覚書/感想/コメント
「相模守は無害」では海坂藩が舞台となっている。だが、公儀隠密によって探られる藩として登場する。公儀隠密が入り込むということは、なにやらきな臭い感じである。
事実、この短編では海坂藩でのきな臭い話が話の軸となっている。こういう風に海坂藩が描かれるのも珍しい。
また、ここで、海坂藩は譜代の藩という設定になっていることが分かる。
内容/あらすじ/ネタバレ
父と呼べ
棟上げの仕事を終えた徳五郎が帰り道で見たのは物盗りの現場だった。だが、逆に物盗りの方が押さえられてしまった。その物盗りには子供が一緒にいた。物盗りの方は捕まって連れて行かれた。残されたのは子供だった。
物盗りの子供を連れて帰った徳五郎だが、どうしたものかと思っている。寅太という子供の親は島送りになるらしい。徳五郎夫婦は寅太を自分の子供として育てることにした。
徳五郎夫婦には徳治という息子がいる。だが、この息子は半端なやくざ者だった。徳五郎はこの徳治の代わりに寅太を育てるつもりなのだ。だが、そんな生活にも…
闇の梯子
清次は彫師である。その清次を訪ねてきた者がいる。一瞬よぎったのは兄の弥之助である。だが、訪ねてきたのは昔の仲間である酉蔵だった。
酉蔵は清次に金の無心をした。清次は酉蔵に金を貸したが、この後、酉蔵は度々清次に金を無心するようになった。
女房のおたみが病で倒れた。たちの悪い病のようだった。その中、清次は浅倉屋久兵衛から頼まれごとをされる。
入墨
姉妹で切り盛りする店に、ろくでなしの父親が帰ってきた。姉のお島は父を毛嫌いし、店への出入りを嫌がった。そんな折、お島のかつての情夫である乙次郎が帰ってきた。
⇒講談社「雪明かり」にも収録
相模守は無害
明楽箭八郎は十四年におよんだ隠密探索が終わって江戸に戻ってきた。だが、何者かに見られている気がした。
その明楽箭八郎が海坂藩上屋敷で見たのは、決してみるはずのない男であった。それは海坂藩家老神山相模守の嫡子・神山彦五郎だった。相模守は失脚、蟄居しているはずである。
だが、神山彦五郎を見たということは相模守が復権していることを意味している。明楽箭八郎は隠密探索が失敗に終わったことを覚った。
でも、一体いつ?だれにばれたというのだ?様々な疑問がわき出る。明楽箭八郎は再び海坂藩へと向かう。
紅の記憶
麓綱四郎は殿岡甚兵衛の所に婿入りすることになっている。娘・加津は顔立ちが十人並みとはいかない。だが、剣術の腕はかなりのものである。
その加津から呼び出しを受けた。その場で聞かれたのは香崎左門をどう思うかというものだった。香崎左門は君側の奸だといわれる。だが、綱四郎には今ひとつ上のことは分からない。
加津が父・殿岡甚兵衛とともに香崎左門を襲って返り討ちにあったのは、それからしばらくしてのことだった。二人とも一刀両断のもとに斬られていた。
本書について
藤沢周平
闇の梯子
文春文庫 約二九〇頁
短編集
江戸時代(海坂藩もの含む)
目次
父と呼べ
闇の梯子
入墨
相模守は無害
紅の記憶
登場人物
父と呼べ
徳五郎…大工
お吉…女房
寅太
おすえ
徳治
闇の梯子
清次
おたみ…女房
弥之助
酉蔵
浅倉屋久兵衛
入墨
お島
おりつ
牧蔵
卯助
乙次郎
相模守は無害
明楽箭八郎…公儀隠密
勢津
神山相模守
佐平次
おつね
紅の記憶
麓綱四郎
登和…妹
加津…婿入り先の娘
香崎左門
伊能玄蔵