シリーズ第十弾。シリーズ初の長編。
今回は大治郎が窮地に立たされます。
大治郎自身に嫌疑が及んでいるため、大治郎が先頭になって犯人捜しに出ることは出来ません。
そのところがまどろっこしい大治郎であるが、父・小兵衛に任せるしかありません。
しかし、小兵衛もなにやら雲を掴むような思いでの探索です。
犯人は狡猾でその姿を見せません。
そこで、小兵衛を助けるのが、いつもの面々です。
今回は、オールキャストといって良いほど、主要な脇役たちが登場します。
それぞれに役割を分担しつつも、必死に探索をしてくれる姿に小兵衛の胸がうたれます。
皆が協力して息・大治郎の嫌疑を晴らそうとするのは、やはり小兵衛・大治郎の人徳のなせるわざです。
内容/あらすじ/ネタバレ
頭巾をかぶった立派な体格の侍が、「あきやま、だいじろう」と名乗って旗本・井上主計助を斬り殺した。井上に付き添っていた小者はこの難を逃れたため、事が発覚した。
当然、秋山大治郎がしてのけたことではない。しかし、剣客たるものどこでどう恨みを買っているかもしれない。秋山小兵衛はこのことを重く受け止めていた。
井上の小者が主を殺した相手を見つけた。そして後をつけたが、逆に斬られてしまう。小者は死の間際に「こ…こん」と言い残した。それを小兵衛は小者が殺された近くにある金王八幡のことではないかと推測する。小兵衛の推測に従って傘徳こと徳次郎が金王八幡に張り付いた。
さて…杉本又太郎の家の裏で首を吊りかけた男がいる。名を不二屋芳次郎という。岡場所の娼妓・お松に振られたために首を吊ろうとしたらしい。芳次郎は杉本又太郎に殺してくれと頼むが、いざとなるとやはり命が惜しくなった。その代わり剣を教えて欲しいという。お松が惚れている相手に一矢を報いたいらしいのだ。
一方、また秋山大治郎を名乗っての殺しがあった。田沼意次・中屋敷の門前に現れて、門番を斬り殺したのだ。大治郎はそのことを聞いて呆然とする。
凶行はこれに留まらない。今度は、田沼意次と敵対する松平定信の家来がその凶刃にたおれた。
松平定信は激怒し、秋山大治郎を直々に取り調べると息巻くが、その前に町奉行所が大治郎の身柄を確保した。しかし、奉行所の方でも分かっているのである。大治郎は犯人ではないと。
では、一体何者が、何の目的で田沼意次と松平定信に関係する人物を殺害しようとしているのか?
小兵衛は、御用聞きの弥七、下っ引の徳次郎を中心として、鰻売りの又六や杉本又太郎、杉原秀の助けを借りながら真相に迫る。
本書について
池波正太郎
剣客商売 春の嵐
新潮文庫 約三三〇頁
長編
江戸時代 田沼時代
目次
除夜の客
寒頭巾
善光寺・境内
頭巾が襲う
名残の雪
一橋控屋敷
老の鶯
登場人物
不二屋芳次郎
お松
(戸羽休庵)
戸羽平九郎…休庵の孫
岩森源蔵
荒川大学信勝…旗本
佐田国蔵
原田勘介…小兵衛の弟子
松平定信…白河藩主