シリーズ第四弾。
本書では秋山小兵衛をして怪物といわしめる笹目千代太郎という強敵、そして、無名ながら小兵衛と互角の技量を持ち合わせる人物が登場します。
この二者との対決は本書の見所といえるでしょう。
また、本書で「仕掛人」とおぼしき人物も登場しています。
「剣客商売」が「仕掛人・藤枝梅安」に時代が先んじていることから、当然梅安が登場するわけではありません。
ですが、ここで仕掛人とおぼしき人物を登場させたのは、秋山小兵衛が長寿である設定を考えると、晩年の小兵衛と壮年期の梅安が競演する可能性を念頭に置いてのことだったのではないかと思ってしまいます。
内容/あらすじ/ネタバレ
雷神
秋山小兵衛の弟子・落合孫六が小兵衛に許しを得にやって来た。なれ合いの試合をしてよいかというのだ。つまり八百長の試合である。
かつて孫六が奉公していた播州竜野・脇坂淡路守の江戸留守居役をつとめる花田新左衛門からのもちこまれたものである。小兵衛は、それで孫六の剣が役に立つならと許す。
そして、試合の日が来るが…
箱根細工
小田原に住む秋山小兵衛の昵懇の橫川彦五郎がかなり重い病にかかっていると聞いて、小兵衛は息・大治郎に見舞いに行ってもらうことにした。その橫川彦五郎は箱根へ湯治に出ていると聞いて、大治郎は箱根に足を伸ばす。
その途中で、大治郎は浪人とすれ違った。宿に着き橫川彦五郎に挨拶をすませた大治郎は、すれ違った浪人が同じ宿にいることに気が付く。
この浪人の目的は一体…
夫婦浪人
小兵衛は「鬼熊」で久しぶりに飲もうと思った。その「鬼熊」で小兵衛は変わったものをみる。いわゆる男色の男の別れ話である。捨てられたとおぼしき男は山岸弥五七といった。そして、捨てた方の男は稲田助九郎という。
小兵衛は何となく山岸弥五七と親しくなるが…
天魔
外見はやさしげな若者だが中身は怪物、と小兵衛をしていわしめる笹目千代太郎。その千代太郎が小兵衛を八年ぶりに訪ねてきた。
小兵衛は千代太郎の登場に危機感を覚えていた。そしてそのことは当った。小兵衛と昵懇の間柄である牛堀九万之助のもとに千代太郎が現れた。そして門人が三人やられたのだ。
その後、千代太郎は小兵衛に果たし合いを申し込んだ。そして大治郎がまず先に千代太郎と対決することになった。大治郎はどのように対決するのか?
約束金二十両
神田明神社・門前に立札が立てられている。それは雲弘流・平内太兵衛重久と名乗る剣客が書いたものだった。
これを見た佐々木三冬は大治郎とともに、この平内太兵衛重久を訪ねてみる。そして、その剣技を見て、二人はたたかわずして負けを覚り帰ってきた。そのことを聞いた小兵衛が興味を持って、平内太兵衛重久を訪ねる。
この平内太兵衛重久は急ぎで二十両を必要としているらしい。しかし、一体なぜ?
鰻坊主
珍しく、秋山大治郎が一人で「鬼熊」で飲んでいる時のことだった。店先に五十両落ちていたといってきた坊主がいる。しかし、これは騙りであった。大治郎はこの坊主を以前見たことがあった。
そのことを父・小兵衛に話すと、折良く来ていた鰻売りの又六が、自分のとなりに住む善空という托鉢坊主に似ているという。
突発
秋山小兵衛が煙管師・友五郎に新しい煙管と頼もうとして向かっている時のこと。その頃、友五郎は医者の山口幸庵から「死病に取り憑かれている」といわれ、事実やせ衰えていた友五郎は死を覚悟していた。
この日も、山口幸庵から同じようにいわれ、遺言はないかといわれていた。しかし、この幸庵は友五郎の後妻・おたよとできていた。
老僧狂乱
秋山大治郎が見覚えのある老人が橋から身投げをした。この老人は無覚和尚といって、大治郎が諸国遍歴の修行の旅の途中で大変世話になった人物である。その人物が身投げするほどに思い詰めていたこととは、寺の寄進の金を盗まれてしまったということだった。
本書について
池波正太郎
剣客商売 天魔
新潮文庫 約三四〇頁
短編集
江戸時代 田沼時代
目次
雷神
箱根細工
夫婦浪人
天魔
約束金二十両
鰻坊主
突発
老僧狂乱
登場人物
雷神
落合孫六
花田新左衛門
上田源七郎義通
箱根細工
橫川彦五郎
橫川彦蔵
夫婦浪人
高野十太郎
稲田助九郎
山岸弥五七
天魔
笹目千代太郎
約束金二十両
平内太兵衛重久
おもよ
鰻坊主
善空
突発
友五郎…煙管師
おたよ
山口幸庵…医者
老僧狂乱
無覚和尚
小山田左京