久蔵

賽子無宿
喜之助
お勢
新吉
おちよ

割れた月
鶴吉
お菊
理助
お紺
源七

恐喝
竹二郎
おたか
善九郎
鍬蔵