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誉田龍一の「消えずの行灯 本所七不思議捕物帖」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

小説推理新人賞受賞作。

舞台は幕末。黒船来航に混乱する時期の江戸です。

近世から近代に移る時期で、それは西洋科学の流入によって迷信が否定され、すべては科学的に解明できるという、それまでの価値観がガラリと変わろうとする時期でもありました。

その迷信の代表的なものとして取り上げられているのが、「七不思議」です。

この七不思議の中でも特に有名なのが「本所七不思議」です。

題名にあるように、消えずの行灯、送り提灯、足洗い屋敷、片葉の芦、落ち葉なしの椎、置いてけ掘、馬鹿囃子で、他のものを組み合わせることもあるといいます。

この七不思議に合うように起こる事件。その謎に挑み解決する名探偵役が榎本釜次郎です。のちの榎本武揚の若き日の姿です。

物語は最初に必ず事件が起きます。どのような殺人が起きたかが語られるのです。

その謎に釜次郎が挑みます。この挑む時の決め台詞が「しかと然諾」で、謎を解いた時の決め台詞が「紅炉上一点の雪」です。

釜次郎を補佐するのが仁杉潤之助。他に、剣術の達者な今井君や噺家の次郎吉が重要な登場人物です。

ちなみに出淵次郎吉は三遊亭圓朝、今井君は今井信郎。今井信郎は見廻組に参加して、晩年、坂本龍馬を殺したのは自分だと語っています。

実在の人物は他にも登場します。土方歳三、歌川広重、河鍋暁斎、千葉栄次郎、前島密、小栗忠順、佐久間象山、吉田松陰…。

こうした人々が事件とどのようにかかわっていくのか。それは本書を読んでのお楽しみです。

本書はもっとも有名な「本所七不思議」を扱っていますが、他にも七不思議はあり、それをテーマにして別の物語を作ってもいいのではないかと思います。

「七不思議三部作」とでもいうものに挑戦してほしいと思います。

内容/あらすじ/ネタバレ

消えずの行灯

嘉永六年(一八五三)六月。

浦賀にペルリ率いる米国艦隊が現れた。

これを見に行っていた仁杉潤之助は興奮している。

一緒に行った榎本釜次郎はその様子をみて苦笑いを浮かべている。

二人は本所南割下水近くの江川太郎左衛門の塾で蘭学を学んでいる仲である。

二人が戻ってくると御竹蔵に面した通りと南割下水の交差するあたりに人が集まっている。

そこには死体が転がっていた。死体は左官の山吉である。

山吉がいたと思われる小屋には鉄鍋に炭が入っていた。釜次郎は変だなとつぶやいた。

そこに南町の磯貝と名乗る役人が駆けつけてきた。

おかしいのは鉄鍋の炭だけではない。死因が分からない。

山吉には刃物傷がひとつもなく、毒を盛られた形跡もない。だが、苦しんで死んでいる。

様子を見ていた男の一人が「消えずの行灯の祟りだ」と騒いで逃げだした…。

潤之助は黒船騒ぎの話を父・英之助、母・菊乃、姉・千代に話した。

千代とは血のつながりはない。千代は亡き兄の妻であったが、戻る家もないため母・菊乃が仁杉の娘として引き取ると言ったきり仁杉の家人として暮らしている。

今、千代は手習い所を始めている。

千代に縁談が舞い込んできた。相手は南町の磯貝末之進である。左官の変死事件で見かけた同心である。

釜次郎は変死事件を追いかけるつもりのようだ。潤之助に今井と名乗る少年と、出淵次郎吉という噺家を紹介した。

次郎吉が消えずの行灯のことを説明した。本所七不思議のひとつであるという。

千代の弟子のひとり利助が死にそうだという。

一緒に遊びに行っていた市松の話を聞くと、二人は空き家に光がともっているのを見て、怖がる市松をおいて利助が見に行ったのだという。

そして利助が惨事にあった。釜次郎らはその空き家を見に行った。

三日後。今度は旗本の三男坊・西尾巻三郎が死んだ。

十日後、釜次郎は謎が解けたという。

送り提灯

次郎吉は送り提灯が出た話で持ちきりだと話した。柳原町に住むお佐代という娘が迷子になったところを提灯に送られて帰ったというのだ。

お佐代は千代の弟子だったことがあるので潤之助は覚えている。お佐代は十六で、江戸患い、つまりかっけで家に戻ってきているという話だ。

南町同心・磯貝の姿を見かけた。最近嫁入り前の娘が立て続けに殺されている。傷口は獣が食い荒らしたような痕が残っているという。

幸い、この難を逃れた娘がいた。お美津は送り提灯について行ったら襲われたと言っているらしい。世間はたちまちお佐代の悪口を言うようになった…。

釜次郎はお美津に提灯に連れて行かれた道を教えてほしいと頼んだ。

釜次郎はお佐代の提灯とお美津の提灯は別物だと考えている。そこで、お美津と襲った提灯を捕まえるためにお佐代と千代に囮になってほしいと頼んだ。

釜次郎は辻斬りの目星をつけているようだった。

足洗い屋敷

蕎麦屋で次郎吉は立て続けに起きている辻斬りを話題にした。娘ばかりで、四人とも同じ手口で殺されている。

店の中には忠臣蔵の絵が飾られている。奇妙なのは塩冶判官が男なのはいいとして、加古川本蔵は猫、高家にいたっては女であることである。

これを見た次郎吉は誰の絵かと聞いた。次郎吉は五十過ぎの男が持ってきたのだろうと言ったが、十七くらいの娘が持ってきたという。

次郎吉は歌川国芳の画に間違いないと断定した。

潤之助は五年ぶりに益村小四郎と再会した。

その益村から物の怪に取りつかれているので何とかしてほしいという文が届いた。潤之助は釜次郎とともに益村を訪ねた。

益村は天井から物の怪が出たという。大きな血だらけの足が下りてきて、足を洗えと命じたのだ。本所七不思議の足洗い屋敷の話そのままのことが起きたのだという。

釜次郎は蕎麦屋に戻って潤之助に言った。塩冶判官の顔が益村そっくりだ。おそらく人相書きだろう。それも辻斬りの下手人が益村だという…。

歌川国芳を訪ねた。果たして釜次郎らが去った後、国芳が動いた。後を付けると、絵を持ってきた娘がいた。お紋という。

片葉の芦

秋。釜次郎が与七の姿を見た。与七は磯貝が使っている岡っ引きである。両国橋のたもとに土左衛門が上がったのだ。左足が斬られている。

殺されたのは新吉という岡っ引きであった。新吉にはお駒という娘がいる。

蕎麦屋で待ち合わせをした。今井が楽しそうに話をしている。聞いてみると剣術談義だ。

最近いろんな道場がはやっている。釜次郎と潤之助が通っている江川塾の近くにも道場ができた。

柳剛流という。まず相手のすねを斬りつけるという実戦向きの剣だ。

新吉が殺された周辺は最近話題になっている。片葉の芦が生えるというのだ。片葉の芦は本所七不思議の一つである。

この話をしていると突然後ろに男が立ち、面白い、といった。男は千次郎と名乗った。

新吉が殺された場所の側には藤堂和泉守屋敷がある。事件のあった晩は風が強く、浪人風の男たちが何か物を運んでいたという。

落ち葉なしの椎

急に体調を崩した釜次郎を介抱してくれたのは同じくらいの年頃の若者だ。医術の心得があるという。

助けてくれたのは上野房五郎という。釜次郎が連れ込まれたのは房五郎の知り合いのお夕の家だった。上野は幕府医官見習いだった。お夕はそこで手伝いをしていた。

お夕は体を壊している。今の家に住み続けているのは、椎の木のためである。落葉なしの椎である。

お夕は冬でも落葉しない元気な木の側にいれば病も治ると信じているのだ。

次郎吉が落葉なしの椎が植わっている両替屋黒升屋のことを次郎吉に聞いた。あれは贋物だという。

本物の落葉なしの椎は本所七不思議の一つで、松浦豊後守の上屋敷にある椎だという。

話はかわって、黒升屋の近くに死体が投げ出してあったという。黒焦げだったというのだ…。

上野は三兵答古知幾という外国の兵法書を読んで考え方が変わり、医者をやめて国防に身をささげようと考えたのだという。

国防に興味のある釜次郎と二人の話は尽きることがなかった…。

磯貝は最近贋小判が大量に出回っており、その調べにかかりっきりだという。その出所が本所らしいという。

釜次郎、潤之助、千代、次郎吉、今井、房五郎、お夕らが品川へ視察を兼ねた物見遊山に出かけた。

その帰り、薩摩藩上屋敷近くでお夕の具合が悪くなった。折悪く、薩摩藩の行列の行く手を遮る形になってしまった。薩摩藩の姫の行列だった。

釜次郎は磯貝の追いかけている事件の謎が解けたという。そしてそれがお夕にとって残酷なことになるかもしれないと告げた。

置いてけ掘

置いてけ堀で死人が出たという。

嘉永七年(一八五四)正月。ペルリが再来航した。

死んだのは音松という見世物小屋に出ていた男である。音曲の方を担当していた。

最近は押し込み強盗などがわがもの顔に横行している。中でも川流れの仁蔵という盗賊の質が悪い。川に飛び込んで逃げるからその渾名がついたという。

その仁蔵を磯貝が追いかけている。

音松が死んだという堀に釜次郎と潤之助は出かけた。そこで誰かに突き落とされそうになった。押したのは小娘だと釜次郎は言った。

この場所で剛太郎と名乗る旗本と出会った。

釜次郎は突き落とそうとした娘は音吉の娘のお恭だろうという。

堀で置いてけの声を聞いたという呉服屋の若旦那の話を聞いた。ほとんど声になっていなかったのだという。

馬鹿囃子

ペルリのせいで正月気分が吹っ飛んでいた。

次郎吉がお仙という娘を連れていた。今度旗本屋敷で一席やるという。

別れた後、潤之助と釜次郎は江川塾に向かった。そこに見たことのない二人の男がいた。

顎鬚の男は堂々としている。もう一人は寅次郎というらしい。顎鬚の男は修理と呼ばれている。それがキャメラを自作したという。

お仙は向井という学生の話をした。異国の妖術がつかえるのだとか。遠くの喧嘩の声が聞こえたりしたのだ。

次郎吉は本所七不思議の一つ馬鹿囃子なのかなとつぶやいた。

今日は次郎吉が一席やる日である。旗本米山嘉門の屋敷を借りている。

暮れ六つ。回向院の近くで磯貝は悲鳴を聞いた。お咲という浪人の娘だ。このお咲は向井宇三郎と落ち合うことになっていた。

すると当の向井が現れた。磯貝は向井をただした。だが、向井は先ほどまで米山嘉門のところで落語を聞いていたという。その時のお題を磯貝に告げた。

磯貝は向井が下手人だと思っている。だが、一体どのようにして…。

本書について

誉田龍一
消えずの行灯 本所七不思議捕物帖
双葉文庫 約三七五頁

目次

消えずの行灯
送り提灯
足洗い屋敷
片葉の芦
落ち葉なしの椎
置いてけ掘
馬鹿囃子

登場人物

榎本釜次郎
仁杉潤之助
仁杉千代…潤之助の姉
仁杉英之助…潤之助の父
仁杉菊乃…潤之助の母
今井
出淵次郎吉(橘屋小圓太
磯貝末之進
与七…岡っ引き
利助
市松
西尾巻三郎
黒部兵馬
お佐代
お美津
坪坂生八郎
歳三(土方歳三)
益村小四郎
歌川国芳
お紋
歌川広重
周三郎(河鍋暁斎)
お駒
新吉
千次郎(千葉栄次郎)
青柳寛次郎
お夕
上野房五郎(前島密)
篤子…薩摩藩の姫
出村亥三郎
音吉
お恭
川流れの仁蔵
剛太郎(小栗忠順)
卯ノ介
おきん
お仙
江川太郎左衛門
佐久間象山
寅次郎(吉田松陰)
向井宇三郎
米山嘉門