覚書/感想/コメント
八嶽党という謎の徒党を巡る伝奇小説。
八嶽党とは寛永のむかしに自裁した駿河大納言忠長の一族であるという。ことあるごとに徳川将軍家の座を狙ってきた謎の徒党である。彼らの悲願は、駿河大納言忠長の血筋の者を将軍にすることである。
本書で描かれているのは、その八嶽党の滅び行く姿である。その彼らの姿には悲しいものがある。
主人公・鶴見源次郎の八嶽党に対する認識が、物語の進行とともに変化していき、同情に変わっていくことも、この悲劇に輪をかけているように思える。
さて、物語の読みどころであるが、ひとつは、この八嶽党と公儀隠密の闘い、それと時の権力を牛耳ろうとする何者かの策動である。そして、もう一つは鶴見源次郎と津留を巡る物語である。
一つの物語に様々な要素が入り込んでおり、なおかつそれらが見事に融合している作品である。読み応え十分の作品。
内容/あらすじ/ネタバレ
鶴見源次郎が筆耕の仕事を納めての帰り。横を駆け抜けた者がいた。そして前方で斬り合いが始まった。
斬り合いは一方的なもので、源次郎が駆けつけたが、一人の浪人が手出し無用と言い放った。
だが、見捨てることも出来ないので、源次郎は刀を抜いた。浪人も刀を抜いたが、相手の構えは源次郎の予想しないものだった。それは柳生流であった。対峙したものの、何やら合図があり、浪人達は散っていった。
鶴見源次郎が斬られた者の側に行くと、虫の息で源次郎に託しものをした。届ける先は老中、まつだいらと言い残して死んだ。男はどうやら公儀隠密のようであった。
友人の細田民之丞の所に行き、事のあらましを述べた。民之丞は松平という老中は三人いるという。だが、なんとかしてその老中を突き止めることが出来た。老中は松平右近将監武元だった。
その老中が鶴見源次郎に会いたいという。仕方なしに会いに行くと、老中は奇怪な話を聞かせた。
それは八嶽党という正体不明の、それでいて折あるごとに徳川将軍家の座を狙ってきた徒党の話であった。その八嶽党は寛永のむかしに自裁した駿河大納言忠長の一族であるともいう。
その八嶽党が動き出しているというのだ。老中は鶴見源次郎に八嶽党の動きを探るのに手を貸せという。
結局、鶴見源次郎は老中の手助けをすることになった。そして、源次郎とともに八嶽党を探るのは公儀隠密達である。
そもそも八嶽党はなぜこの時期に蠢動し始めたのか?そして、彼らの狙いとは一体何なのか?
八嶽党の不穏な動きの裏には、底知れぬ権力の闇が潜んでいるようである。彼らの背後に、何やら怪しげな人物の影が見え隠れする…
本書について
目次
八嶽党
追跡
老剣客
忍びよる影
春の雷鳴
暗い雲
辻斬り
世子評定
風刀・雷刀
往きて還らず
登場人物
鶴見源次郎
織江…源次郎の元妻
津留…織江の妹
鶴見由之助…叔父
細田民之丞…友人
塚本喜惣…師匠
興津新五左衛門…大師匠
赤石道玄…柳生流の達人
奈美…孫娘
松平右近将監武元…老中
松平定信…白河侯嫡子
白井半兵衛…松平定信家臣
一橋民部
田沼主殿頭意次
<八嶽党>
八木典膳
伊能甚内
お芳
<公儀隠密>
松﨑佐五郎
杉江作蔵
鹿閒弥六
布施重助