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藤沢周平「早春」の感想とあらすじは?

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「早春」は藤沢周平作品としては稀な現代小説です。

この「早春」ですが、解説の桶谷秀昭(文芸評論家)も述べているように、ごく平凡な小説であり、藤沢周平は時代小説や歴史小説に比べると現代小説が上手でないことが分かります。

しかし、だからといって藤沢周平の全ての小説が否定されるわけでもなく、ただ単に現代小説は不得手だというだけです。

藤沢周平の作品は時代小説や歴史小説で揺るがない地位を獲得しているおり、こちらこそが本来の藤沢周平の魅力が発揮されている部分であるから、気にすることはないのです。

また、後半では随筆が収録されていますが、藤沢周平の他の随筆集を読んでみて思うことですが、随筆もあまり得意ではないようです。

しかし、これも藤沢周平の本来の魅力を損なわせるようなものではありません。

藤沢周平の時代小説や歴史小説は、間違いなく面白いのだから、それでいいのです。

内容/あらすじ/ネタバレ

深い霧

原口慎蔵の叔父・塚本権之丞は藩の勢力争いに巻き込まれて死んでいる。このことは藩において禁句であり、慎蔵はことの真相を詳しくは知らない。

ただ、このことがあって以降、現家老・光村帯刀の勢力が伸びたのを見るばかりである。

その塚本権之丞の死に関連する人物が異例の出世をし始めている。相手を新庄伊織という。叔父を討った、第三の男といわれている人物である。

野菊守り

斎部五郎助は内に鬱屈としたものを抱えている。それが近頃は表に出るようになってしまった。自分でも嫌になるのだが、どうにもならない。

そんな斎部五郎助に中老の寺﨑半左衛門が近づいてきた。用件は、現家老の竹中権左衛門の企みを聞いた菊という女を守れというものだった。

早春

岡村は後数年で定年を迎える窓際族である。その岡村が楽しみにしているのは「きよ子」というスナックでの一時だった。娘の華江も結婚を控えており、寂寥たる感に襲われる岡村であるが…

以下は随筆

小説の中の事実

「白き瓶」「天保悪党伝」「春秋山伏記」を題材にして、歴史上の事実のとらえ方の難しさを語っている。また、「漆の実のみのる国」は一度挫折した「「幻にあらず」を再度小説化したものであることも書いている。

遠くて近い人

司馬遼太郎に関して書いている。藤沢周平が読み切った司馬遼太郎の本は「項羽と劉邦」「ひとびとの跫音」「関ヶ原」の三作と「花神」を不完全ながら読んだ程度だそうだ。

それも、藤沢周平の遅読が原因であると告白しているところが面白い。ただ、「この国のかたち」「街道をゆく」は人後に落ちない愛読者であったらしい。

ただ一度のアーサー・ケネディ

脇役が主役を食ってしまうということを書いている。

碑が建つ話

随筆集「ふるさとへ廻る六部は」の「郷里の昨今」に付随することを書いている。

本書について

藤沢周平
早春
文春文庫 約一九〇頁
江戸時代
他に現代小説と随筆

目次

深い霧
野菊守り
早春

小説の中の事実
遠くて近い人
ただ一度のアーサー・ケネディ
碑が建つ話

登場人物

深い霧
 原口慎蔵
 原口孫左衛門…父
 塚本権之丞…叔父
 塚本与惣太…父の従弟
 光村帯刀…筆頭家老
 新庄伊織

野菊守り
 斎部五郎助
 寺﨑半左衛門…中老
 菊
 竹中権左衛門…家老
 与田藤十郎…御側用人

早春
 岡村
 華江…娘
 清子…「きよ子」のママ