「鬼平犯科帳」「仕掛人・藤枝梅安」と並ぶ人気シリーズの第一弾。
人物紹介的な巻ですが、シリーズ中の主要な人物の多くが登場している巻です。
記念すべき「鬼平犯科帳」の第一巻である。時代は、田沼時代が過ぎ去り、松平定信が老中の時代。本書で、今後しばらくの密偵の中心となる、相模の彦十と小房の粂八が登場する。二人ともまだ本格的に密偵としての活動はしていないのだが...。
ですので、この巻を読まないと、この後のシリーズでの人物関係がわかりにくくなってしまう可能性があります。この巻から読むことをお薦めします。
この物語の始まりでは秋山小兵衛は五十九才、息・大治郎は二十四才、三冬は十九才です。
本書ですぐに小兵衛は六十才になりますが、当初の設定で小兵衛は九十三才まで生きることになっています。先におはるが死んでしまうのです。
この中で、シリーズで読めるのは、小兵衛が五十九才から六十七才までのざっと九年間です。
ちなみに、解説に書かれていることですが、小兵衛の風貌は池波正太郎と親交のあった歌舞伎俳優の中村又五郎をモデルにしています。
さて、佐々木三冬同様に女性剣士を主人公とした小説に「まんぞくまんぞく」があります。あわせて読まれると面白いと思います。
内容/あらすじ/ネタバレ
女武芸者
秋山大治郎のもとに大垣四郎兵衛と名乗る男がやって来て、腕を見込んでの頼みがあるという。ある人の腕を折ってもらいたいというのだ。五十両出すという。しかし、どこのだれを相手にするのかを言わない。大治郎はその話を断った。そして、父・小兵衛にこのことを話しに行った。
小兵衛が御用聞きの弥七に頼んで探りを入れてみると。裏には永井和泉守の息と老中・田沼意次の隠し子との縁談の話があった。その田沼意次の隠し子というのが、三冬といって剣のめっぽう強い女子だそうな…。
剣の誓約
秋山大治郎を訪ねてきたのは恩師・辻平右衛門と同様に大治郎を鍛えた嶋岡礼蔵である。嶋岡礼蔵は大治郎に死に水を取ってもらうつもりで訪ねてきたのだ。それは約定による真剣勝負があるためだという。相手は柿本源七郎といい、かなりの強敵である。
しかし、柿本源七郎は病魔に蝕まれていた。そのことを嶋岡礼蔵と大治郎は知らない。
芸者変転
「不二楼」の女中・おもとが小兵衛に漏らした話は飛んでもないものだった。おもとが聞いてしまったのは、山田勘助という不良御家人が石川甲斐守を強請にかけようというものだった。
さて…。この頃、田沼意次の隠し子・佐々木三冬が頻繁に小兵衛のもとを訪ねてくる。これを、おはるが面白く思っていない。
井関道場・四天王
佐々木三冬が小兵衛を訪ねてきて相談したのは、三冬がいる井関道場の跡継ぎ問題である。師である井関忠八郎が亡くなった後、後藤九兵衛、渋谷寅三郎、小沢主計、佐々木三冬の井関道場・四天王で運営してきたが、ここにきて跡目をどうするかが問題なってきた。
その中、四天王の一人渋谷寅三郎が殺された。いよいよ、井関道場の跡目を巡る争いは激しくなる。そこで小兵衛が考えた策とは…。
雨の鈴鹿川
秋山大治郎が非業の死をとげた嶋岡礼蔵の遺髪をもって、礼蔵の実兄を訪ねている旅の中。
大治郎は道中で剣術仲間の井上八郎に出会う。井上八郎は恩義のある人物の息子・後藤伊織を助けに行くのだという。この後藤伊織は、ある出来事で人を斬り、敵持ちとなっている。その返り討ちにするために、井上八郎は助けに行くのだという。
…大治郎が江戸に戻って待ち受けていたのは、父・小兵衛とおはるの結婚であった。
まゆ墨の金ちゃん
小兵衛と親交のある牛堀九万之助のところに三浦金太郎がやってきて、大治郎が狙われているから気を付けろと言う。なぜこのことを三浦金太郎が知り得たかというと、内山又平太という男が大治郎襲撃の話を三浦金太郎に持ち込んだからである。
その話を牛堀九万之助から聞いた小兵衛はまんじりとしない。しかし、大治郎の襲撃を企む人物は一体誰なのか?さて、小兵衛はどうする…。
御老中毒殺
田沼意次の御膳番・飯田平助が懐のものを掏摸に取られたのを佐々木三冬が見ていた。三冬は掏摸から平助の取られたものを取り返したが、中にあったのは小判で十両の大金と、油紙にくるんだ小さな包であった。その包みを開いてみて、三冬ははっとした。
本書について
池波正太郎
剣客商売
新潮文庫 約三二五頁
短編集
江戸時代 田沼時代
目次
女武芸者
剣の誓約
芸者変転
井関道場・四天王
雨の鈴鹿川
まゆ墨の金ちゃん
御老中毒殺
登場人物
女武芸者
大垣四郎兵衛
永井和泉守
剣の誓約
嶋岡礼蔵…小兵衛の弟弟子
柿本源七郎
伊藤三弥
芸者変転
山田勘助
石川甲斐守
岸井甚平…小兵衛の弟子
井関道場・四天王
後藤九兵衛
渋谷寅三郎
小沢主計
雨の鈴鹿川
井上八郎
後藤伊織
天野兵馬
まゆ墨の金ちゃん
三浦金太郎
内山又平太
村垣主水
伊藤彦太夫
御老中毒殺
飯田平助